第8話 自覚
残り少ないであろう
下着も同時進行でチエックするため胸のサイズを測ってもらったがナノも先輩も羨ましいとこぼしてしまったくらいだった。
でも問題が一つ。
「先輩、さっきからお兄が見当たらないんですけど……」
ナノと
「うーん。まあ大丈夫じゃない? しゅーじんだし」
ナノの重い心配を軽く流してしまう。それもほんの一瞬考えて洋服を物色する手を止め、また楽しそうに鼻歌交じりに手を動かし始める。
「軽いですね……。思ったんですけど
手は止めず視線も向けずに答えてくれる。
「入学してほんのちょっとかな? 隣の席だったし。話しかけようと思えばもっと早かったんだけどぉ。まああの時は知らない人に話しかけるなんてウチには出来なかったし。そういえばこれは言ってなかったかもだけど、ウチがぬいぐるみ好きになったのもしゅーじんと会ったからでおっ、これ。
「え、ちょ、今の続きめっちゃ気になるんですけど!」
突然目の色を変えて見つけたワンピースを持って一目散に試着室に駆け出す。先輩の選抜ワンピース系多いな。
思い出話が先輩の
「今度はこ、こうやって着るんですか?」
「あれ、もしかして着たことないの? フフーン。そうじゃなくてね……えい!」
「ちょ、くすぐったいですよ~。手、手が当たって……」
「当たってるんじゃなくて当ててるんだよー」
試着室から聞こえる黄色い声と親父と化した声。一体何が起きているんだ……。
「先輩ー。程々にしてくださいよ」
「わーかってるってー。え、どうしたの?
中でガタッ、と響く音が聞こえる。
「え!?
ナノは迷わずカーテンを開ける。目に入ったのは着替え途中で肩をはだけてしまい、膝をついて苦しそうに
「なんで? ウチ、ヘンなとこくすぐっちゃったとか!?」
「え? どうしちゃったの!?
しかしナノたちの必死な呼びかけは届かない。閉ざされた目、固く握りしめられた拳、不規則に荒い呼吸、熱でもあるかのように顔が赤い。明らかに異常だ。
「お客様、どうかなさいました?」
近くにいた女性店員が異変に気付き、声をかけてくる。
「身内が倒れちゃって! すごい熱で苦しそうでっ!」
それを聞いた店員は胸ポケットからトランシーバーを取り出し、緊迫した声で何かを要求する。その後ナノたちに向き、しゃがんでは要件を手短に伝える。
「今すぐ担架をお持ちしますので待っててください! ここの医務室のベッドに運びます。診療と軽い応急処置くらいならできますからっ」
店員の速い口調と硬い表情にこの状況がいかに険悪な状況かを再認識する。そしてナノ自身の無力さを自覚する。
「私は医務室の者に伝えに行きます。大丈夫です。すぐに担架が来ますから」
女性店員は去ってしまった。もう一人の若い女性店員は状況に追い付いていないらしく、その場で狼狽している。
「と、とりあえず落ち着きましょっ。えっとどうしよ……。あ、氷持ってきますね!」
(落ち着けるなら落ち着きたいよ……! でもっ……)
ナノはこんな危機的な状況に人生に一度たりとも出くわしたことがない。苦しそうにしている人にまず何をしてあげるのかもわからない。ドラマとかだと人工呼吸器とか心臓マッサージをする場面ばかり流れるものだから正しい対処の基準が鈍る。教科書でなんて書いてあったかも思い出せない。
自責の念がこみ上げる。
「ごめんなさいっ……ナノ、何すればいいのかわからなくて……」
誰に対して謝ったのか。現在進行形で悶える
「
言葉短めにナノを叱る先輩。さっきまでとても楽しそうにしていた顔には見えない険しい表情だ。
「はい……」
目の前には
ふと考えてしまう。
(お兄がいれば…………)
危ないことには首を突っ込むくせに力不足の時は自ら考えようともせず、頼れる人のことだけを考える。
馬鹿だ。わたしは。
思考という手段を見失い、目に涙が滴る。こんな時に限って。
「ご……しゅ……」
突然
「
「ご主人……は……ど……」
「お兄……。そうだ電話!」
いつもは消音モードにして電話しても気づかないけど、かけないわけにはいかない。今のわたしにできるのはこれだけ。
「お願いっ。でて!」
でしゃばりだと思うけど、わたしだって何か助けになることくらいしたい。そんな偽善的な考えで行動しちゃ、ダメかな?
「
いつの間にか後ろから聞きなれたスマホの着信音が近づいていたのに気づかなかった。
全身の力が抜け、軋むほど強く握っていたスマホも手からするりと落ちる。
ナノの背後にお兄がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます