第6話 人間武器庫
そこには無能力者にしてギャングにも警察にも属さず、一人戦うレジスタンスがいるのだという。そいうの名は――
「ぬらりひょん」
「だっさ」
「……」
ぬらりひょんはリペアシティの港倉庫に拠点を構えている。そこに向かうと。スキンヘッドの大柄の男が居た。迷彩のジャケットがよく似あっている。
「この人が?」
「いや違う。ぬらりひょんに通してくれ、シモンが来た。で通じる」
「あいよ」
大柄の男は倉庫の中に入ると、しばらくして。
「シモーン!!」
「ああくっつくなうっとうしい」
髪の毛を目線のところまで伸ばしただらしのない白衣の男が出て来た。先ほどの屈強な男と比べるとひ弱に見える。
「この人が人間武器庫?」
「ん? だれだいその娘?」
「後の国家元首様だ」
「なんと! そりゃ大変だ! お茶は切らしているんだよ……ガンパウダーでいい?」
「いいわけないでしょう」
ぬらりひょんはにへへと笑っている。司門は呆れたように苦笑した後、札束を取り出す。
「んん? なんだいこれは?」
「赫虎会にカチコミを仕掛ける。お前の戦力を借りたい。魔術を使えない雑魚狩りは全面的に担当してもらいたいんだが、これで足りるか?」
「驚いた! まさか君から個人的なお願い以外の正式な依頼が来るとは!」
「うるせぇ」
白衣の男はジャキジャキ! と音を立ててその服の下から大量の銃器を取り出す。まるでヤマアラシだ。
「ふむ、これだけで足りるかな」
「十分だろ」
「この人、何者なんです?」
「サイボーグ」
「は?」
魔術工学技術の発展は最近、著しい。その成果物の一つが改造人間だ。無能力者を魔術師と同じステージに押し上げる計画。それは順次、適合者に施され、世に放たれた。その内の一人がぬらりひょんだった。その旨をマリーに説明する司門。
「私が知らない事もあるんですね」
「マリーさんておいくつ?」
「レディに歳を聞くのは失礼ですよ」
「それよりさ」
ぬらりひょんが口を開く。前髪から目が覗く。口元は相変わらずにへらと笑っている。
「国家元首の話を詳しく聞きたいな」
そこで司門はマリーの魔力量の話や、この国の欠陥の話、それを是正できるかもしれない可能性、そのための名誉国民勲章の事を話す。
「すごいすごい! タダでも協力したいくらいだ!」
「ありがとよ」
「あまり私にプレッシャーをかけないでください」
「マリーはほら、お飾りだから」
「カチンときました」
マリーの膝蹴りが司門のみぞおちに入る。転げまわる司門、げらげら笑うぬらりひょん。
「私だって国家元首になった暁にはマニュフェストの一つや二つ」
「例えば?」
「……」
「あはは、国家元首様は思慮深いんだきっと」
まさかのぬらりひょんからのフォロー。マリーはぐぬぬと唇をかむ。司門は呆れながら。
「君を担ぎ上げようとしてるのは事実だけどさ、マリーには自由な生活を保障するよ」
「む」
「あれ? じゃあ政治は誰がするの?」
「俺」
「シモンが!? それこそ無理でしょ!?」
ぬらりひょんが大げさに驚く、心外そうな司門は後頭部を掻きながら、マリーを見やる。
「こんな小さな女の子に任せるよりはマシだろ」
「また膝蹴りをくらいたいようですね」
「ご勘弁ください」
「君達は良いコンビだね、うん、君達なら赫虎会にも勝てるんじゃないかな」
ぬらりひょんはにへらと笑いながら、指を鳴らす、すると黒いフードの男が虚空から現れる。ぎょっとする司門とマリー。
「彼は情報屋、僕の専属の。赫虎会の所在を聞こう。シモン、この札束使っていいかい?」
「あ、ああ」
札束から何枚からお札を引き抜くと黒いフードの男に渡すぬらりひょん。フードの男はぼそりと「赫虎会の本拠地はリペアシティの最西端にある」とだけ告げて消えた。
「え、そんだけ?」
「十分でしょ、最西端の一番でっかいお屋敷だと思うよ」
「そんな目立つんですか? ギャングって?」
「おのれの力を誇示したいってのはいつの時代でも変わらないもんだ」
ぬらりひょんがこほんと咳をつく。さらに両手を叩き、視線を集める。
「作戦内容を確認しよう。僕が陽動、無能力者どもは全員任せて。そして魔術師はシモン、君の仕事だ」
「ああ、それでいい」
「私は相変わらず魔力タンクですか、出来ればここでぐうたらしていたいのですが」
「マリーさんいないと俺はすぐにガス欠よ?」
「ちっ」
司門はその舌打ちを無言でついてくるという意思表示だと受け取った。ぬらりひょんが倉庫の奥に消える。
「なにしにいったんでしょう?」
「たぶん……」
ブロロロロロという駆動音、そこにはこの国の軍が保有している軍用車両があった。運転席の窓から身を乗り出してぬらりひょんが司門とマリーに向かって手を振って来る。
「さぁさ乗って、これで、リペアシティの最西端、赫虎会に乗り込もう」
「頼もしい限りだな、人間武器庫」
「こういう職業だからねぇ」
「この人、何者なんです?」
「元不良軍人」
軍用車両が発進する。三人を乗せて、決戦の地へと。
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