第5話 グリム&ドラゴンズ
赤ずきんが目の前に戻ってくると、眠り姫は再び話し始めました。
「私が昨日、徹夜して考えたのは『グリ娘』だけじゃないのよ!他にも数十個以上の名作が浮かんでるんだから!」
「いや、一つ目からクソゲーだったんですけど…」
「昨日、思いついた時は名作だったのよ!深夜のテンションなめんじゃないわよ!次々に名案が浮かんで、自分が天才になったのかと錯覚したわよ!…次に紹介するゲームもそのテンションで考えたやつよ。」
「駄作決定じゃないですか!」
「まあ、とりあえず聞きなさいって!今度のは面白いから!」
眠り姫はそういって自分のスマホを見ながら説明を始めました。
「プレイヤーはグリム童話のキャラクター達でパーティを組んで、ダンジョンに行く。敵と遭遇したらパズルを解いて攻撃する。ダンジョンのボスを倒したらダンジョンクリア、報酬が貰える。その報酬でガチャを引いたりできる。って感じのパズルRPGなんだけど、どう?」
眠り姫は、一通り話し終えると赤ずきんの方を見ました。そんな眠り姫の目を見て赤ずきんも答えました。
「…まぁ、確かに面白そうですね。今度のは、ちょっと惹かれるかもしれません!」
赤ずきんの返答に眠り姫は嬉しそうな表情を浮かべました。
「でしょ!流石、私って感じでしょ!」
「…でも、肝心なのはやっぱり中身じゃないですか?どんな内容かもっと詳しく聞いてみないと…」
「あら!結構乗り気じゃない、赤ずきん!そんなに聞きたいなら聞かせてあげるわ!なんでも質問して頂戴!」
眠り姫は自信満々な表情を浮かべながら、カモン!と手招きをしました。
「じゃあまずパズルって言ってましたけど、どんなパズルですか?」
「ナンプレよ!」
「ナンプレ?」
赤ずきんは戸惑ってしまいました。なぜなら、ナンプレのパズルRPGなど聞いたことがなかったからです。
「ナンプレってあの数字埋めていくやつですか?」
「そうよ!新しいでしょ!」
相変わらず自信満々な眠り姫に赤ずきんは困惑しました。
「いや、新しいかもしれないですけど…。それ、ちゃんとゲームに落とし込めるんですか?新しくても面白くないと意味ないですよ?」
「失礼ね!ちゃんと落とし込めてるわよ!プレイヤーは9×9のナンプレを全部埋めることができれば攻撃することができる!それでボスを倒せればダンジョンクリアよ!」
「いや、攻撃までの道のり長すぎませんか!?9×9のナンプレって結構時間かかりますよ?もうちょっとサクサク進むようにしないとみんなやらないと思います!」
「まぁ、根気はいるでしょうね。生半可な気持ちじゃできないと思うわ。私の作るゲームをただの娯楽だと思ってもらっては困るわ!」
「娯楽ですよね!?みんな休憩中とかにやるんですよ?これやったらただ疲労とストレスがさらに溜まるだけじゃないですか!」
赤ずきんの指摘に眠り姫は怪訝そうな顔をしました。
「うるさいわね!そんなに言うんならナンプレじゃなくて別のパズルにするわよ!えっと~…第二候補は…これね!」
眠り姫はスマホをスクロールした後に言いました。
「ナンプレじゃなくてミルクパズルにするわ!」
「ミルクパズル?それって…」
「絵の描いてない真っ白なジグソーパズルよ!300ピースのミルクパズルを一枚完成させれば攻撃が…」
「いや、だからそれじゃ時間かかりまくるじゃないですか!娯楽としてやってるのにプレイヤーのストレス溜まるだけですから!あと、なんで寄りにもよってミルクパズルなんですか!せめて、絵ありのやつにしてください!」
「さっきからうるさいわね!別にパズルなんてなんでもいいでしょ!」
「パズルってこのゲームのメインですよね!?」
「他にもっと重要な要素があるでしょうが!キャラクターはどんなだとか!一つのことにネチネチこだわってんじゃないわよ!」
眠り姫は、鼻息を荒くしながら怒りました。赤ずきんは、それに押されて仕方なくキャラクターについて聞いてみることにしました。
「わかりましたよ!じゃあ、キャラクターはどんなのですか?といっても、グリム童話のキャラを出すのならあまりオリジナルの要素は要らないんじゃないですか?」
「あなたわかってないわね〜。いい?今のソシャゲのキャラは独自の設定モリモリなのよ!元ネタが全然戦闘向きじゃないキャラクターとかはバリバリの戦闘キャラに魔改造されて描かれているのよ!」
「まぁ、確かに元は全く戦わないキャラが武器とか兵器とか持たされたりしてますね。」
「その通り!だから、私達も殺傷能力高そうな武器を担いで、禍々しい鎧着るわよ!ということで、赤ずきんの衣装を用意してきたわ!ちょっとこれ着てみてくれる?合ってるかみたいから。」
眠り姫はそういうと持ってきた衣装を赤ずきんに投げ渡しました。
急に衣装を渡された赤ずきんは、戸惑ってしまいました。
「えぇ〜!実際に着るんですか!?そんな必要あります!?ソシャゲのキャラってイラストレーターの方に描いてもらうんじゃないんですか?」
「描いてもらうにしてもモデルがいた方がいいでしょ!つべこべ言ってないで早く来なさい!さもないとあんたを合成素材用のキャラにするわよ!」
「…わ、わかりましたよ!じゃあ、ちょっと後ろ向いててください…。」
眠り姫が後ろを向くと、赤ずきんはゴソゴソと着替え出しました。しばらくして、赤ずきんが着替えている音が聞こえなくなり、「着替えました…」と声が聞こえました。
「あ、あの、眠り姫さん?こ、この衣装で本当に合ってるんですか?」
「は?合ってると思うけど?もう見ていいの?見るわよ。」
赤ずきんの返事も待たずに眠り姫は赤ずきんの方を振り向きました。
そこには、白色の制服の様な衣装を着た赤ずきんがいました。短めのフリルのついたスカートで、胸元には大きなリボンがついています。さらに、頭には馬の耳らしきものがあり、お尻には尻尾までついていました。
「ウ○娘ですよね!?これ!?」
「違うわ!グリ娘よ!」
「完全に馬じゃないですか!?っていうか、それだったら衣装間違ってますよね!?」
「う、うるさいわね!前座よ、前座!今から本番の衣装よ!ほら、こっちよ!さっさと着替えなさい!」
眠り姫は、再び赤ずきんに衣装を投げ渡しました。赤ずきんは、それを受け取ると渋々着替え始めました。
しばらくして、後ろから着替える音が聞こえなくなった眠り姫は赤ずきんに聞きました。
「もういい?」
「…はい。」
赤ずきんの返事が返ってくると同時に眠り姫は振り返りました。
「…うん。まぁそんなもんよね。」
眠り姫は、戦闘スタイルの衣装に身を包んだ赤ずきんを見て言いました。
そこには、赤色のシャツに紺色のアウターと長ズボンを着て、腕に包帯を巻き、肩に肩パッドをつけた赤ずきんがいました。
「これケンシロウじゃないですか!!思ってた戦闘スタイルと全然違います!!」
「戦闘といえばこういう服装でしょ。北斗神拳なめんじゃないわよ!」
「いや、別になめてないですよ!でも、なんかソシャゲのキャラってもっとポップじゃないですか!これだとめちゃくちゃ硬派な感じになります!思ってたのと違います!」
「もう~わがままねぇ、あなた。それならこっちでもいいわよ。」
そういうと眠り姫は別の衣装を持ってきて赤ずきんに投げ渡し、そのまま後ろを向きました。赤ずきんは急に投げられたその衣装を顔面でキャッチした後、眠り姫をジトっとした目で睨み、着替え始めました。
後ろから着替える音が聞こえなくなった眠り姫は赤ずきんに聞きました。
「どう?できた?見ていいかしら?」
「…はい。」
赤ずきんが返事をする前に振り向いた眠り姫は、着替え終わった赤ずきんをジロジロ見ながら言いました。
「まぁ、そんなもんよね。」
そこには、青色のアンダースーツ、上半身にアーマーを着て、手には白い手袋をして、肩には肩パッドをした赤ずきんがいました。
「これベジータじゃないですか!!さっきと同じでこういうのじゃないんです!!」
「こういうのでしょ、戦闘といえば!戦闘民族よ!これ以上にない衣装じゃない!」
「もっとポップなやつって言ってるじゃないですか!これじゃ戦闘が男臭くなるじゃないですか!」
「しょうがないわね~。じゃあ、これが最後の衣装よ。もうチェンジできないから!」
眠り姫はまた別の衣装を持ってきて、赤ずきんに思いっきり投げつけました。それはものすごい勢いで赤ずきんの顔面にヒットしました。
赤ずきんはその衣装を顔から取り、眠り姫を睨んで、そして着替え始めました。
「着替え終わったー?見るわよ。」
「…はい。」
もうすでに振り返っていた眠り姫は着替え終わった赤ずきんを見て言いました。
「うん、まぁこんなもん…」
「こんなもんじゃないですよ!!これじゃキン肉マンじゃないですか!!」
プロレスパンツを履いて体をできるだけ腕で隠した赤ずきんが叫びました。
「だから、なんでこういう男性向けの衣装なんですかぁ!!」
「女のキャラは露出多い方がいいでしょうが!文句ばかり言ってないでどれか決めなさいよ!」
「どれも嫌ですよ!こんな衣装着させないでください!もう二度と着ませんからね!!」
赤ずきんはそう叫び自分の服に着替え始めました。そんな赤ずきんを見ながら眠り姫は言いました。
「どれも着ないじゃソシャゲに実装できないでしょ!何着るかさっさと決めなさい!」
「どれも嫌ですよ!三つとも嫌です!」
「だったらどうす…あ!じゃあ、これでいいじゃない!」
眠り姫はそういうと衣装を引っ張り出してきました。
「あ…それグリ娘の衣装…」
「他の三つよりマシでしょ?」
「まぁ…他のやつよりは…。」
赤ずきんは渋々、その衣装を着ることに決めました。
グリム・クライシス! 正妻キドリ @prprperetto
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