第7話 銃撃無双


 軍用車両は街じゃよく目立つ。最西端までの直線距離をなるべく突っ切るもギャングどもの視線は集まってしまう。ぬらりひょんがそこで提案する。


「ここら辺からもう数を減らしておこうか?」

「……それがいいかもな」

「なんか物騒な話してますね」

「マリーさんは肝が据わってんだか怯えてんだか分からない時あるよね」


 軍用車両の後部が開く。そこにあったのは――


「――ミサイルポッドさ!!」


 小型弾頭が発射され、おそらく(そうおそらく)赫虎会の構成員であろうギャングたちを吹き飛ばしていく。


「相変わらず派手だねぇ」

「へへっ」

「おぇぇぇ」

「今度は車酔いか……」


 マリーがエチケット袋に嘔吐している辺りで、急ブレーキがかかる。


「ゲロが!? ゲロが顔に!?」

「落ち着け自分の吐しゃ物だ」

「それは可哀想じゃない? はいタオル」


 ぬらりひょんからタオルを受け取ったマリーはそれで顔を拭くも、それが灰で染まっていたことに気づき。


「灰が!? 灰が顔に!?」

「忙しいな!? っていうかなんで止まったぬらりひょん」

「いや、ほらアレ」

「ん?」


 そこにあったのはデカい平屋建てのお屋敷、デカデカと『赫虎会』と書かれている。


「えっ、もう本拠地?」

「いや~このお屋敷相当広いよ? 一日じゃ制圧出来ないと思うな」

「ぬらりひょん、火器の貯蔵は?」

「もち、十分」


 ヤマアラシ形態に変わるぬらりひょん。二人は拳を突き合わせて。


「俺とマリーは裏手に回る。正面突破任せていいな?」

「そういう依頼だろ? 伊達にワンマンアーミーなんて呼ばれてないよ。ギャングなんて戦場の兵士にくらべたら銃の扱いも分かってない雑魚さ」


 そう、ぬらりひょんは無能力者ながらにして魔術師が飛び交う戦場を一人で戦い抜いた猛者だ。そこにサイボーグ化の改造手術が加わり、彼には敵などいないかのように思えるほどだ。


「じゃあ、君達が裏に回るのを見送ったら、作戦開始するね」

「頼む」

「私、ちょっとトイレに……」

「あっ、それなら後部座席に――」

「ごめんなさい、嘘です」


 マリーは不承不承ながら司門へとついて行く。赫虎会の長い壁をつたい、その先へと。姿が見えなくなるまで見送るぬらりひょん。そして二人が角を曲がり姿が見えなくなってしばらくした後。


「さて、そろそろかな」


 ――飢えるヤマアラシが胎動する。


 赫虎会の屋敷の門が盛大に吹き飛んだ。


「さぁ、パーティーの時間だ」


 ギャングどもが集まって来る。どいつもこいつも一丁前にマシンガンを携えている。それに辟易するぬらりひょん、使い方もまともに知らない癖して威力だけで選んだんだろうと嘲笑う。ぬらりひょんはありとあらゆる武器を熟知している。魔術が絶対の世界で開発された時代遅れの武器を網羅して無能力者として魔術師を葬って来た。そんな彼が今更、ギャングの手下に撒けるはずもなく。


「こちとら赫虎会だぞ! なにしたのかわかってんのかテメー!」

「わかってるよ馬鹿。いいからあの世で社会貢献でもしてなよ」


 ぬらりひょんは一発でギャングの眉間をぶち抜く。黒山の人だかりが散り散りに逃げていく。


「はぁ? 一人殺されたら及び腰? なさけないなぁ。それにそっちに行かれると困るんだよね……っと!」


 ロケットランチャーを乱射して四方八方に逃げるギャングを始末する。このままじゃジリ貧だと思ったのか、軍用車両に向けて手榴弾を投げるギャングの一人。しかし。


「残念だけど、効かないんだ」


 サイボーグ。それは無能力者に魔術を与える実験の事。ぬらりひょんが与えられた固有魔術は『爆破耐性』。爆炎の中から平然と出て来るぬらりひょんに腰を抜かすギャング。


「さあ、全面戦争と行こうよ!」


 すっかり怯え切った雑魚ども相手に啖呵を切るぬらりひょん。そこに――


「お前、噂には聞いたことあるぞ。港倉庫で武器の売買をしてるってやつだろ」


 上空から声。空中に人が立っていた。


「やあ、君の名前は聞いてるよ。空座くんだっけ?」

「お前の名前も知ってるぞ。ぬらりひょん」


 視線がぶつかる。空座が手をかざす。ぬらりひょんの体が軍用車両ごと吹き飛ぶ。五メートルくらい転がってやっと止まった。


「砲撃の魔術か……耐性がなきゃ死んでたな」

「お前なにしにきた?」

「当ててみなよ」

「お前が赫虎会に喧嘩売って得られるメリットが思いつかない」


 それはそうだろう。空座の思考は結論へと達しようとしている。ぬらりひょんは彼に向けてライフルを向けた。相対するように手を向ける空座。膠着。


「どっちの引き金が早いかな」

「西部劇でもやってるつもりか?」


 ぬらりひょんは自分の心拍が高鳴るのを感じる。空座の砲撃を受けても自分は死なない。しかし明らかに引き金を引くより魔術のが早い。それを埋めるためには――

 ヤマアラシ形態に換装するぬらりひょん。ぎょっとする空座。


「一斉掃射だ――ッ!」


 白衣の下から生えた銃器の群れから銃弾の雨が天空に向かって放たれる。空座は砲撃でそれを撃ち落とそうとして、止める。彼は逃げた。掃射は空座をかすめて空へと消えた。


「戦略的撤退……かな? でも助かったのはどっちだろう」


 ぬらりひょんはまるで残飯にむらがるハイエナのように向かって来るギャングどもに向かって吠えた。


「これくらいで弱ったと思ってくれるなよ? まだまだ弾はあるんだぜ?」


 赫虎会攻略作戦開始。

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