第47話
結果として、凪の心のブレーキはぶっ壊れてしまっていたらしい。
好きな人がすぐそばにいて、その人から同じ思いを返してもらえたら、付き合いたいと思うのが人間だ。
猛スピードで彼女に近づいて、結局本当のことを打ち明けられないまま恋人になってしまっていた。
だけどやはり黙っておくわけにはいかない。
時間が経てば経つほど、言いづらくなる。
何かきっかけが欲しくて、クリスマスに言おうと決意していたというのに、受験生の彼女は予備校があるとのこと。
受験生だから仕方ない。
また今度言う機会があるはずだと慰めながら、ホッとしている自分がいた。
まだ彼女の中で綺麗な天使でいられる事実に、胸を撫で下ろしてしまっていたのだ。
来年は一緒に過ごしたいと思うけれど、そもそも次のクリスマスまでこの関係は続いているのだろうか。
「これ、プレゼント」
「ありがとう…!」
クリスマス当日にもらってプレゼントは、可愛らしい花柄のマグカップだった。
凪が好きそうだと思って選んでくれたらしいが、雪美からのプレゼントであれば何だって喜んで受け取るだろう。
本当はあげようか悩んでいたが、自分しか用意していなかったら寂しいと思って、準備していなかったのだ。
こんなことなら買っておけばよかったと、後悔の念に駆られていた。
「ごめん、私用意してなかった…」
「別にいいよ。約束してたわけでもないし、そもそも私があげたかったんだし……」
「予備校がんばってね。遅いの?」
「20時くらい。嫌になるよ」
学校で彼女と別れてから、1人で帰路につく。
クリスマスの街並みはどこか浮かれモードで、昼間にも関わらずイルミネーションがキラキラと輝いていた。
「……綺麗だな」
今まではただの電飾だと思っていたそれに、ときめいている自分がいた。
この綺麗な景色を、彼女と一緒に見たい。
クリスマスは好きな人と過ごしたいという思いが込み上げて、悩んだ末にスーパーへ。
買い物かごを引っ掴んだは良いものの、普段買い物もしないため、どこに何があるかも分からない。
店員に何度も尋ねながら、ネットで調べたメニュー通りの食材をカゴに放り込んでいく。
重たいスーパーの袋を引っ提げながら、その足でケーキ屋へとやって来ていた。
「クリスマスケーキって予約してないとやっぱり難しいですか…?」
「さっきちょうどキャンセルの分が出たんですよ」
もしかしたら神様が、凪の味方をしているのかもしれない。
頑張れと応援してくれていて、だからこそ運良くケーキをゲット出来たのかも。
クリスマスプレゼントには普段凪が愛用している香水を購入して、急足で帰路についていた。
帰宅後すぐに料理を作り始めるが、全くの素人なため勿論手際はひどく悪い。
「あれ、難しいな……」
料理をしてこなかったツケが回ってきたのだ。18歳になるのだから、これくらい1人で出来る様にならないと。
きっと雪美であれば、メニューを見ずにちゃっちゃと作り上げてしまうのだ。
「……出来た?」
一人で試行錯誤しながら、見た目はそこそこ美味しそうなグラタンが完成する。
途中で何度も失敗してしまったため、気づけば予備校の終了時刻を迎えるところだった。
「あ、もうこんな時間…!」
エプロンを外して、大慌てで彼女が通う予備校へ向かう。
秘密を打ち明ける緊張と、好きな人とクリスマスを過ごせる高揚感。
ふわふわとした気持ちの中、ジッと入り口前で彼女が出てくるのを待っていた。
寒さで手を擦り合わせていれば、驚いたように愛おしい恋人が駆け寄って来てくれる。
「……待っててくれたの?」
「予備校だから仕方ないって我慢しようと思ったんだけど…やっぱりちょっとでも雪美と一緒にいたくて」
正直に告げれば、ギュッと手を繋がれる。
愛おしさを噛み締めながら、勇気を出して彼女を誘った。
「私の家、今日誰もいないの」
「え……」
「勉強の邪魔になるかなって、言うか迷ってて…けど、雪美が嫌じゃなかったら来ない?」
コクンと首を縦に振ってもらえて、胸がジンワリと温かくなっていく。
クリスマスに恋人が家に来てくれるなんて、こんな夢みたいなことがあって良いのだろうか。
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