第2話 スキル玉使う!

 颯は拾ったスキル玉を眺めて、これをどうするか?を検討していた。


 これを使える人ってどんな人なんやろね?


 実は、颯も高校卒業後に2年ほど、探索者シーカーを職業にしていた時期があった。

 ほとんどの人が一攫千金を夢見て、一度は通る道である。


 颯も探索者になって2年目、運良く一度だけドロップしたスキル玉(鉄)を使用しようとしたが、出来なかった経験がある。

 結局、探索者協会の販売所で売却した。

 80万円で買い取ってくれたので、臨時収入にはなったが、同時に探索者をやめた。


 なぜか?


 スキル玉(鉄)すら覚えられない人自体がものすごくレアケースだったのだ。

 全国ニュースになるくらい。

 一時期、逆の意味で、ちょっとした有名人になった。


 くそー!嫌なこと思い出したわ!


 なんで、俺だけスキル覚えられないんだよ!

 あれさえなければ、俺も探索者を続けてたのかなぁ……。

 って、俺はまだ未練があるんだろうか?



 颯が虹のスキル玉を片手に物思いに耽っていると急に部屋の扉が開いた!


 バタン!


「お兄ちゃん!」


「わーーーーーーーーーーーっ!」


「なんで、そんなにビックリしてるのよ?

 私の方がビックリするじゃない!

 それより早くお風呂に入っちゃいなよ!」


「桜!急に入ってくるなよ!」


「何回もノックしたよ!」


「え?そうなの?」


「そうだよ。全然返事がないから。

 また、お風呂も入らずに寝たのかと思って呼びに来たんだよ。」


「あー、ちょっと考え事をしてて……。

 わかった。風呂に入るよ。」


「私はもう寝るからね。おやすみ。」


「おー。おやすみ。」


 バタン!



 おー!やってしまった!

 下手こいた〜!

 ウォーーーーーーーー!


 落とし物のスキル玉(虹)!


 なんと!


 なんと!

 

 たぶん……使用してしまいました〜(泣)


 というか、なぜ?

 今回に限ってスキル玉が使用できてしまうのよ!

 スキル玉が右手から消えちゃってるし……。

 何かが体に入ってきた感覚があったし……。


 どうすんの、これ!

 えらいこっちゃ!


 返せ!って言われても、もう返せないよ。

 しかも、億越えは一生かかっても払えない。


 念のため、ステータスオープン!


〈ステータス〉

 橘 颯 24歳 探索者LV3

 生命力:35

 魔法力:30

 戦闘力:15

 防御力:15

 瞬発力:15

〈スキル〉

 なし

〈隠しスキル〉

 マイ・ダンジョンLV1

  →ルームLV1


 やっぱり、スキル取ってる……。

 もう!どうするの(泣)

 


 いや!俺は悪くない!

 あのスキル玉の所有者は俺だ!

 ということにしとこ……。


 このことは、誰にも言わずに墓場まで持っていこう。


 うん、それしかない。それしか……。


 その日は、風呂に入り、寝た。



 ◇◇◇◇◇



 次の日、届けるものは無くなったが、原付に乗って、探索者協会の川崎営業所に来ていた。


 ちなみに日本探索者協会は本社を東京丸の内に構える完全国営企業である。

 全国に4つの州支社があり、ダンジョンが存在する各場所に各営業所がある。


 1.北日本州支社

 (北海道・東北合併)

 2.東日本州支社←ここに川崎営業所がある。

 (関東・甲信越合併)

 3.西日本州支社

 (東海・北陸・関西合併)

 4.南日本州支社

 (中国・四国・九州・沖縄合併)


 ちなみに、この時代の日本は数十年前に〈日本合衆国〉と国名が変わっていて、上のように地方合併した4つの州から成り立っている。

 いわゆる昔に議論された道州制の発展型が4州制という形で成立していたのだった。



 話を戻して、颯はまず協会の掲示板を確認。

 虹玉についてのニュースはないな。よし!


 次に販売所でスキル玉コーナーへ。

 当然、虹玉なんて置いてません。

 金玉ですら、置いてないんですからね!

 銀玉、銅玉、鉄玉を眺めてたが、いろいろ種類があるんだね。

 とても高すぎて、当然買えませんけどね。


 うーん、やっぱりもう帰ろ。


 颯が協会から出て駐輪場に向かう途中、前方からやって来た人物に声を掛けられた。


「あれ?颯?」


「え?あー、しずかか。」


 高校の同級生だった桂木 しずか

 小さい頃に母親同士が仲が良く、よく遊んでたが、俺の両親が亡くなってからは、学校で挨拶する程度の仲である。

 ただし、ほかのやつと違って、俺のことをゆでたまごと呼ばない珍しいやつだ。


「久しぶりだね。

 こんなところでなにしてるの?

 探索者復活するの?」


「まさか!しない、しない。

 ちょっと暇つぶしに来てみただけ。」



「静〜!誰と喋ってんの?

 おっ!ゆでたまごじゃん!久しぶり!

 もしかして、スキル玉見てるの?

 超ウケる〜!いいじゃん!」


 こいつは、坂本朱美。

 同じく、高校の時の同級生。

 静と仲がいい。

 というか、朱美が一方的に静にまとわりついてるだけだが。

 彼女は裏表の無い性格と派手な容姿で、周りからは誤解されやすいみたいだが、たぶん純粋(天然おバカ)なんだろうと思っている。

 静もそんなようなことを言ってたような気がする。だから気にせずに無視。


「朱美!その呼び方やめなよ。」


「えー?ごめん。」


 静に怒られて、なんかシュンとしてるな(笑)



「あれー、珍しいやつがいるじゃん!」

「ほんと、使えもしねえスキル玉買いに来たのか?」


 こいつらは、尾張勇太と三河春生だ。

 俺を見つけて、めちゃくちゃ馬鹿にしてる。

 会いたくないやつに会っちゃったなぁ。


 この4人は、高校時代の1軍メンバー。

 探索者シーカーとしても優秀で、もっとも接点のない奴らです。

 今からダンジョンに入るんですかね?


 話すこともないんで、黙って立ち去ろうとしたんだけど……。


「おいおい、ちょっと待ちなさい!

 なぜ無視する、ゆでたまご!」


「ほんと、なぜ無視する、ゆでたまご!」


「「わっはっは!!」」


「そういう子には、お仕置きだね!」


「ほんと、お仕置きだね!」


 うわー。近づいて来たよ。


 バキッ!バキッ!


「がっ!あ゛ーーーーーー!」


 痛っー!こいつら、何してんだよ!

 しっぺで両腕がパンパンに腫れ上がったぞ!

 これは骨が折れてるかもしれん。まじかよ!


「え?しっぺでこんなになっちゃうの?

 やっぱダセーな。

 お前、探索者レベルいくつなんだよ?

 なあ、ゆでたまご。」


「ほんと、ダセーな。ゆでたまご。」



「やめてよ!もう、こんなところで!

 問題起こさないで!

 ヒール!ヒール!颯、大丈夫?」


 あれ?もう、痛くない。

 静のヒールすげーな!


 でも、俺はすでに涙と鼻水とで顔がぐちゃぐちゃになってる。

 おしっこもたぶんちょっと漏れてる。


 俺の悲鳴を聞いて周りに人が集まってきた。

 そして、俺のぐちゃぐちゃな顔を見てヒソヒソと話をしている。

 それが、一時期有名になった、あの『ゆでたまご』とあって、動画を撮るやつまで現れた。



 とにかく、逃げるぞ!



 颯はダッシュで駐輪場まで走る。

 あいつらは追いかけてこない。

 よっしゃ。このまま来るな!

 急いでヘルメットかぶって、原付にまたがり逃げるように脱出した。



 そして、いつものボロアパートに到着。

 2DKで家賃5万円。

 大家さんの好意で、親がいる時から値上がりしていない。


 今日は、もう疲れた……。

 部屋で大人しくしておきます。うー。

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