feline

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目を開けるとカーテンの隙間から薄い光が差し込んでいた。

その瞬間、静けさとともに体中の神経が危険信号かのように寒さが押し寄せてくる。

少しばかり起きるのが早かったらしい。

急いで毛布に身を埋めた。


もう一度寒さを感じたのは、ほどなくしてからだった。

僕は毎日休みのようなものだが、流石に起きることにした。昔は昼夜逆転の生活だったが、彼女と一緒になってからは随分まともな生活になってしまった。旧友に話したらきっと笑われてしまうだろう。

しかし、さっきから隣でアホ面を堂々と晒している奴が僕に手を回して離さない。

さしずめ抱き枕とでも思っているんだろう、仕方ないので少しだけ付き合ってやることにした。

が、彼女が用済みだと言わんばかりに寝返りを打ってきたので彼女の鼻をぺしっと叩き、ベットから降りた。


築何年か想像もしたくないアパートのに住んでいるわけだが、窓が半開きだった、こりゃ寒いはずだ。

そういえば寝る前に「窓閉めてくれな~い?」とかほざいてた気もするが、既に布団でのポジションを模索している僕に頼むのは、いささか愚問だと感じる。

そんなことを思いながら俺は日課である散歩に出かけた。


寒さが全身を包む、思わず身震いしてしまった。

アスファルトを突き破っている雑草には霜が、吐いた息は白く染まっていく。今はまだ秋であるという認識であったが、どうやら北風小僧は着々と勢力を拡大して冬将軍になろうと奮闘中らしい。

天には一年の中で二番目くらいに快適な季節をもう少し延長運転して頂きたいと要望しておこう。

いつものルートを通っているのに、世界というのはどんどん移り変わってく。左右から迫りくる山の木々は示し合わせたように一斉に色づいていた。上を見上げると少し染め上がった薄い青と、この時期特有と言えるような妙に薄っぺらい雲が数枚広がっていた。


誰かを追いかけるように田の上を赤トンボが飛んでいる。童心に帰り追いかけたい気持ちが出てくるが、ぐっと抑えて眺めておくだけにした。こういうとき追いかけないのが立派な大人というものだ。

しかし、私の年齢を大人と言っていいのか分からない。というか大人とは年齢で決まるものなのか。まず立派な大人とは何だろうか。一度も引いた事のない分厚い辞書を引けば出てくるのだろうか。はたして、答のある問いなのだろうか。

彼女はよく猫になりたいだとかそういうことを口にするが、猫もそれなりに大変な職業だと僕は感じている。どんな生き物でも同じように生を全うしているのだから、しんどさは変わらないだろう?

そんな事をぼけーっと考えられる僕は、随分暇なやつであることだけは理解できた。


小難しいことを考えるのはあまり得意では無いので全て忘れて、本日の朝ごはんを考えることにしよう。

本命、いつも通り。対抗、味噌汁に米を入れたやつ。大穴、秋刀魚。

心を少しばかり踊らせながら家に近付く。

香ばしい匂いがしてきた。これは大穴を当てたらしい、顔をにやけさせて意気揚々と帰路についた。


ふと自分の体を長い影が覆っているのに気づいた。

頭を空に向けると、そこには彼女がいた。

中々に怖い形相をしている、立ち方も相まっていつもより大きく見える。

その瞬間、僕の足は宙に浮き、そのまま彼女の顔が真正面に来た僕は思わず声を出してしまった。




にゃあ、と。

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