叔父との惜別 そして 始まり

【叔父の失踪】

そんな折、雪は近所の人が立ち話しているのを小耳に挟んだ。


「玄吉さん、このところちょっと変だよね。」

「そうそう、この間、何かブツブツ言いながら、ずぶ濡れで、靴も履かずに歩いていたわよ。そう言えば、両手に貝を持ってたわ。」

「彼の家の前を通った時に、何か大きな声で喚きながら、本とか貝殻を窓から放り投げたのを見たという人もいるらしいわよ。」

「前から変わったとこがあったけど、最近は拍車が掛かってきたわね。大丈夫なのかしら。」

「挨拶してもお辞儀くらいしかしないし。そう言えば、私、あの人と話したことあったかしら。」

「あらやだ、以前、村の集まりに呼んでみんなで飲んだ時に話したじゃない。」

「ああ、そんなことあったわね。でも、あの時、彼が一言喋って、私がその十倍くらい喋ってたから声も忘れちゃったわよ。」

「ひどーい。でも、確かに口数は少なかったわよね。ほら、よく言うじゃない、研究者肌?そういうものなんじゃない?」

「えー、でも、TVに出てペラペラ喋ってる大学教授とかいっぱいいるじゃない。」

「それじゃ、やっぱり変わり者ってことかしら。」

「そうなんじゃない。」


雪は二人に玄吉のことを話したくなったが黙っていた。それよりも、玄吉が本や貝を投げ捨てていたというのがすごく気になった。玄吉は部屋の中を整理することはあまりしないが、本や貝をとても大事にしていることは、何となくではあるが、雪にも伝わっていた。その大事なものを捨てるとはよっぽどの事があったに違いない。雪は一目散に玄吉の家に向かって走り出した。久し振りに走ったせいか、玄吉の家に着く頃には息が上がって、家に入る前に息を整えなければならなかった。


家の左手に広がる海に面した庭に、散乱した本や貝殻を目にした雪は、直感的に玄吉がいなくなったことを確信した。


「おじさん、どうして、、、。」


気を取り直して部屋の中に入ってみると、そこは悪意を持った侵入者が何かを探したかのように荒れていた。書類が散乱し、本があちらこちらに落ちていた。中には引きちぎられた本もあり、本の中の何かを探していたかのような有様だった。テーブルの上には、この家の中で数少ない金目のもの、といっても五年程前のタイプの古いパソコンがブーンという唸りをあげて動いていた。スクリーンセーバーがいくつもの貝殻の写真を数秒おきに写していた。その貝殻の大半はいつだったか玄吉が話してくれた世界の各地に棲息する貝だった。雪はパソコンの使い方はわからなかったが、キーボードに触れたらスクリーンセーバーが解け、英語で書かれた文章が映った。英語を読めない雪には何が書かれているのかは全然わからなかったが、”shell”という単語が”貝”を意味していることだけは知っていた。ある時、雪が玄吉に教えてくれとせがんで覚えたいくつかの単語のひとつだった。その画面を見つめながら雪は思った。この文章はきっと玄吉が書き記したものに違いないと。そして、慌てて足元に散らばっている書類に目を走らせた。すると、パソコンの画面に映っているものと同じような書類が何枚もあった。それらを拾い集め、端が折れているものは綺麗に直して、重ねた。部屋を出る前、振り返ってみると、窓から吹き込む海風が床に置かれた本のページをめくるようにはためかせていた。そこには玄吉の影も意識もない、寂しい空間がポッカリと浮かんでいた。


家に帰るやいなや、母親におじの消息を訪ねたが、面に困惑の色を浮かべた母は、ただ単に首を振るばかりで何も答えてはくれなかった。


その後もしばらくの間は村のあちこちで玄吉の噂が聞かれたが、元々付き合いの薄い玄吉に興味を持つ者は少なく、ひと月もすると噂話しはすっかり影を潜めていた。


雪は幼い頃から玄吉が好きだった。いつも玄吉に懐いて、纏わり付いていた。そんな雪を邪険にすることもなく、玄吉もなんだかんだと相手をしてくれた。といっても言い方はぶっきらぼうで、知らない人が見ると雪が怒られてるように見えることもあったらしい。そんなところも玄吉の心証を悪くしていたのかも知れないと知ったのは随分経ってからのことだった。


玄吉が失踪した直後の両親や村人達の会話では、いなくなる直前に取っていた奇怪な言動に関係するんじゃないかということだった。ただ、どこにどのようにしていなくなったのかについては誰も見かけておらず、何もわからなかった。雪はショックを受けた。仲の良い大事なおじがいなくなったことにショックを受けた。仲の良い大事なおじがいなくなったのに村の人たちがあまり悲しんでいない様子にショックを受けた。雪は何故か海で遊ばなくなった。


玄吉が家を出てから三年、雪は高校受験の季節を迎えていた。村から通える範囲にある高校に行くか、それとも那覇にある寮のある高校を受験するか迷っていた。そんな折、唐突に玄吉から手紙が届いた。差出人が” 海驢”(あしか)となっていたので母親が気味悪がったが、雪は友達の渾名だと嘘をついた。雪は知っていた。玄吉が” 海驢”が大好きだったことを。手紙には玄吉が海洋船に乗って元気にやっていることが書かれていた。


“俺が独力でやっていた貝の研究をオーストラリアの大学教授がやっていることは知っていたが、俺が結論付ける前に先を越されてしまった。しかも、知人から聞いた話では大学関係者が自分の持っていた貴重なデータをその教授に売り渡していたことがわかった。信頼していた関係者に裏切られて、目標も失って、何もかもが嫌になってしまって家を出たんだ。ただ、家を出てふらふらしてみたものの、何をやっても面白くない。そうこうしているうちに、気がつくと、いつの間にか大好きな海に戻ってしまった、ってとこかな。これから先どうするかわからないが、当面は船に乗って過ごすつもりだ。雪にだけはそのことを告げておきたいと思い、船が奄美大島に立ち寄った際にこの手紙を投函することにしたんだ。雪、やっぱり海はいいな。”


くしゃくしゃになった手紙にはおじの元気な姿が映っているようだった。


【水産学校への進学】


 雪は那覇にある水産学校を受験することにした。小さな頃から慣れ親しんだ海。おじがいなくなってからは避けるようにしていたが本当は海で遊びたかった。小学校の頃にはプロゴルファーになりたい気持ちが強かった。ただ、怪我をしてプロゴルファーを諦めざるを得なかった。一方、幼い頃から、海を感じている時の心の落ち着きや、玄吉から聞く世界中の海の話しにワクワクした気持ちは、今でもハッキリと心の中に棲みついている。その海への想いは玄吉と離れてからより強くなっていき、いつしか、将来海に関係する職業に就くものだと考える様になっていた。しかし一方では、玄吉がいなくなったことがいつまでも頭の中から消えず、進路の選択肢に海に関係するところを入れることを躊躇していた。玄吉から届いた手紙は、そんな雪の気持ちに踏ん切りをつけるには十分すぎるものだった。玄吉が元気にしていること、しかも大好きな海に出ていることがわかったいま、躊躇することは何もなくなった。水産学校のことを話す雪のことを、母は呆れ顔で見返した。


「うーん、玄吉がいなくなったから普通科に行くもんだとばかり思っていたんだけど、やっぱりそっちを選んだのね。血は争えないのかしら・・・。」


父親に反対されるかもしれないと思ったが、雪の知らない所で母が後押しをしてくれた。寮生活をするにあたりいくつか約束をさせられたものの、頑張って来い、の一言が嬉しかった。水産学校の試験を間近に控えたある日、雪は久し振りに玄吉の住んでいた家に行ってみた。荒れ果て、ぼろぼろになってはいたが、海がよく見える立地にあることは変わっておらず、車の少ないこともあって波の音が聞こえてきた。


“何で自分は海が好きなんだろう。おじさんはなんで海が好きなんだろう。”


“おじさんの研究ってどんなのだったんだろう、貝の研究って書いてあったけど沖縄の海に棲む貝なのかな。”


“そういえばおじさんが食べさせてくれた貝はいつも美味しかったな。お母さんが作ってくれるのも美味しいんだけど、おじさんのは美味しいだけでなく心が弾むような味だったな。”


”今頃どの辺りにいるのかな。”


家の脇にあった石の上に座り、雪は久し振りに海を満喫していた。まるで、この数年間の空白を埋めるかの様に、ゆっくりと、穏やかに、時が流れていくのを楽しんでいた。


受験を難なくクリアした雪は四月から那覇市内にある高校の寮での生活を始めた。初めてのひとり暮らしだったが、寮にいる同級生ともすぐに仲良くなり、寮母も優しい感じの人だったため寂しさを感じることはほとんどなかった。そもそも、勉強の量が中学に比べて半端じゃないほど多く、寂しさを感じている暇がないということもあった。


【親友 朱里 崇宏との出会い】


入学して二ヶ月、早くも暑い季節を迎えた頃、寮でちょっとした事件が起きた。同級生の朱里がコンビニで万引きをして店員に見つかったのである。担任教師が呼ばれて店に出向くと、しょげ返った朱里が店長の前で俯いたまま椅子に座っていた。盗んだものは缶ビール一本と泡盛の小瓶。店長や教師が問い詰めても何故盗んだのかは言わず、涙声で、”ごめんなさい、もうしません”と謝るだけだった。十分に反省している様を見た店側の好意で警察には通報されなくて済んだ。教師に連れられて寮に帰る朱里は、帰り道、一言も口を開かなかった。


三日間の謹慎が解けた翌日、雪は学校帰りに寮とは違う方向に向かう朱里を見かけた。ついて行くつもりはなかったが、反射的に足が後を追っていた。朱里はファミレスで髪の毛を金色に染めた上級生に会っていた。その上級生は、訳しり顔で話す同級生の話では、ほとんど学校にも来ておらず、この三月に卒業するはずだったのが留年して今年も三年生として在校しているらしい。

“そんな不良生徒と朱里がなぜ?”

朱里は背も高く顔の作りも整っていてぱっと見は派手そうに見える。ただ、性格はまじめでおとなしい女の子だ。しかも超がつくほどの初心だった。いつだったか、朱里が憧れてる先輩の話をした時、すぐに頬を上気させてモジモジしていた姿が雪の脳裏に浮かんできた。そんな朱里が不良の先輩と仲良くなるとはちょっと考えにくかった。

“きっと何かある”

雪は意を決して店の中に入っていった。


「朱里。」

「ゆ、雪ちゃん、どうしたの?」

「ん、朱里がこのお店に入るのを見かけたから一緒にお茶でもしようかなと思って入ってきちゃった。」

「朱里、誰だこいつ。」

「う、うん、同級生の雪ちゃん。」


二人のやりとりを見た雪は、朱里が嫌々ながらこの場にきたであろうことを確信した。


「朱里、そう言えば寮母さんが頼みたいことがあるから早目に帰ってきてくれって言ってたよ。用事も済んだ様だし、帰ろう。」

「おい、何勝手なこと言ってんだ。まだこっちの用事は済んでないぞ。」

「ふーん、それじゃ、朱里、用事が済むまで私もここにいるね。」

「お前には関係ない。とっとと消えろ。」

「あら、私がいたら何か都合の悪いことでもあるんですか。」


暫くの間、睨み合う二人の横で朱里は生きた心地がしなかった。


「ちっ、ったく、面倒くせえ奴だな。」

「おい、朱里、今日は許してやるが、明日までにきちんと持ってこいよ。」

「先輩、朱里をいじめないで下さい。」

「え、雪ちゃん、、、。」

「何のことだ。」

「朱里に無理な要求をしないであげて下さい。」

「朱里、お前、こいつに何か喋ったのか。」

「え、私は別に何も、、、。」

「朱里は何も言ってません。だけど、真面目で大人しい朱里が万引きをしたり、さっきも明日までに持ってこいとか、先輩が朱里に何か言ってるんですよね。そういうのやめてもらえませんか。」

「何だと、このやろう。」


再び睨み合う二人。朱里はその場の雰囲気に耐え切れず、目を瞑って下を向いた。ところが、その数秒後、朱里の予想とは異なる笑い声が聞こえてきた。


「ふふ、変な奴だな、お前。」

「えっ。」

「もういいや、面倒くせえ。」

「えっ。」

「朱里、お前、変なダチ連れてるな。貴重だぞ、こういう天然記念物みたいな奴。」


そう言い残すと先輩は店を出て行った。


「ふー、怖かったぁ。」


ゴクゴクと喉を鳴らしてコップの水を一気に飲む雪のことを、呆然とした朱里が見つめていた。朱里はすぐに事態を理解出来なかったが、問題が解決したであろうことが徐々にわかってくると、安堵のあまり、涙が溢れ、嗚咽を漏らし始めた。


「雪ちゃん、、、うっ、うっ、うっ、、、。」

「朱里、大丈夫。」

「う、うん、大丈夫。あ、あと、ありがとう。」

「ううん、それより勝手にあんなこと言っちゃったけど、大丈夫なの。」

「うん、多分これで終わると思う。茜先輩、あんな風を装ってるけど、幼馴染だし、わかってくれると思う。」

「え、幼馴染なんだ。ああ、でも本当に怖かったぁ、ほら震えがまだ止まらないよぉ〜。」


「茜先輩とは小学校の頃、とても仲が良かったの。3歳離れてるから中学校の頃はほとんど会わなかったんだけど、この高校に入って再会したら、いつの間にかあんな感じになってて。。。」

「それで脅されたの?」

「うん、最初はお金を少し貸してくれって言われて、私も懐かしさもあったし貸したんだけど、それがどんどんエスカレートしていって、、、。」

「それで万引き?」

「うん、どうしても断れなくて、、、。」

「早く言ってくれれば良かったのに。」

「うん、ごめんね。でも、雪ちゃんに言うと茜先輩が雪ちゃんにまで迷惑掛けるんじゃないかって思って言えなかったんだ。」

「そうだね。私も今日は勢いであんなこと言えたけど、不意打ちのラッキーパンチみたいなもんだしね。たまたま上手く行ったから良かったものの、下手したら二人ともどうなっていたかわからないよね。」

「え、そんなことないよ。堂々としていたよ。」

「え、それって私も怖いってこと?」

「あはは、そうかも。」

「酷—い。朱里なんて嫌いだぁ。」

「あはは、うそうそ、冗談だって。」


水産学校では船で海に出て行う授業がある。事故が起きないように万全の体制で行われるが、凪いで安全な日には海に落とされることもあると、先輩に散々脅かされていた。期待と不安が入り混じる中で行われた最初の授業では、予想以上に荒れる海で船酔いする生徒が続出した。雪も大きく揺れる甲板の上を右に左にフラフラしながら立っているのがやっとだった。そんな中、けろりとした顔で舳先を睨む生徒がいた。宮里崇宏、祖父が漁師をやっていて子供の頃から船に乗せてもらっていたことを知ったのは船を降りてからだった。普段は無口でどちらかというと地味な印象の男子生徒で、雪もそれまではほとんど会話らしきものを交わした記憶がなかった。


「おい、海藤、きちんと掴まってないと海に放り出されるぞ。」

「大丈夫だよ、私、バランス取るの得意だし、泳ぎも小さい頃から海で泳いで得意だから。」

「馬鹿、これだけ荒れた海に放り込まれたら、いくら泳ぎが得意でも海中に沈んであっという間にお陀仏だぞ。」

「それに、お前が倒れて怪我をしたり、海に放り込まれたりしたら、この船に乗ってるみんなが迷惑するんだ。この学校の生徒ならそれくらいわかるだろう。」

「それはそうだけど、、、。」


返す言葉を失った雪は、吹き殴る海風に掴みかからんばかりのその表情を食い入るように見つめた。ぶっきらぼうで愛想のないその表情からは、南の国の漁師というよりも北国のそれに近いなと雪は思った。


夏休み、東村の実家に帰っていた雪に朱里から連絡が入った。友達の父親がクルーザーを持っていて、クルージングに誘われたが、一人じゃ行きにくいから一緒に行って欲しいとのことだった。時間を持て余していたし、クルーザーにも興味があったので行ってみることにした。待ち合わせの場所に行って見ると朱里のほかに同じ学年の子が二人、それと場違いな感じで佇む崇宏がいた。聞いてみると朱里と崇宏の父親同士が知り合いで、父親から頼まれたと朱里が何故か弁解口調で説明した。

早朝に出航したクルーザーは小一時間ほどで慶良間についた。午前中はスキンダイビングを楽しみ、暑くなってきた昼間は島にある別荘、といってもマンションだが、そこで一休みして、夕方、陽が暮れる前に那覇に戻る予定だった。この日は曇りがちだったため、夏の厳しい暑さも若干弱まっていた。その分、遊びまわった雪たちは帰路につく頃にはくたくたになっていた。デッキで風を浴びていた雪も昼間の疲れが出たのか、頭が少しボーっとして油断した。船が波に跳ねた瞬間、自分でも体が浮くのがわかった。しまった!と思ったが伸ばした手は何も掴めず空を切った。と、その時横から何かが抱きつくようにして体を引っ張った。勢い余ってデッキの床に転がるように倒れこんだとき、横に誰かが立っていた。崇宏だった。


「馬鹿野郎!海を甘く見てると酷い目に遭うぞ!」


きつい一言にむっとした雪は、怒ってそのまま船室に入っていった。ただ、少しして気持ちが落ち着いてくると、いけないのは自分であり崇宏には感謝しなければいけないと思い始めた。しかし、その後、何となくきっかけを掴めないうちに船は港に着いてしまった。船を降りて途中まで一緒に帰るとき、何も会話をしない雪と崇宏の様子を変に思った朱里は声を潜めて雪に聞いた。


「崇宏と何かあったの?」

「え、ううん、何もないよ。何で?」

「何だかさっきから二人ともギクシャクしているみたいに思えたの。」

「あはは、気のせいだよ。朱里の考え過ぎ。」

「ふーん、ならいいけど。」


交差点に差し掛かり、ようやっと崇宏が声を発した。


「それじゃ、俺、こっちだから。」


雪は、スタスタと歩き始めた崇宏を追い掛けた。


「宮里くん、さっきはごめん。それと、ありがとう。」

「お、おう。じゃあな。」


怒ったような照れたような顔で返事を返すと、崇宏は再び歩き出した。その後ろ姿を見送る雪の横で、朱里がぽかんとした顔で雪と崇宏を交互に見ていた。崇宏が去った後、朱里の家に泊めてもらった雪は朱里からの質問攻めに少しだけ、事実だけを話した。自分でもよくわからない、モヤモヤとした気持ちが心の中にあったが、何となく照れ臭く、朱里に伝えることは出来なかった。


朱里のベッドの横に用意してもらった布団に入り、電気を消して他愛もない話をしていた。その時、何気なく発した朱里の言葉に雪は聞こえない振りで答えなかったが、暗闇の中でも自分の頬が熱く、赤くなるのがわかった。


「崇宏は雪ちゃんのことが好きなのかも知れないね。」


夏休みが終わり二学期になると、授業は更にペースを上げた。船乗りの経験がある崇宏は、端で見ていてもどんどんと吸収して行くのがわかった。一方、小さい頃から玄吉に沢山の海の話を聞いてきた雪は、崇宏に負けると玄吉に申し訳ないような気がして、崇宏に負けるものかと頑張った。そして、そんな二人に置いていかれたくない朱里も必死になってついていった。しばらくすると、崇宏だけでなく、三人は海上での授業を苦もなくこなすようになった。そして、そうこうするうち、いつしか三人がひとつのチームのようになってクラスを引っ張るようになっていた。



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食の連鎖 寅蔵 @kotora999

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