第4話 通常任務


 司門はマリーに視線を合わせて告げる。


「赫虎会にカチコミをかける前に資金調達だ」

「どうしてですか?」

「俺らだけじゃ心細いからさ、傭兵を雇うんだ」

「そのためのお金ですか」


 というわけで、依頼を待つ。そう、待つ。


「来ないんですけど」

「いつものことだ」

「ちょっと?」

「……」


 司門もマリーもぐうたらタイプだ。自分から動くという事をしない。そこで、だ。

 

「カチコミじゃあ!」


 司門母がトラブルシューター事務所に飛び込んで来た。


「あんたらに仕事よ」

「母ちゃんの仕事は薄給なんだよ」

「前金百万、成功報酬一千万」

「は?」


 机に百万が置かれる。二人は目の色を変える。


「俺達は何をすれば!?」

「腐敗警察の処理」

「……は?」

「リペアシティの警察本部を叩きなさい。所長のライアンを殺せれば成功報酬が出ます」


 ライアンと言えば腕効きの魔術師だ。一人につき二つまでの固有魔術を三つ四つあるかのように見せるという。強敵だ。しかしやらねば、赫虎会にカチコミもなにもない。覚悟を決めて二人は事務所を後にする。残された司門母。隠れていた司門父が出て来る。


「よかったの?」

「ああ、いいんだよ」

「私等の貯金じゃないのさ」

「息子のためだ、いいのさ」


 そして、出かけた二人に視点は移る。


「警察本部ってどこにあるんです?」

「都心部のさらに中心」

「うげぇ、ギャングの巣窟じゃないですか」

「ギャングに囲まれた警察ってのも変な話だよな。まあ赫虎会はいないから安心していい。それに警察とギャングは不可侵条約を結んでる。どっちかが襲われても、手は出さないっていうやつ」


 つまり、警察で騒ぎが被害が出ても周りのギャングは知らぬ存ぜぬという事だ。そして警察もギャングと同じで固有魔術を持たない無能力者で構成されている。魔術を持っているのはライアンだけだ。下っ端は司門がマーシャルアーツで対峙するとして。


「問題はライアンだ。滅塵爆破エクスプロジアだけでどうにかなるとも思えない」

「弱気ですね」

「だが、俺には第二形態がある!」

「は?」


 そんな事をくっちゃべってるうちに都市部の中心にたどり着く、煌びやかな街並みと比べて黒いスーツの人々が目立つ。ワンピースのマリーや革ジャンの司門は目立っていた。


「警察は銃を持っているだから、ライアンまでは直線コースで行く」

「どうやって?」

「マリー、王族の隠し子になってくれ」

「は?」


 つまりこういう作戦だ。桁外れの魔力量を誇るマリーの魔力を計測させ、王族の末裔では? という疑念を持たせ、魔術に造詣の深いライアン直々に調べにこさせる。という作戦だった。


「そんなに上手く行きますかね」

「一億エルスなんて普通いないからな、それなりの対応するだろ、それこそ裏取引とか」

「私を売る気ですか」

「人聞きが悪いな」


 黒いスーツの人だかりを掻き分けて警察署にたどり着く。白亜の建物だった。五階建ての建物。『リペアシティ警察署本部』の看板。黒いスーツの代わりに警察の制服を着た集団が居る。そこに突入する二人。


「どーも!!」

「うるさっ」

「なんだね君達」

「王族の隠し子をお連れしました!!」

「は?」

「まあまあこの娘の魔力量を計測してみてください。異常なのが分かりますから」


 マリーが司門の足を蹴った。表情筋一つ動かさない司門。警察官は訝しんだ後。


「魔力計測なら病院でやれ」

「此処には魔術に造詣の深いライアン署長が居ると聞きまして!!」

「声が大きいんだよ……分かった分かった……計測すれば満足して帰るんだな?」

「はい!!」


 機器の所に案内される二人。リングが上下する装置の真ん中にマリーが立つ。そして計測が始まる――すると。


「は? ちょっと止まれ止まれ!?」

「なんか装置が煙吐いてるんですけどー?」

「お分かりいただけたでしょうか? こんな事態、ライアン署長でしか解決できないと思うのですが」

「……分かったよ、話は通しておくから五階の所長室に向かってくれ」


 今のところ、とんとん拍子で話が進む。こんなスムーズでいいのだろうか。司門は少し不安を覚える。


「俺も保護者として同行しても?」

「身分証は?」

「はい」

「……トラブルシューター? 変な仕事してるな」

「あはは」


 うるせえ畜生という言葉を飲み込んで司門はマリーと共に五階を目指す。重々しい扉の目の前に来る。


「……なんか緊張してきた」

「おい戦闘班」

「マリーさん!?」


 扉を三回ノックする。「どーぞ」と声がする。扉を開ける。そこに居たのは顎髭を蓄えた初老の男性だった。なんだか豪華な制服を着ている。


「そこの少女がうちの計測装置を壊した王女様かい?」

「ええ」

「君は?」

「同行者です」

「ふむ」


 ライアンの目が赤く輝く。魔術だ。思わず臨戦態勢に入る司門。


「ああ、身構えないでくれたまえ、これはただの『観察』の魔術だ」

「……すいませんでした」

「いやこの街は物騒だ。君の判断は正しい。そして観察の結果だが、確かに彼女の魔力量は異常だ」


 ライアンが立ち上がる。つかつかとこちらに歩み寄る。


「だがそれだけでは王族の根拠にはならないな?」

「……正直、ここまでくれば後は、どうにでもなれなんでね」


 右手でマリーの頭に触れる。ちゅうちゅうと言う音がする。


「わひゃあ!? だーかーらー!!」

「緊急事態!!」

「なにかな?」


 左手を向ける。紫の炎塊えんかいを生み出す。滅塵爆破エクスプロジアの発展形、高威力特化、その名も。


極炎火球メガロフレア……!」

「ほお、これは興味深い」


 ライアンは床に手を付いた。すると床がせり上がり壁を作る。そんなもので防げるわけがない。司門は極炎火球を撃ち放つ。壁に当たる。すると――


「この壁の材質構造は変換済みだ」


 極炎火球が壁にぶつかり、焦がし、ひびを入れ、そして――霧散する。


「これで終わりかい?」


 マリーと司門はかつてない窮地に立たされていた。

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