第5話 爆炎殺法


 窮地に立たされる司門とマリー。極炎火球メガロフレアは防がれた。ライアンはそこに悠然と立っている。


「君達はどうしてここへ?」


 攻撃された事など、無かったかのように話を再開する。


「あんたの首に懸賞金がかかってんだよ」

「君は賞金稼ぎバウンティハンターなのかい?」

「トラブルシューターだが、似たようなもんだ」

「ただのろくでなしです」


 マリーの毒舌が悪化している気がする。司門は何か自分は悪い事をしただろうかと思案する。


「ははっ! いいね。私に懸賞金! いくらもらった?」

「……まさか」

「倍払うから見逃してくれたまえよ! くっふふあはは!」


 とことん可笑しいらしい。しかし、倍貰えるのなら――いや待て。


「その後、俺らは指名手配犯か?」

「どっちみちそうじゃないのかね」

「あんたを殺せばお咎めなしだ。ここの警察は腐ってる」

「ふぅん、存外、頭は回るな」


 対話のターンは終わりだ。マリーの頭に右手を置く。相変わらずマリーはそわそわしているが気にしない。極炎火球分の魔力は充填した。

 対するライアンは壁に手をつく。


「そこにいると危ないよお嬢さん」

「へ?」

「ちぃ!?」


 司門とマリーの横の壁から杭が生えて来た。凄まじい速度。滅塵爆破エクスプロジアを小規模で発動させて杭を破壊する。先ほどの壁並の強度はなかったらしい。


「私の魔術は観察と構成再編ストラクチャリメイク


 それだけ告げると、床に手をつくライアン。壁が生えてこちらに迫って来る。前からも後ろからも。


「このままじゃサンドイッチですね」

「なんでそんな冷静なの……?」

「守ってくれるんでしょう?」

「当たり前だろ」


 天井を破壊し、屋上へと逃げる司門とマリー。サンドイッチにはならなかった。外なら多少の不利は減るはずだ。そう思った途端。柱が生えてきた。狙いはもちろん二人。下から次々と生える柱から逃げる二人。


「観察でこっちの位置を天井越しに把握してやがんのか!?」

「厄介ですね」

「離れたのは悪手か!」


 屋上の床、つまり五階の屋上を爆破し降りる。再びライアンと対峙する。


「おや、逃げるのはやめかい?」

「別に、あのままあんたの魔力切れを待ってもよかったんだがな」

「ああ……それなら心配いらないよ」


 ライアンは懐から赤い透明なパックを取り出す。それの封を開けると飲み干す。


「相変わらず不味いな」

「お前……!」

「どうした? 君とやってる事は同じだろう?」

「今の……なんです?」

「知らないかいお嬢さん? 加工人間さ」


 ギャングが売買している。外付け魔力。魔力を持つ無能力者を狩り、作り出されるそれをライアンは持っていた。


「さて、あと何個ストックがあると思う?」

「……さっき見たろ、この子の魔力量は」

「一億エルス、それがどうした。青年、君の魔術は酷く燃費が悪そうだ。私より先に尽きるのではないか?」


 反論、出来ない。ライアンは不敵に笑う。


「いや面白いな、意気揚々と向かって来た相手を叩き潰すのは。このまま潰れてくれたまえよ」


 完全に舐められている、司門は拳を強く握りしめる。爪が食い込み血が滴る。


「あんまりなめんなよ……!」


 拳の炎が宿る。比喩ではない。司門は爆炎を左手に纏っていた。ライアンは表情一つ変えず。


「それがなんだね?」

「俺の極炎火球を防いだ壁を出せ」

「…………いいだろう、遊んでやる」


 床に手をつき、壁を生やすライアン、お人好しか、興味本位か。それが仇になった。左手を振り抜く司門、それは壁を突き抜けライアンの顔の横を通り過ぎた。


「は?」

「第二ラウンドだ……!」


 ライアンは次々と壁を生やす。それを司門は左拳で打ち砕いていく。


「私の最高硬度の防壁だぞ!?」

一点特火クリティカルファイア、威力自体は極炎火球に劣るんだぜ? けど物を壊すならコイツの出番だ」


 爆炎を集中させる事で拳の貫通力を上げる。それが一点特火。範囲や温度では他の魔術に劣るが貫通力だけで見れば一番と言っていい。


「近づけさせなければいい!!」


 大量の壁、柱、杭が生えてくる。迷宮と化す署長室。二人は辺りを見回して。


「探すのは面倒だな」

「まとめて吹き飛ばしてしまえばいいのでは」

「いやだから一点特火でして……いや、この壁全部があの硬度なのか? 試してみる価値はあるか。魔力もらっていいか?」

「ちっ」

「肯定でいいんですよねマリーさん?」


 右手をマリーの頭の上に置いて、魔力を補充する。オーバーロード寸前まで貯めた魔力を爆炎へと変える司門。辺りを照らす小型の太陽。


「これが俺の魔術名の由来『滅塵爆破』……五階全部消し飛ばすから、マリー、俺から離れるな」

「仕方ないですね」

「ねぇ、なんでずっと上から目線なの?」


 小型の太陽を床に落とす。すると爆炎は広がり、辺りを焼き尽くす。壁の強度は、やはり、粗製乱造品。あっさり壊れた。焼き尽くされた迷宮の奥、魔力パックを吸うライアンの姿があった。司門もマリーの頭の上に右手を置いている。


「やってくれるじゃないか……」

「チェックメイトだ。大人しく死んでくれ」

「まだだ、まだ抗わせてもらう!」


 ライアンは足元からコンクリートの鎧を身に纏う。ファイティングポーズをとる。司門は呆れて。


「おいおい、今更、体術勝負かよ」

「君に勝ち目はないぞ、この鎧の硬度は最高強度! そこから繰り出される拳は鉄をも破壊する!」

「ああそうかよ、もういい死んどけおっさん」


 一点特火。クロスカウンターが決まったかのように見えた。しかしライアンの拳は司門には届いておらず、司門の爆炎を纏った拳はライアンの頭蓋を滅していた。


「任務完了か」

「おぇぇぇ」

「あっごめん」


 間近で人の頭蓋が砕けるところを見てマリーが吐いた。そんなマリーを抱えて、二人は警察署を後にする。その後、あの依頼料が司門の両親による自演であることが発覚したり、リペアシティ警察署本部に外部から新署長が来て、ライアンがギャングと癒着していた事を暴露したりでてんやわんやだったが、とりあえずは赫虎会へカチコミをかける準備は出来た。


「それで傭兵にアテでもあるんですか?」

「ああ、昔馴染みでな、人呼んで『人間武器庫』」

「うさんくさ」

「マリーさん?」

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