第8話 空即是色


 正門が襲撃を受けた。しかもそいつはリペアシティ港倉庫で武器商人してる「ぬらりひょん」だ……どうにもきな臭い。俺は赫虎屋敷の本館に入ると。


「お前ら! 襲撃だ! 迎え撃て!」


 組織の二番手として下の者に指示をだす。無能力者どもは「はい! 空座さん!」とお辞儀をし、銃器を装備して正門の方へと駆け出して行く。


「さて……赫虎は……起こさなくていいか」


 最悪、赫虎会は赫虎さえ生きていれば存続できる。そういう組織だ。そのための生存戦略を考えるのが俺の仕事だった。そして頭を巡らせる。


「ぬらりひょんは傭兵まがいの仕事も請け負ってたはず。なら本命が別にいる」


 そこでふと、人間爆弾の実験の時に会った金髪の男が脳裏に浮かんだ。確か幼い少女を囮にして俺を攻撃してきた――


「つまりこれは報復……?」


 確かにあの時は赫虎が金髪を攻撃したりしていたが、そもそもリペアシティじゃ「ギャングに逆らう方が悪い」のは常識だ。だけど、相手は少なくとも一つ能力を持っている。それにビルを三角跳びで駆け上がった身体能力、赫虎の剣をかわした動体視力。あいつが敵だとしたら――


「もう一個の能力次第か?」


 あるとしたらだが、あいつが魔術一個の落ちこぼれなら、すぐに殺せる。しかし、俺が見たのは人間爆弾を吹き飛ばした熱線……。


「俺と同系統の魔術……?」


 俺の砲式空御カノンコントロールは汎用性こそないものの、威力や射程に自信がある。さらにもう一つの魔術、色即是空グラビティリベレイターで空から、つまり敵の上から攻撃できるというアドバンテージが取れる。

 俺はそのまま敵の侵入ルートを考える。赫虎屋敷は正門と裏門以外は高い壁に囲まれている。狭いビルとビルの間じゃないのだ。三角飛びなどできないから登れなどしない。あいつは空を飛ぶ手段は持っていないはずだ。ならば裏門一択。俺は屋敷の庭に出て空を飛ぶ。世界を俯瞰する。そして見つける金髪と幼い女が裏門に向かう所を。


「ビンゴだ」


 俺は腕をそいつらに向け撃ち放った。しかし――


「爆炎? 煙で状況が見えん……」


 仕方なく煙に向けて砲撃を追加する。追撃、追撃、追撃。そこで熱線が返って来た。


「は? 生きてやがる?」


 いまごろミンチだと思っていた奴らからの反撃、女が防御系の魔術師だったか? 不意打ちが完全に決まったと思っていたので油断していた。相変わらず煙が濃い。確認するためには近づかなくては――


「アドバンテージを捨てる馬鹿がいるかよ……」


 ここからは砲撃合戦だ。魔力が切れるまで続けてやる。


 ――ここで司門達が何をしていかに話は遡る。


「長い壁ですねぇ」

「壁から登れたらいい奇襲になるんだが」

「そもそもなんでこんなことしてるんでしたっけ」

「君を国家元首にするためだよ!?」


 そんなコントをしながら赫虎会の屋敷を壁伝いに進む司門とマリー。裏門が見えて来る。そこで司門が足を止める。マリーが背中に顔をぶつける。


「急に止まらないでください……」

「俺の予想が正しいならそろそろだ」

「なにが――わぷっ!?」


 その時、衝撃と煙幕が立ち上った。


「ほら来た!」

「なんですかこの煙!?」

「俺の滅塵爆破エクスプロジアの派生、灰煙放出スチームパンクさ」

「なんで今それを?」


 煙の中で司門は右手をマリーの頭にやる。ちゅうちゅう。


「だから! 事前に! 許可を!」

「まぁまぁ。いま砲撃が来たのわかったか?」

「え? だから今あなたが出したんじゃ」

「違う俺の灰煙放出は煙を出すだけの目晦ましだ。衝撃は別方向から来た」


 それこそ、空座の砲撃、司門は裏門に砲撃が飛んで来る事を予想していたのだ。司門も伊達にリペアシティでトラブルシューターなんて仕事はしていない。ギャングの相手も慣れている。戦い方。敵の行動予測などもお手の物だ。


「あの! 煙たいんですけど!」

「このまま、あいつの魔力切れを待つ」

「は!?」

「アイツは多分、空中からのアドバンテージを捨てない。でもそれはつまり、外部からの補給。加工人間などの補充は出来ないって事だ。待ってれば――墜ちる」


 煙に向かって延々と砲撃が放たれる。司門たちのあずかり知らないところだが今、空座は冷や汗を浮かべていた。魔力が切れてきた予兆だ。しかし空座は。


「加工人間……あんなものなくたって……」


 そう独りごちた。それはもちろん、司門たちに届くはずもなく。煙が晴れる事もなく。砲撃の頻度が落ちていく。司門はニヤリと笑う。マリーは煙の中で不機嫌そうだ。

 

 そして、その時は来た。


 空中の黒い点が下に落下した。それを灰煙放出を止めた司門が視認する。指を鳴らし。ガッツポーズを取る。


「おっしゃ! 墜ちた!」

「げほっげほっ! ああ、けむたかった……」

「思ったより早かったな。手持ちに加工人間を持っている事を予想して数時間は耐久するつもりでいたんだが」

「数時間!? あの煙の中に!?」


 マリーの顔が絶望に染まる。司門は苦笑いしながら。


「早く終わってよかったね?」

「ふんっ!」

「いてぇ!?」


 すねを思いっきり蹴られた司門。マリーはあっかんべーをする。


(……子供らしいところもあるのになぁ)


 そんな事を考えながら、司門は嫌がるマリーを引きずりながら裏門をくぐる。すると。


「おうおう、ご客人、何用じゃ」


 赫虎がそこに居た。

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滅塵爆破のグラトニー 亜未田久志 @abky-6102

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