第3話 国家元首
――俺は両親に恵まれた。けどこの街はどうしようもなく腐っていた。ギャングどもが我が物顔で歩く道が嫌いだった。虐げられる人々を助けたかった。でも幼い俺にそんな力なくて。テレビで見るヒーローに憧れた。
すると親父が、
「お前、もう少し大きくなったらトラブルシューターになれ」
と言った。
「とらぶるしゅーたー?」
五歳くらいの俺は首を傾げる。意味も分かっていなかった。
「お金を貰って人を助ける仕事だ」
親父はにこやかに笑う。
「きっさてんは?」
俺は問う。すると母親は
「お前は強い子だからね。きっとヒーローになれるよ」
なんて言ってたっけ。そして十歳になった日、俺に固有魔術が発現した。吸収と爆発。
「なんだお前、死にたいのか!?」
氷と炎の魔術。勝手に無能力者だと思っていた俺は戸惑った。少女は震えている。「消え去れ小僧!」
俺は右手を出した。氷と炎は「バクッ!」という音と共に消え去る。男が呆ける。俺は少女の手を取った。
「逃げよう!」
二人して雨の中を傘をささずに走った。男はしつこくおっかけてくる。氷と炎のおまけ付きだ。幼い俺は魔力のキャパシティーの上限が低かった。だから暴食籠手の使用回数も滅塵爆破の使用回数も限られた。それに人に向けて滅塵爆破を撃つなんて。しかし、行き止まりに追い詰められる。氷の壁だ。暴食籠手で喰らおうとするも回数制限が来ていた。あと使えるのは滅塵爆破だけ。少女は泣いていた。男は下卑た笑みを浮かべると「さあ帰ろう、アユミ」と言った。え? 俺は戸惑った。そして。「嫌だ!」少女の大声を受けて、俺の滅塵爆破が暴発した。今ならそんな事ないが、幼い俺は魔術の制御が上手く行ってなかった。放たれる熱線、消え去る少女の父。
「やった、やっと消えたのねあのクソおやじ……」
俺は、
「……君は自分のお父さんを殺したかったの?」
少女は一寸黙った後、こう言った、
「そんなわけないじゃない!」
その後、親父が調べ上げて分かった事だが、ギャングに借金したあの男は娘を売ろうとしていたらしい。それから逃げていたのだアユミちゃんは。俺が男を殺した事は事故として処理される事になった。昔からこの街の警察はザルだ。その日、俺は誓った。この街に少女の笑顔を取り戻すんだって。それから十数年経って今に至る。現実は変わらず。俺はぐーたらトラブルシューターをやっている。そんなところに舞い込んだのがマリーだった。彼女を見た時はアユミちゃんがデジャヴした。だけど事情を知って、チャンスだと思った。彼女は国家元首になれる。腐った世界を変えられる――と。
「もうあんな悲劇、二度と繰り返さないようにって」
「へぇ、そうですか」
「反応軽くない?」
「興味ないので」
マリーはつっけんどんに言うと俺から距離を取る。
「お話が終わりなら部屋に帰って惰眠を貪りたいのですが」
「いや、ちょっとは働こうね?」
「はぁ?」
「いやいやいや」
こんな子だったっけと思いながら司門は首をかく。自分の過去でも話せば、国家元首になる話に乗ってくれると思っていたが、一筋縄ではいかないらしい。
「じゃあ交換条件」
「場合によります」
「とりあえず話は聞こうか?」
「仕方ないですね」
再び司門の元へと近づくマリー。
その頭を左手で撫でてやる。
「なんですか」
「マリー、君が国家元首になったら、政治は俺に任せて欲しい、君は惰眠を貪っているといい。一生」
「それは……確かに魅力的ですね」
(どんだけ眠るの好きなんだよ)
コホンと息を吐いた司門はマリーの正面に立って屈み目線を合わせる。
「だから、この国を救う手伝いをしてくれ、君から両親を奪ったギャングもついでぶっ潰そう」
「……わかりました。のせられてあげます」
「…………チョロいな」
「なにか言いました!?」
「いえなにも!?」
マリーをその気にさせる事には成功した。だけど。ここからが勝負だ。
「国家元首選挙への参加権を得る方法は二つ、王族であること。そしてもう一つは」
「もう一つは?」
「名誉国民勲章」
「そんなものどうやって手に入れるんですか」
司門はちっちっちっとひとさし指を振る。その後。
「赫虎会」
と言って指をたたんで行く。
「なんですそれ?」
「この街のギャング! こいつが名誉国民勲章を持ってる!」
「へ? ま、まさか」
「俺達で。ギャングをぶっ潰す!!」
「……」
天空に拳を突きあげる司門、マリーは口を開けて呆けていた。
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