第20話 刈萩学芸高等学校

――2日目――


 目覚ましが鳴る。

 起きる。いい加減この目覚ましも耳障りになってきた。電池を抜いておく。

 恒例の朝のちゅ~。刹那、喪失感に項垂れる。毎朝抱いていたドッ君は犬養来未に人化ひとかしており、僕のルーティーンが乱れる。目覚めが悪いな。

 菜々野に遅いと言われて叩かれる。ありがとう愚妹ぐもうと。おかげで目が覚めたわ。お返しに朝食のウインナーを一本強奪……ではなく拝借する。

 食事中のリビングに来未も起きてきた。寝惚け眼を擦りながら「ご主人様と寝たかったです」と呟く。どうやら目覚めが悪いのは僕だけじゃないようだ。


 食事を済ます。歯を磨き、髪を解かし、コンタクトをつける。ワイシャツに袖を通し、年中クリスマスカラーのネクタイを締めたところで気が付く。


「あ、夏服だった」


 六月になって初めての学校であるとともに、今日から夏服に完全移行しなければならない。寒がり体質ゆえに併用期間ぎりぎりまでブレザーを着て行ったものだ。

 ぐったりとした動きでネクタイを外し、紺色のズボンを履く。千歳緑ちとせみどりの細いラインが入っているのが特徴といえる。


「忘れ物は、っとそうだ。手芸の買い出し」


 日曜日、どさくさに紛れて手芸店に潜り込み、調達してきた品だ。部費の引き落とし申請するためのレシートもレジ袋に入ってる。教科書類も抜かりない。


「「いってきまーす」」

「いってらっしゃいませ」


 製靴とリュックを背負い、来未に見送られながら菜々野とは別方向に家を出て学校に向かう。


 

 ――刈萩かりはぎ学芸高校。

 ここ刈萩市の都内に建立された私立の高校で、僕の通う学校だ。偏差値は公立に比べれば劣るものの、専攻できる教育カリキュラムが豊富、独特なものが多いことで有名だ。

 スタンダードな普通科。

 学問より美術、書道を主な教育科目とする芸術科。

 音楽の道を志す者が集う音楽科。

 科学の本質を探究する理系の溜まり場、創造科学科。

 などなど、2年次にはさらに細かいコースに進めるのだ。面白いというほかない。


 ちなみに僕は普通科で勉学に勤しんでいる。医者になるためにも常に高い成績を要求されるからだ。別に優等生なんかじゃないけど。


 バスで30分ほど揺らされてさらに10分歩けば聳え立つ我が学校に着く。

 計5階、教室や職員室がある本館。東側には3階建ての音楽館。さらに北側には部活棟。西側には音楽ホール、食堂、体育館が纏まって存在する。そして南側にはサッカー部専用のグラウンド。


 そんな環境の中、三連休明けの気怠い授業を3時間目までそつがなくこなしていくのだが……


「なあ、あの子メッチャ可愛くね?」「それな。なんか茶髪っぽいし童顔だししかも胸が割とある。でも体験授業って言ってたけどさ、それってこのクラスに入るの前提でしょ。なんでこの時期? もしかして前いた学校でなんかあったとか」「ちょっと男子、もうちょっとマシなこと考えてよ」「いやお前より断然かわいいから」「うっさい!」「あとで俺話しかけてみようかな」


「おいそこの三人。次喋ったら当てるからな」

「「「すんませんでした」」」


 ある一人の少女の存在によって授業中にも関わらずクラス全体が囃し立てる事態になっていた。その少女というのが私服姿で僕の席の右に座って数学の授業を受けているこ奴だ。


「じゃあ例題の(3)を……犬飼さん、答えられますか?」

「はい。x<3、8>x です」

「正解です」

「「「おぉ~~~~!!」」」

「あんだけかわいいのに頭いいのかよ! くう~!」「ぜってえ俺LION交換するわ」「わたしも話してみたいかも」「TOKTIKとかやってるカンジでしょ」「すっぴんマジ神なんですけど」「写真撮りて~」「あー俺も来未ちゃんの隣がよかったな~」「はいはい全員落ち着けー」


 ……なんでこうなったんだろう。




 ことの始まりは朝のHRからだった。担任が毎日披露する長々とした世間話をほんの数秒でやめたと思ったら突然、廊下から来未を連れてくるではないか。さすがに人違いかなと思って何回か彼女の顔を見直すが、やはり僕の知る来未本人だった。

 いやなんで!?


「えー、本日は授業見学ということでね。えー、こちらの犬飼来未さんがいらしてくださいました」

「初めましてっ。犬飼来未ですっ。えっと、不束者ですがよろしくお願いしますっ」

 

 クラス内がどよめく。男子はともかく女子にも印象は高くついたようだ。そのうちの天宮もいつになくはしゃいでいる。やるじゃん、と目線を送ってくる。

 

(いや知らない知らない!!)


 服装は昨日届いたばかりの私服。菜々野選抜の小豆色のジャンパースカートを白の半袖ブラウスに重ね、控えめな服装に止めている。膝が隠れるほどの長さなので露出は少ない。


「で、席は……鳩羽。お前の隣に机と椅子用意しとけ。犬飼さんはそこに座るようにしてください。教科書も見せてもらってください」

「「「!!??」」」

 

 再びどよめく。しかし混乱に満ちた様子だ。


「せんせー。なんで鳩羽の隣なんすかー?」

「彼女は鳩羽の従妹さんだ。見ず知らずの奴に教科書を見せてもらうのも気まずいだろ」

「「「えええええ!!????」」」

「いいな鳩羽ぁ~。あんなかわいい従妹がいたなら教えろよ~」「せんせー。わたしならフレンドリーに話せますよー」「いや俺もだし」「ウチも~~!」




 ――――ということで四時間目までこの状況なのだ。

 いや、常に誰かの視線に当てられるのがこんなに嫌だとは知らなかった。

 いつもクラスの話題にもならない僕が注目の的になるのだ。慣れない以前になりたくない。

 

 そもそも来未の容姿だけでも人が寄って集ってくるのに、予想外なことに授業の進度に問題なくついてこられるのだ。ぬいぐるみだったのになんで授業の内容が分かるのだろうか。


 ふと思い出したのは、荘兼寺の階段を上っている最中に三角比の暗唱をしていたところだ。まさか犬養来未は有無を言わさぬ天才なのかもしれない。


 クラスが騒がしいのに乗じてこっそり来未に聞く。


「なあ。来未はいつ勉強なんてしたんだ? もしかしてやってもないのに答えられたのか?」

「勿論していましたよ。と言っても、ご主人様の首に捕まって後ろから見てただけですけど」


 そうか。来未はぬいぐるみの時から自我があったんだ。

 普段勉強する時、常にドッ君の腕を僕の首に巻いて背負うような恰好でいる。その習慣は僕が退院してからずっと続けていた。

 つまり来未には一般教養知識を含め、高校の授業を理解できるレベルに達しているということだ。なんか我が子を育てた感あって涙腺がうるうるしてきた。

 加えて僕は学校の進度を越した予習もしているので、総合的に評価すると、この教室にいるほとんどの生徒より頭はいいかもしれない。


 そう考えると、来未がこの世界で生きていくにあたって必要な勉強は僕がわざわざ教えなてもよい。『来未タスク集』が予定よりかなり薄くなるため、安堵の息を漏らしてしまう。


「……とば。鳩羽! 生きてるか!?」

「は、はいぃ!!」

「なんだその間抜けな返事は。身内がいるからって気を抜くんじゃないぞ。集中しなさい」

「す、すみません」

 

 いつの間にか僕が当てられていたようだ。怒鳴ることなく注意するだけで済んだのは、せっかく見学しに来た来未に授業の悪い印象を与えないためだろう。

 ただこんな様子では授業に集中できない。落ち着ける状況ではないが呼吸を整えておく。


 しかし僕が注意されたことで、お隣の番犬が吠えてしまう。


「あのっ、先生! を悪く言わないでください!」

「「「…………ご主人様???」」」


 終わった……僕の学校生活。

 いくら勉強ができて教養があっても、人間の常識が欠けていることに気付いてなかったのだ。つい頭に手を当てる。


「おい鳩羽! それヤベー趣味だぞ!」「えー。鳩羽君って大人しい人だと思ってたんだけどなー」「ご主人様ってww」「ムリムリ! それはムリだわ!」「来未ちゃんかわいいなー」「俺のこともご主人様って呼んでよ!」


 云々。

 まあそうなるわな。男子女子に敬遠される苦い雰囲気に発展していき、集まっていた視線は辛辣なものに色変わりしていくのが分かる。

 クラスのみんなからすれば僕は従妹にご主人様と言うように強要している変態だということ。これだったらぬいぐるみ好きの変態って周知された方が絶対にいいなぁ。


 来未もこの空気が攻撃的なものだと気づいたのだろう。顔が真っ青になるも、必死に弁解する。


「で、ですから、修司君は怒られるようなことはしてなくてですね! が話しかけていたからなんです!」

「え? まさかのボクっ娘?」「鳩羽の性癖ヤバすぎだろ」「変わってるわー」「来未ちゃんかわいいなー」「え、こっち見てるんだけど! どうしよっ。ご主人様って言わされるーww」


 火に油を注いだようだ。ここまでくると彼女こそが異端だと思われかねない。まあ僕の趣味の影響だと考えているのがほとんどだろうな。

 蹴とばされたように低く唸る来未は威勢を完全に失ってしまい、眉を八の字に下げて俯く。


「うるさい! 全員静かにしろ。何度も言ってるが授業中だ。それと犬飼さん。別に彼を理不尽に起こったわけじゃないんですよ。自分が今どこの立ち位置にいるかを確かめさせたんです。ここは学習の場ですから。おいそこの三人、授業が終わったらこっちに来い」


 先生は荒れた場の収集を取り行い、ついでに来未のクレームを何気なく収める。

 

 そして四時間目終了のチャイムが鳴った。






 僕はそそくさと来未の手を引いて誰かに声を掛けられるより先に教室を出た。

 今から50分ほどの昼休みだ。


「……ごめんなさい。ボクが良識に欠ける言動をしてしまったせいで……ご主人様、を困らせてしまいました」

 

 誰も立ち寄らない静寂な廊下で頭を下げる。自らの発言が常識から逸脱していることを悟ったのか、人気を伺いながら口ごもった口調で喋る。


「まあ仕方ないよ。来未だってまだ人間になってまだ3日だ。半人前どころか初心者なんだ。ずっと僕の部屋に居たからな、社会を知らない状態なんだからさ」

「ですが、ボクがここにいると、あまり聞いても嬉しくない言葉ばかり浴びせられるのではないですか?」

「ぬいぐるみだったのに人を心配してあげられるなんてな。僕は大丈夫だよ。でも逆に来未が心配なんだ」

「な、なんでですか?」

「今のところ僕のせいで来未がおかしな言葉遣いをしてるってみんなは思い込んでる。けどそれが天性のものだってバレたら……」


 先を察したようにまた来未は難しい表情で俯く。

 どうやら人間関係から教えていった方いいかな。


「でもいつか馴染むことができるさ。人間は進化し続ける生き物なんだから」

「進化、ですか……?」

「ああ。だからそれまでは僕が来未に人間について教えてやるよ。どれくらいかかるかわからないけど、来未が人間として生きていけるくらいには、かな」

「人間の姿になっただけでは不十分なのですね」


 手を顎に当ててしばらく思考している。何を考えているのだろう。

 やがて自分のなかで納得がいったのか、瞳を全開に開けて僕の鼻先一寸まで詰め寄る。




「お願いします! ボクに、人と言うものを教えてください!」




 翠眼に吸い込まれるように僕は自然と首肯していた。


 恍惚に陥ったのだろうか。パーソナルスペースの侵害だと言って押し戻すことができない。


 窓を透過して照らす光はプリズムに当たったかのような色彩を生み出す。光は彼女だけを捉え、僕は影に引き込まれる。


 でも辛うじて口だけは機能するようだ。


「覚悟しとけよ。道のりは長いからな」


 案じた表情もすっかり笑顔になり、お互いに微笑む。


 そんな輝かしい空間に、聞きなれたしゃがれ声が割り込んでくる。


「正確には人間じゃなくて受肉した生霊だがな。とその飼い主も。大変だったな」

「颯汰!? どうしてここが……」


 居場所を予め突き止めていたかのような余裕の足取りで制服姿の荘兼寺颯汰が階段を下りてくる。 

 ここは昼休みに誰も通ろうとしない本館東棟の一階だ。本館の一階から専用の渡り廊下を通ってさらに二階へ上がり、廊下を突き当る。そこの階段を下りればいいのだが、徒労と言わざるをえない。直接ここに来る手段はなく、部活棟からでも二階まで行かないといけないからだ。


「ふんっ。この俺にかかれば霊能なしでも霊の気配は察知できんだよ。この手が疼くもんでな」


 右手を抑えて厨二っぽく振舞う。かっこ悪っ。でも実際、コイツは霊能力者なのだからツッコめないところがタチ悪いんだよな。


「今クラスの奴らが血眼になってお前たちを探している。わかってると思うが捕まったら質問攻めになるのは間違いないだろうな」


 来未がぶるっと身震いする。背筋の悪寒が拭えないのか、こちらをじっと見つめてはさっと僕の左腕にしがみつく。なんか起伏のある形が感じられるのですが……。


「そうだ。昨日言い忘れたけどなぁ、あんまぬいぐるみとかを一つの空間に密集させんなよ。来未ちゃんみたいに憑りついて、最悪受肉するかんな。とくに霊が住み着きやすい場所はやめるんだな」

「と言うと?」

「まあ家ん中っつったらそうだな、仏壇とか……」


 刹那、僕のポッケからLINOの着信音が鳴る。閑寂とした空間に霹靂がおちたようで、全員身体を強張らせてしまう。


「あっぶねえな……。まさかとは思うが、授業中は電源切ってたのか?」

「い、いや。すっかり忘れてたよ」

「一回だけですけど、一時間目の授業中に着信入ってましたよ?」


 じゃあそれでも気づかなかったのは来未を歓迎する祭囃子が絶えなかったからだろう。そっと胸をなでおろす。

 ちなみに我が校では校内でのスマホの使用は禁じられている。授業中に鳴ってしまえば取り上げられる始末だ。ちょうどこの颯汰というバカが天気予報アプリの梅雨入りの知らせで鳴らしてしまい、取り上げられたばかりだ。普通に笑ったわ。


 回想に浸るのもほんの僅か。LINOを人目を盗んで開く。


「あ、天宮からだ」

「げえ。よりにもよって嬢様かよ。アイツもかなり必死に探してたな。無視しとけ」

「いえ、どうやらボクたちに助け船を出してくれるようです」

「部活棟の三階、手芸部室だとさ。あそこで落ち合おうって」






「やっほー来未ちゃん!! よかった無事だったんだね! しゅーじんのGPS辿っても何階にいるかまでわからなかったから呼んじゃったー」

「く、苦しいです。こんにちわ。麻理さん」

 

 かくして指定場所である我が手芸部の部室に移動することができた。

 ドアを開けた途端に天宮が飛び出してきたのだが、来未と間違えて僕に抱き着いてきたのはただの事故だということで話題に触れないことにする。


 白を基調にした長袖のセーラー服。青碧せいへきの襟袖と紺色の膝上スカート、群青色のニーソックスを着こなす。かなり清潔感のある色合いの制服としても全国で見ても名が挙がるかもしれない。


「なんだ。天宮譲も来未ちゃんと面識あんのか?」

「げぇ。なんだ居たんだ、そーじん」

「げえ、ってなんだよ! つか俺のことそーじんって呼ぶのやめろ!」

「いーじゃん。荘兼寺、そうじん、そーじん。ちょうどしゅーじんと同じ語呂になるから気に入ってるんだー」

「「そっすか」」


 とまあ僕の友人大集合という感じだ。あまり天宮と颯汰が一緒になることはないが、この昼休みを消費しきるためにはここで籠るしかないのだ。

 しかし今は昼休み、本来は弁当や学食のパンを買って食っている頃だ。僕と来未の腹の虫が鳴り始める。

 すると颯汰も思いだしたように立ち上がる。


「そういえばお昼まだだったな。学食行ってきていいか?」

「いいけど、僕の分も買ってきて。あ、来未のも」

「? 颯汰さんはどこへ行くのですか?」

「学食。学生食堂だよ。食べ物売ってる場所。僕たちも昼食食わないと午後はキツいぞ」

「まあしゅーじんはお昼食べても午後の世界史いつも寝てるけどね」 

「ヘーイ、うっせえわ」


 とりあえず昼食代を颯汰に渡そうとポッケを探るがなんだか空ぶる。あれ、もしかして……


「もしかしてご主人様、お財布は教室ですか?」

「やつちまつたなあ」

「……お前やってんなあ。悪いけど俺、自分の分しかないんだわ」


 僕の責任とは言え、若干申し訳なさそうに言う。しまったどうしようかな。今からこっそり教室行ってみようかな。

 そんな思惑をしていると、後ろから天宮が僕の肩をポンポンと叩いてニコっと笑う。何か言いたいんだな。うん、さっぱりわかんないや。


「もうっ。しゅーじんはウチと交わした契りを忘れてない? あと二年先ではあるけどウチのものは好きなだけ使っていいんだからね?」

「は?」

「え、でもそれはただの作戦で……」

「しゅーじんが昨日のことをそう思ってるならそれでいいけどぉ、こういう緊急事態なのは運命共同体として何とかしてあげたいんだよ」


 「運命共同体」って。さすがに強調しすぎなのではと思うが、颯汰がわなわなと声を上げる。


「ま、まさかお前ら、できてんのか!?」

「あ、言ってなかったね。実はウチら、結婚しまーす!」

「婚約ですよね」「婚約だがな」

「そんな……修司が、彼女を作った、だと……!?」

「だから婚約だってば」


 たじろぐ颯汰。それを見て自慢する天宮。言っておくがこれが毎度お決まりの構図だ。覚えておいてほしい。


「ふふーん。だからね? しゅーじんと来未ちゃんはウチの懐で温めてあげるよ」

「懐? どいうこと?」

「だからー。昼飯代はウチが出してー。ついでにウチの懐の熱量で温めてあげる」


 なんか謎の言い回しが誕生しているのだが。

 でもこんな天使が降臨した時に言う言葉はただ一つ。


「「ア、アマミエル……!!」」

「お前ら息ぴったりだな。来未ちゃんに関してはそれ言うの初めてだろ」

「な、なんでしょうか……。勝手に口が動いた気がします!」


 ホラーやがな。まあ僕も当事者だからわかるんだけど。

 

 談笑に満ちる空間。しかしふと外からガサっ、という物音が聞こえた気がした。


「「!!?」」


 どうやら来未も聞こえたようだ。ギャーギャー騒ぐ二人を制して外を確認する。まさかクラスの奴らが突き止めてきたのか? ご苦労なことだが、見つかってしまえばそれこそ昼飯を食わせてくれないだろう。


 外から見えない程度に身をかがめ、そっと窓の隙間を覗く。

 外に面したバルコニーのような廊下を見渡すとちょうど窓の下の方にうつ伏せの女子生徒がいた。というか死んだフリじゃないだろうか。制服汚れるのによくやるなあ。


 まあ犯人の正体が判明したため、怯える来未に安全ということ知らせる。そして部室の前でこそこそしていた女子生徒のもとへ寄る。


「こんなところでなにしてるんですか? 


 死んだフリをしていた女子は参ったとばかりに身を起こし、制服についた汚れを払う。黒髪のおさげを肩まで伸ばした彼女は天宮と同じ目線で咳払いし、


「おっす鳩羽君。見苦しいところを見せてしまったね」


 手芸部我が部長こと張丘千暁はりおかちさとはドジッたような表情で笑う。

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