狩人の章

三人のハンター

狩りの夜

 暗い夜の森で、オオカミ型の魔獣の群れを追って駆ける、三つの影がある。彼らは魔獣を狩るハンターだ。賞金稼ぎ、傭兵などとも呼ばれる存在で、王都や村落を守護するガードとは違い、進んで石壁の外に出かける。

 魔獣とは悪魔の尖兵である。野生の動物が悪魔の力を得たもので、より凶暴さが増しており、積極的に人を襲う。特別に知能が高くなってたりはしていないが、数が多く好戦的なために、人間の動向を探るには打ってつけというわけだ。

 三人のハンターは連携を取り合い、魔獣の群れを追い詰めていく。飛びかかってくるものを斬り捨て、逃げるものを射止める。

 悪魔も魔獣も太陽を嫌う夜行性だ。夜にならなければ姿を現さない。必然的にハンターも夜間に活動することになる。

 ハンターになるための第一条件は、暗所を恐れず、夜目が利くことである。暗闇での戦闘に慣れていなければ、悪魔はおろか魔獣とさえも対等には戦えない。


「エーリック! 遅れるな!」

「分かってる!」


 先輩ハンターのマーシャルが後輩のエーリックに向けて怒声を飛ばす。


 三人のハンターの中で、エーリックは最年少の駆け出しハンターだ。鉱山の村ステンスタッドで生まれ育った彼は、魔獣ハンターになる以前は、鉱員である父親の仕事を手伝っていた。そのために暗がりに慣れているし、剣や斧といった近接武器の扱いも得意だが、ハンティングの経験に乏しく、弓矢の扱いを苦手としている。

 エーリックを新人としてチームに受け入れたマーシャルとイヴォーナは熟練の男女のハンター。二人は悪魔の侵攻で廃村となったステンスタッドで、唯一の生き残りのエーリックを発見して保護した。二人が何の縁もないエーリックの身柄を引き受けた理由は……言ってしまえば、なりゆきだ。


「エーリック、狙って!」


 三人で魔獣を追走している最中、イヴォーナはエーリックに不得意な弓矢を使うように指示する。効率を考えるなら自分で狙った方が早いのだが、これは実戦を兼ねた訓練だった。


「はい!!」


 返事だけは威勢よく、エーリックは小型のクロスボウで、逃げるオオカミ型の魔獣を狙撃する。全力に近い走行中に狙いをつけて撃つ。よく狙おうとすればするほど、狙いは定まらなくなる。

 やはりと言うべきか、エーリックは一射目を外した。ボルトは魔獣の頭の上を通り過ぎる。すかさず彼はボルトの再装填を行うが、その前にマーシャルが動いていた。


「ヘタクソ!!」

「ごめん!」


 マーシャルが放ったボルトは魔獣の後ろ足に突き刺さる。魔獣はバランスを崩して倒れた後、急に反転してエーリックに襲いかかった。

 今度は失敗してなるものかと、エーリックは片手でショートソードを腰の鞘から引き抜いて、そのままの勢いで振り払う。抜剣術の一つだ。

 刃が魔獣の下顎を切り裂いて、上顎に突き立つ。


(やった!)


 上手くできたとエーリックが思った瞬間、再びマーシャルの怒声が飛んできた。


「遅いッ!!」


 ショートソードで頭を貫かれて宙吊りになっている魔獣の胸部を、マーシャルは横からロングソードでえぐり抜く。そして大きな息を一つ吐くと、エーリックに説教をはじめる。


「気を抜くな!! トドメは心臓をくまで! 何度も言ったはずだ!」

「はい……」


 エーリックはすっかりしょげてしまった。会心の一撃に満足してしまい、追撃の手を緩めたのは事実。猛省しなければならない。

 落ちこんでいる彼にも容赦なく、マーシャルは魔獣を地面に転がして命令する。


「ぼさっとするな! 早く心臓を抜き取れ!」

「は、はい」


 エーリックは言われるままに、魔獣の体に手をかけた。

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