02話.[これも彼のため]
「さっきも言ったけど誕生日おめでとう」
「おう、ありがとな」
またあそこに行っていた、あのときと違う点はいまが夜でキラキラしているというところだった。
本当なら一平的には緑を連れて行きたかったみたいだが、寝てしまったから仕方がない。
「またひとつ歳を重ねたのかー」
「生きられているということだ」
「だな、なんらかの理由で死んじまったら重ねることもできないもんな」
小学生のときに同級生が事故で亡くなったということがあった、そのとき関わったことはなかったのになんか悲しくなったからそういうことはない方がいい。
意識をしていても事故るときは事故るし、病気にだってなったりするからない方がいいと願うだけ無駄なのかもしれないが、俺はそんなことを繰り返している。
「『ここで一生を終えるのかな』って正秋は言ったけどさ」
「それでいいと一平は答えたな」
「まだ全然時間が経過していないからあれだけど、やっぱりそれでいいとしか思えないなって」
「なんとなく呟いただけだから」
そりゃ不満などがないならここで一生を終えることになっても問題はないよな。
人によって、そのときによって答えは変わるから仕方がないことだ。
「こうして何歳になっても正秋とここで話せていたらいいなってよく考えるよ」
「それは一平次第だ」
俺は大きな変化を望まないから自分が入れる会社に入社して定年まで働くだけだ。
全部の会社が同じ曜日に休めるというわけではないから合わせるのはそれなりに大変だろうが、お互いに会いたいという気持ちがあればいけるはずだった。
「俺次第かー、この先どうなるのかねー」
「来てくれればいつでも相手をする、昔からずっとそうだ」
「いやいや、たまには正秋も来てくれよ」
いつでも待っているだけというわけではない、待っているのに相手が全く来ないと不安になるからだ。
それなら近づいた方が精神的にいい、疲れることになってもそうだと言える。
まあ、それにしたって問題がないわけではないが、ひたすら待って傷ついているぐらいなら、という話だった。
「正秋が話しかけてきてくれると安心する、あのときだってちゃんと家に来てくれたから笑ったんだ」
「俺は基本的に断らないだろ」
それにしたって断れないからではない、俺はちゃんと自分の意思で参加している。
だったら友である一平としても安心できるだろう、まあ、俺だったら無理なら無理と言ってほしいだけだが。
「断らないからこそだよ、いきなり断るようになったら不安になるだろ?」
「一平でも不安になるときがあるのか?」
「おいおい、なんでそこで驚いたような顔をするのか……」
彼は柵に背を預けてから「俺なんて不安になってばかりだぞ」と答えてくれた。
一回もないなどと断言するつもりはないが、少なくとも俺よりは問題なくやれるだろうからと言っただけだった。
「部活だってさ、俺が誘ったばかりに断れなかったんじゃないかっていまでも考えるんだ」
「誘われて入部を決めたのは本当のことだな」
「怒られても顔に一切出さなくて、だけど逆にそれが心配になってさ」
「きっかけを作りたくなかったんだ」
全部顔に出してしまったらそうでなくても怒られているのにもっと酷いことになっていたことだろう。
だからそれは一応意識してしていたことだ、だが、別にあの部活だったからというわけではない。
どこにいたって同じような状態になったら俺はそうする、そのため、気にする必要は全くなかった。
「テンションが上がるとよく周りが見えなくなることがあるからなあ」
「転ぶことが何回かあったな」
「ありゃ恥ずかしかったわ、おまけに色々な意味で痛いしな」
物理的にそうなってしまうこと以外には特になにも感じていなかった。
テンションが上がると口が悪くなってしまうとかそういうこともないし、寧ろそういうときこそ優しく接することができていたからだ。
これは昔からいたからとかそういうことではない、友達贔屓というわけではないから安心してほしい。
「それなのに可愛い同級生や後輩ばかりだったなあ、『一平先輩!』とか『一平!』っていつも近づいて来てくれたもんなあ」
「大して上手くもない俺にも優しかった」
裏ではどうか分からないが表に出さないというだけで大人だった。
「って、話が逸れたな」
「悪く考えなくていいんだよ」
「正秋は俺に甘いな」
「普通のことを言っているだけだ」
さて、そろそろ戻るとするか、俺は別に泊まるつもりはないから荷物を持って帰るべきだ。
「じゃあな、風邪を引かないようにしろよ」
「正秋は気をつけろ」
「おう」
これまた急ぐ必要はないからゆっくり帰って、家に着いたら風呂に入った。
出たら歯を磨いて部屋へ、一平が沢山食べさせてきたから腹がやばい。
ただ、全く関係ないのかベッドに転んだらすぐに眠気がやってきて、気づいたら朝になっていたのだった。
「震えるぜ、俺の右手が!」
「そんなに寒いか?」
「寒いっ、耐えられない……」
手が冷えると若干書きにくくなるからそのことで不満に感じるならまだ分かるが、まだ少し冷えるだけで寒いまではいかないから微妙だった。
これも人によって違うから聞くだけに留めておく。
「緑は全く問題ないのになんで俺はこうなのかねえ、誕生日だって同じ月なのに」
「寒いと考えないようにしてみるのはどうだ?」
「よし、試してみるか」
どうやらなるべく移動しないことで対策しているみたいだった。
邪魔をするのも悪いから昼になっても近づいたりはしなかったのだが、
「これ意味ねえわ……」
結局、本人が諦めて近づいてきたから相手をする。
「これだけ人間がいても寒いからもう無理だな、はっはっは」
「着込む……ことはできないしな」
ブランケットとかそういうのも、いや、使用することができるのだから寒いなら使用すればいいか。
恥ずかしがっている場合ではない、自分のためにもそうするべきだ。
「緑がいれば手を握ってもらって暖めてもらうんだがなあ」
「はい」
「ま、待て、それはどういうつもりで差し出しているんだ?」
「俺も一応生きているからな」
「俺らが手を繋いでいたらやばいだろ……」
必要ないみたいだから今日も母が作ってくれた弁当を食べていく。
いつでも同じ内容というわけではないからそれだけで楽しめる、美味しいから食べ終えた後の満足度も高い。
あまりやったことはないが今度同じように作るか、そうしたら少しだけでも楽をさせてやることができるよな。
「一応言っておくとここは教室じゃないぞ」
「教室じゃないから問題になるんだろ、こうするためにしているみたいに見えてしまうだろ?」
「そうか」
しかし、美味しいせいですぐに終わってしまうというのが微妙な点だった。
誰かが一緒にいるときにぼうっとするのは相手が一平とはいえ失礼な気がするし、
どうやって過ごしていればいいのか悩むから。
「ま、正秋っ、手、貸せよ」
「はい」
「……んー、これは試合前試合前試合前……」
あれは握手だ、手を繋いでいるわけではないから違う。
なんとなくじっと見ていたらなんか勝手に慌て始めた。
急いで弁当箱を広げたり、ポケットから取り出した飴をこっちにくれたり、彼はツッコミ待ちなのだろうか。
「離せばよかっただろ?」
「あっ!」
片手で器用に広げたものだ、中々できることではない。
「きょ、今日は緑が作ってくれたから美味いなー」
「緑は優しいな」
「だ、だろ? 羨ましいだろ?」
「俺は一平がいてくれればいい」
「ぶふ!? ごほっ、ごほっ」
落ち着かないみたいだから黙っておくことにする。
ちなみに意識して慌てさせているというわけではなかった。
正直なところを吐いただけだ、だから俺が悪いというわけではない。
それでも少しぐらいは申し訳ない気持ちになったのでまだ一度も飲んでいないボトルを渡したら彼は一気に飲み干した。
「し、死ぬかと思ったぜ……」
そうなる可能性もゼロではないから大袈裟というわけでもないか。
普通に苦しいし、これもなるべくきっかけを作らないようにしなければならない。
「おい正秋!」
「おう」
「あ、い、……変なこと言うのやめろよな」
「事実だからな」
同級生ということでかなり楽だ、これがふたつ年下とかになると大変になる。
まあまず異性という時点でかなり違うが、これも俺に問題があるだけだから勘違いしないでほしかった。
「あと緑のことを避けるな」
「避けてはないけど、ふたりきりにはなりたくないな」
「なんでだよ? あんなに可愛い子は他にいないぞ?」
「上手くできないからだ」
兄の友達というだけだから緑にとっても必要ないことだろう。
変える気はないからこの話はやめて結局外でも見ておくことにした。
雨というわけでもないし、雲もないから奇麗な青空が広がっている。
「なんか心配になるよ」
「心配してくれてありがとう」
「それ、絶対に間違ってるぞ……」
俺がこういう人間のままなら心配していてくれるだろうかとまで考えて、ありえないということで捨てることになった。
迷惑をかけたくない、迷惑をかけるぐらいならひとりになった方がマシだ。
一応相手のことを考えて行動できる人間なんだ、だからここだけは変えなくてもいいはずだった。
「ま、俺が見ておいてやればいいか」
「無理するな」
「いや、正秋こそ無理するな、困ったらどんどん言えばいいからな」
困っていることなんてなにもない、気になっていることならあるが。
それは友達がいるのに昼休みに俺と過ごしていていいのかということだ。
俺に文句を言うならいいが彼が文句を言われるようなことになるのは嫌なためはっきりと聞いてみると、
「問題ないぞ」
と、根拠もないようなことを言ってくれた。
予想できていたことではあるが、ほとんど予想通りの結果になるとそれはそれですぐに返事ができなくなるということを知った日となった。
「えっと、つまり一平に興味があるということだよな?」
「うん」
「じゃあ行けばいいんじゃないか? あそこにいるぞ?」
「それができないから頼んでいるんだよ」
だからって今回もやはり友と盛り上がっている友を連れてくることは……。
放課後でいいかと聞いてみたものの、いますぐがいいということらしかった。
仕方がないから集団に近づく、そうしたら友がいち早く気づいてくれた助かった。
「悪い、ちょっと行ってくるわ」
やっぱり一平は最高だな、中々いないだろこういう存在は。
「正秋の方から来てくれるなんて今日は雨が降るかもなー」
「邪魔して悪い」
なんとなくあのまま言うことを聞かなかったら敵になる気がして言うことを聞くしかなかったんだ。
自分を守るために行動してしまった、全部が全部悪いわけではないが……。
「気にするなよ、それで?」
「あの女子が――あれ、いない……」
教室内を見回してみてもあの女子が見つかることはなかった。
だけどなんのためにそんなことをするのかが全く分からない、俺は確かに言うことを聞いて連れて行ってやろうとしたのに……。
「うんうん、慣れないことをしてちょっと恥ずかしいからそうやって言い訳をしたくなったんだよな」
「違うぞ、俺は確かに頼まれて近づいたんだ」
「頼まれたってなにを?」
「一平と仲良くしたいみた、い!? な、なんだよ?」
思い切り握ったってなにかが出てくるというわけでもないのに。
実は友と話しているところを邪魔されてむかついていた、とかだろうか、もしそうなら実際に邪魔をしたわけだから謝罪をするが……。
「まさかそれが理由か!? せっかく正秋が自分から来てくれたと思ったのにがっかりだ……」
「頼まれたんだ」
「あ、次からは受け入れなくていいぞ」
「こんなこと何回もできないから安心してくれ」
グループがいるところから離れられたらほっとした、何故か友まで付いてきてしまったが。
誰にも見られていないのだとしても、悪口を言われていないのだとしてもやっぱり教室は苦手だ。
「ふぅ」
「別に俺の友達は気にしないぞ」
「一平がそう言うならそうなのかもな」
「昔からそうだったよな、小学生のときなんてすぐに逃げて先生を不安にさせていたよな」
あれもいい思い出ではないな、意識してやっていたわけではないが先生に迷惑をかけてしまったから。
俺は俺なりに真面目にやっているものの、残念ながらいい結果にはならないという連続で困ってしまう。
結局、生きているだけで自然とそういう風になってしまう人間だった。
「そんな顔をするなよ」
「どんな顔をしているんだ?」
触ってみても分からないなら聞くしかない、まあ大抵はなんかアホ面というかそういうのところだろうが。
「なんか悲しそうな顔だ」
「俺はすぐに迷惑をかけてしまうからだ」
「そんなこたあねえだろ」
一平は逆に俺に甘すぎる、どうすればこうなるのかが分からない。
こっちだって自分のできる範囲で努力をしてきたのにこれだ、元々のスペックの違いというやつなのだろうか。
「平嶋君」
「もしかして正秋に頼んだのはきみか?」
「うん」
「そうか、ならあっちで話そう」
連れ去られてしまったから少しだけ時間をつぶしてから教室に戻った。
それにしてもなんで逃げたのかというところだ、わざわざ俺に頼もうとしたわけだからイタズラ……なんてことはないよな。
となると、俺がすぐに動いてしまったものだから急に恥ずかしくなってしまった、というところだろうか。
「正秋、今日も一緒に弁当を食べようぜ」
「いいのか?」
「いいからいいから、正秋はもう少しぐらい緩くいかないとな」
現時点で緩いとは言わずに分かったと返しておいた。
時間もないし、延々平行線になりそうだったから仕方がない、が、仕方がないとは考えつつも授業中にはそのことでごちゃごちゃと考えてしまったという……。
「一平、俺はもう駄目だ……」
「諦めるなよっ、正秋ならまだ大丈夫だっ」
「いや、俺はもう駄目なんだ、じゃあな……」
「正秋ー! って、なにが駄目なんだ?」
そうではないと言ってほしくてぶつけているみたいになるから今回はそのことについては黙っておくことにした。
これまでだって何回かは隠したことがあるわけだし、たったそれだけのことでいまから俺らの関係がどうこうなることはない……と思いたい。
「あ、そうそう、今日決めたことがあるんだけどさ」
「あの女子に集中するとか? それとも、グループを優先するというところか」
だからこうして過ごせる時間は減ると、そう言いたいわけか。
これまでがおかしかっただけだから違和感というのは全くない、それどころかここまで優先してくれることに違和感を感じていたぐらいだった。
昔から一緒にいる友達だとしてもだ、優先したいことができれば普通はそっちを優先しているところだろう。
「違う、今度絶対に正秋に泊まってもらおうと思ってな」
「リビングにいなくていいなら別にいいけど」
「あったぼうよ、前も言ったように緑や母さんに協力されたら嫌だからな」
部屋にいれば彼の母が突撃してくることもあまりないだろう、緑は……何回も来るかもしれないがな。
緑だけならなんとかできる、得意ではない異性ではあっても年下という点がまだいいのかもしれない。
もちろんその中でなら、という話ではあるが。
「ただ、なんだそんなことかと感じている自分がいる」
「ん? はあ~、俺が正秋を放置するわけがないだろ」
物凄くため息をつかれているがこっちは別の意味ではあ~となっていた。
仕方がないというのはそうやって片付けようとしているだけ、できることならずっといてほしいに決まっている。
「義務感からか?」
「違う、俺が一緒にいたいからだ」
「優しいな」
これもまた中々できることではない、多分、俺にはできることではない。
「正直に言っておくと俺は一平に依存していると思う」
「お? 依存かあ」
「一平がいてくれれば問題ないと考えている時点でそうだろ」
俺が可愛い女子ならまだいいが、残念ながら可愛くない野郎だ。
よし、これならもうなるべく気持ちが悪いことを言っていけばいい。
迷惑をかけてしまうが、ここから先ずっと付きまとわれるよりいいだろう。
こういう極端な行動しかできなくて情けない、だが、これも彼のためだった。
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