第30話
どれだけこちらが絶望の淵にいるのか分からない彼女からの連絡。
振られてから数日しか立っていないというのに、あまりにも無神経すぎる呼び出しだった。
本当は行かないつもりだったというのに、愚かな雪美は心のどこかで期待していたのだ。
もしかしたら、あれから考え直して前向きに雪美との未来を見据えてくれてはいないだろうかと。
約束通りに夜の公園へ迎えば、他に誰もいなかったため、すぐに彼女の存在に気付いた。
街灯に照らされている姿もやはり美しくて、必死に忘れようとした感情が込み上げてきそうになる。
「……凪」
名前を呼べば、彼女が真剣な顔立ちで振り返る。
時間をかけて関係を修復したいと言ってくれるのではないかと、期待してしまうくらいには雪美はまだ子供だった。
しかし、人生というのはそんなに甘いものではなかったらしい。
意を決したように口を開いた彼女から紡ぎ出される言葉は、何とも残酷なものだった。
「……この間はごめんね…その…やっぱり前みたいな友達には戻れない?」
ここ数日ずっと泣いていたせいか、もう涙すら込み上げてこない。
期待するのにもう、疲れたのかもしれない。
「もう、いい…」
「雪美…」
「本当に好きだったから…顔見るだけで辛い……少なくとも今はまだ、友達になんて戻れない」
最後くらい笑ってお別れしたいというのに、口角はピクリとも動いてくれなかった。
「……来海、元気でね。幸せになってね」
本当は一緒に幸せになりたかった。
その願望を押さえ込めたのだから、雪美はまた一つ大人になれたのかもしれない。
背中を向けて帰る途中、当然凪は追いかけて来なかった。
しっかりと前を見据えていたいのに、気づけば目線は下がってしまう。
一度は成熟したつもりでいた恋心。
真っ赤に熟れるまで育ったこの想いを、一体どうすれば良いのだろう。
高校を卒業したため、この日以来2人が顔を合わせるどころか、連絡を取ることもなかった。
一瞬だけ交わった2人の人生は、それ以来交わる事もなく、別々の人生を歩むことになったのだ。
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