夢を失った男の日常

電車の、一両目に乗って


運転手の後ろから、線路を、見た。


迷いなく進む、そのスピードに


何故か、心は、怯んだ。


思わず、目を逸らしたら


隣の線路に、一人の少女が、歩いていた。


電車を追いかけて、走るわけではなく


ただ、ゆっくりと、足に食い込む石ころを確かめるように、歩いていた。


向かいから、隣の線路を走ってくる電車を見て


"彼女は、このまま歩き続けるのか。それとも、怯んで逃げるのか。"


頭の中が、その疑問で、いっぱいになった。


僕が乗る電車のスピードに、ついてこれるわけもない少女は、すぐ、見えなくなって。


僕は、車窓を覗き込むこともないまま、結末を、諦めた。


少女があのまま轢かれようが


あの後逃げ惑おうが


どうでもよかった。


シンクロニシティなんて、ありゃしない。


共鳴なんて、していたら


いつしか心は、混ざり合ってはいけないものが混ざり合って、汚く、壊れるだろう。


遠くから嫌に響いたブレーキ音だって、何故運転手がブレーキをかけたのか、僕は知る由もない。


関係のない、ことだから


想像だって、しようと思わない。


夢を失った男は、こうもからっぽになるのか。


冷めた自分を諦めながら、そう思った。

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