第3話『真相・前編』
「──ねぇ。今日の夕食は何だと思う?」
「……それよりもずっと重要な事があるような気がしますが」
「まぁまぁ。助手も答えてくれたら、私も答えるから」
「……──でしたら、白米とか鮭とか」
「いいねぇ、ソレ。私もそれ好きだから、期待しちゃうな」
列車での夕食時──。
にも関わらず、そんなやり取りを続けているレインと雪那。
しかして雪那も、これまでのやり取りで慣れたからなのか、この場の空気に飲まれる事もなく、レインへと話し掛けた。
「──それよりも。私も答えたのですから、“この事件の犯人”について、教えてください」
「事件の犯人と言うか、誘拐犯と言うべきか──まぁそれは、これから話すとしようか」
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「──まず、この誘拐事件を紐解くためには、犯人とその手段に別れる必要がある」
「二つ、ですか?」
「まぁ、推理ものの基本だね。──もっとも、普通は証拠やアリバイなども必要になってくるだろうけど、少なくともこの誘拐事件に関して言えばそれはあまりにもナンセンスと言えよう」
雪那は、少し意味が分からなかった。
「──まず、この誘拐事件を紐解くために、その“手段”について話しておこうか」
「えっと確か、此処に来るまでの方法でしたっけ?」
「正しくはないが、間違ってもないけどね」
含みのある言い方。
事件の概要内容を知っているレインは、そう感じるのだろうか。
「──と、言いますと?」
「そもそも、連れてこられたという認識が間違っている」
「……」
「──そう、私たちは此処に連れてこられたという訳ではなく、引き寄せられたのさ」
連れて来られた訳ではなく、引き寄せられた、と。
「勿論これは、根拠のある話だ。──まず前提条件として、ここまでの記憶がない事については、引き寄せられた事である程度の片が付く。何せ、引き寄せられた際には、その記憶がある訳ないからな」
「そうなのですか!?」
「引き寄せるのなら、態々生身を持って来る必要がないからな」
「……もしかしてレインさんは、この世界が空想上のものと、そう言いたいのですか?」
「まぁね。その上、如何やら所謂電脳世界という訳ではなく、非科学的なもので作られた神秘的な仮想世界と言う方が近いかな」
確かに、これまでのレインの予想が正しければ、それこそ色々な派生がある事だろう。
しかし、レインがそれを選んだのには、ちゃんとした理由が存在する。
「確かにまぁ、私の意見は客観的に見て、かなりの穴だらけだろう」
「そうですね」
「……即答で自信をなくしそうになるが、今はいいか。──それを説明する前に、私が“ノックスの十戒”について話した事について覚えているか?」
ノックスの十戒と言えば、探偵小説におけるルール。
しかしてその前提条件は、運悪く他の客に中国人がいた事によって破綻した筈なのだ。
「(……破綻した? ──まさかっ!?)」
「もしかして、あの場に中国人がいたのは、偶然ではなく必然だった、と──」
一目見て分かる中国人。
果たしてそんな人物が、何処か別の世界にでも存在している特異的な状況の中で、偶然にも事件解決に動いているレインと雪那の前に、運良く現れるのだろうか。
いやそれは、隕石に直撃するよりも、確率の低い話だ。
「まぁな。おそらくはこの事件の犯人も中国語を知らなかったのか、挨拶なんて当たり前なものは存在しなかっただろ?」
「──ですが! これまでの根拠、明らかに推理の穴が大きすぎます」
「確かに。これでは名探偵どころか、探偵役ですら私は務められないだろう」
──だが。
その直後に出された二人の夕食は、白米と鮭などなど。
予想通り──。
それが何を意味するかなんて、分かり切っている事なのだ。
「──なぁ、雪那。人は未熟な根拠を積み重ねる事によって、正解へとたどり着くものだ」
「……」
「だからこそ、当事者である私なら、敢えてこういうべきなのだろうか」
「──犯人は君だ」
──ガシャァン! と世界が割れた音。
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