第489話

 翌日。

 ルキアたち聖痕者一行は、帝城で最も重要な部屋の一つに集まっていた。


 皇帝と高位貴族が国家運営や外交などの重要事項について話し合うための、極めて秘匿性の高い会議室。


 部屋はそれほど広くなく、大きなテーブルに空間の殆どを占拠されている。

 装飾性も薄く、調度品の類は皆無だ。継ぎ目のない大理石のテーブルと、よく似合った品のある椅子、あとは天井のシャンデリアだけが、部屋を飾る要素だった。


 部屋の中には八人しかいない。

 うち二人は給仕などを行う部屋付きの使用人だ。


 テーブルに着く六人は、誰もが例外なく重要人物。


 まずルキア、ステラ、ヘレナ、ノアの四人の聖痕者。ステラは王国代表を兼ねている。


 大陸の主要国家三つのうち、聖国からは代表者としてレイアール・バルドル卿が列席していた。相変わらずの鎧姿で、金色が目に痛い。


 最後の一人は厳めしい顔をした老年の男。総白髪に豊かな髭を蓄え、威厳と華やかさを備えた装いをした、この部屋の主人。

 この部屋も、城も、国も彼のもの。彼こそが帝国皇帝、オットー三世だ。


 参加者全員が席に着いたことを確認すると、挨拶もそこそこにレイアール卿が口を開いた。


 「事前にお伝えした通り、ご老公は長旅が御身体に障るため欠席とのことです」


 人類の趨勢を決めかねない重要な場に、人伝の欠席報告。

 普通なら眉根を寄せる者の一人や二人は居そうなものだが、無反応を貫く執事たちを除き全員が「まあ」と頷いて共感を示した。


 ご老公──聖国が擁する土属性聖痕者の老人だ。

 その身体は抗えぬ老いによって衰え、何週間もの馬車の旅に耐えられる強靭さを残していないという。


 聖痕者たちは大抵が人格の一部に問題を抱える──殺人行為に抵抗のない破綻者だが、老体を労わる心まで失くしたわけではなかった。


 レイアール卿は更に言葉を続ける。


 「それと、私は教皇庁代表代理も兼任いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。皆様方」


 今度は、ほぼ全員が眉根を寄せる。

 不愉快そうな視線の先にはレイアール卿がいるが、嫌悪感の宛先は彼女ではなく、彼女に代理を任せたという教皇庁だ。


 どういうつもりなのか。

 魔王復活の報を発しなかっただけでなく、それを糾弾する場にまで現れないとは。


 それはまるで──、


 「……え? それじゃ何? 教皇庁は人類に敵対したってことでいいの?」


 王族や先達相手には敬意を見せるノアが、聖国王に対して言葉を荒らげる。

 声色には不快感と、僅かながら敵愾心まで宿っていた。


 「それなら、私は「教皇庁代表代理」なんて言わず、「教皇庁を殲滅した者」としてここに来ていますわ、聖下」


 棘のある声に、黄金の騎士はにっこりと笑い返す。

 フルフェイスヘルムで顔は見えないが、声だけで表情が浮かぶようだった。


 レイアール・バルドルは聖国王にして騎士の王。人類陣営の最先鋒にして最後の盾と名高い、怪物級の戦士だ。

 そしてこの場ではルキアとステラしか知らないことだが、フィリップを守護する邪神の一柱でもある。教皇庁を殲滅するくらい、きっと造作も無いだろう。


 ノアも軽く頷いて納得した。


 「……それもそっか。レイアール卿もそうだし、あの喧嘩っ早いお爺ちゃんが堕落した教皇庁を許すはずも無いよね」

 「だが誠意に欠ける対応であることも確かだが……いや、白紙委任ということか?」


 ステラの声に驚愕が滲む。


 教皇庁もこの集まりが半ば弾劾目的であることは分かっているだろう。

 レイアール卿──聖国は国土内部に教皇領を有するとはいえ、無条件で彼らの味方をするわけではない。


 その相手に代理を任せての欠席。


 それは、被疑者不在の魔女裁判だ。

 教皇庁がカルト相手にやるようなそれを、自ら再現した。


 全面降伏。

 どのような判断、どのような罰であれ受け入れるという意思表示。以て──潔白の主張か。


 「その通りですわ、殿下。今回の件に関して、私は全ての情報の開示を受けました。それと同時に、全権を委ねられてもおります」

 「全権? それはそれは……」


 教皇と199人の枢機卿、その総意を、黄金の騎士は携えていることになる。

 一個宗教の最高意思決定機関を、彼女は今、単身で担っている。


 よりによって邪神が。戯れに、片手間に人類を滅ぼしかねない化け物が。


 「最初に、教皇庁からの謝罪と弁明、そして疑問をお伝えいたしましょう。今回の魔王復活を察知できなかったことについて、まずは謝罪を」


 謝罪を、と言いつつ、ヘルム越しの声は笑っている。

 彼女は教皇庁から言葉を預かっただけの、ただの伝言役でしかないのだと分かっていなければ、不快感を催す態度だ。


 「次いで弁明を。教皇庁が把握している封印された魔王の復活──活動再開には三つのプロセスがあります。第一段階は意識の覚醒。教皇庁は先代闇属性聖痕者、魔王の預言者であったエゼキエルを通じて、これを把握していました。ですが、この時点の魔王に現実的な脅威はありません。現世への物理的干渉を行える状態ではありませんからね」


 レイアール卿は淡々と語る。聖痕者たちの反応はまちまちだ。

 ステラとヘレナは当然のことと受け止め、ルキアは「そういえばそうだったわね」なんて顔をしている。ノアは「へぇー」なんて小さく呟いていたが、当然ながら彼女にも説明されている情報だ。


 「第二段階は肉体の再構築。冥界、或いは魔界と呼ばれる悪魔たちの本拠地に於いて肉体を再生し、力を蓄えるのだとか。そして第三段階、現世への顕現。これを以て、魔王の完全復活と見做されます」


 レイアール卿は一度言葉を切り、少しの間を置く。

 次に語るのはいま話したような前提情報ではないと、誰もが理解できた。


 「これらの進行は通常、魔王の預言者によって知らされます。しかし先代は聖痕を失い、既に処刑されました。であれば、今代の預言者がそれを知らせるはずなのですが……」


 再び言葉が途切れると、部屋中の視線が一点に集まる。

 言うまでも無く、今代の闇属性聖痕者であるルキアへと。


 自分と同等の強者たちの視線を一身に受け、ルキアは平然と肩を竦めてみせた。


 「……私、魔王の預言者になった覚えはないのだけれど」

 「えぇ、その通り。そこが誤算だったのです」


 レイアール卿が頷くと、視線は再び黄金の騎士へと集まる。


 「闇属性の聖痕が発現した以上、魔王は貴女を預言者として認めたはず。しかし同時に、貴女は光属性の聖痕……唯一神の加護をもまた得ている。恐らくはそのせいで、魔王の言葉が届かなかったのでしょう」


 何が面白いのか、ヘルム越しのくぐもった声は愉快そうに震えている。

 彼女の正体を知る二人は顔を見合わせ、「嘲笑か?」「宛先は?」と視線だけで会話するが、結論は出なかった。


 そんな二人を他所に、聖騎士の王は弾むような声色のまま言葉を結ぶ。

 

 「最後に疑問を。サークリス聖下、貴女は我々の仮説に対して、答えをお持ちなのでしょうか? ……言伝は以上ですわ」


 迂遠で婉曲ながら、それは裏切りへの疑念であった。


 部屋を沈黙が支配する。

 レイアール卿とステラを除く全員が、ルキアの動きを注視している。


 黒いレースのロンググローブに包まれた指先の、そのほんの一弾きで帝城に大穴が空きかねないことは全員の共通認識だ。


 彼女は静かに、そして怪訝そうに黄金の騎士を見つめ返した。


 「……闇属性の聖痕が、即ち魔王の預言者であるというのは確実なの?」

 「歴史的には、そうね。ただ、闇属性がデュアルで発現した例は無い……聖典の中でさえ伝説と謳われるほどの事態だし、サークリスさんが例外である可能性も十分にあるわ」


 ルキアの問いに具体的な宛先は無かったが、ヘレナが答えをくれる。

 

 ここまでの情報を整理すると、つまり、「教皇庁は闇属性聖痕者であるルキアが、魔王の預言を以て復活を察知するはずだと思っていた」「しかし実際にルキアが預言を受けるかどうかは不明」「現に預言は為されていない」。

 ルキアとしては、せめて事前に説明が欲しかったところだが。


 「一説によると、預言とは祈りに対して与えられるものと言います。サークリスさんが預言を受けていないことは、むしろ魔王に対して祈っていないこと、人類を裏切っていないことの証になるのでは?」

 「ルキアが魔王陣営に与していたら、私たちはほぼ全員死んでいるよ。此奴が裏切っているなんてことは有り得ない」


 ヘレナの言葉に、ステラも庇うような言を重ねる。

 部屋の面々が口々に同意する中、当のルキアは表情を完璧に制御した微笑を浮かべていた。


 預言が祈りに対して与えられるものなら、ルキアがそれを与えられないのは当然だ。


 なんせ、ここ数年は唯一神にすら祈っていない。そしてルキアが祈る先の神は、ルキアが一人でいるときに目を向けてくれるような、矮小みぢかな存在ではない。


 「……確かに、聖下の仰る通りですわね。その旨も、私から教皇庁にお伝えいたします」


 黄金の騎士が頭を下げ、一つの議題が解決する。


 簡単に。

 結局のところ、初めから彼女たちはルキアに対して一片の疑いも持っていなかった。聖痕者の誰かが裏切るとしたら、性格的にルキアは二番目に可能性が低いのだから。


 茶番劇だったが、将来「ルキアが人類を裏切っているのでは」なんて言説が流れたときに全員で否定するのに、この数分の意思統一は必要なプロセスだった。


 「では次の議題に……勇者のについて、話し合いましょうか」


 この場に於いて最年長のヘレナが手を叩き、気だるげに弛緩しかけた部屋の空気を引き締めた。

 外見的には皇帝の方が年上ではあるのだが、転生前を合わせると、ヘレナは普通に100歳を超える。


 「魔王が復活しているということは、既に勇者は選定されているはずだな? だが名乗り出てはいない。……三代前と同じ状況か」

 「えぇ。戦士としては期待できますが、魔王戦役の最先鋒たる勇者としては些か不安になりますね」


 歴史書で読んだ情報と照らして顔を顰めるステラに、苦笑気味のヘレナが頷きを返す。

 レイアール卿、ルキア、皇帝は特に何も言わないが、それはつまり二人の意見に反論が無いということだ。


 ただ一人、一番の新参であるノアだけが、頭上にクエスチョンマークの見えそうな顔をしていた。


 「えっと、どういうことですか?」


 問いに、部屋の面々は特に照らし合わせたわけでもなくステラに説明役を譲る。

 知識量ではヘレナが勝るはずだし、皆それは分かっているのだが、彼女にはなんとなく頼りたくなるような、或いは場を預けたくなるような支配力があった。


 「勇者に選ばれたからといって、喜んで最前線に赴く者ばかりではないということだ。いや、自身の分を知る強者であればこそ、魔王と戦うことを恐れて名乗り出ない。だから歴史上“偶に”、人類は勇者を探すところから始めている」


 淡々と、と言うには面倒そうなステラの語り口調。

 それはノアに対する説明そのものではなく、その内容、延いては今後やらなければならないことに対する嫌厭だ。


 「勇者は我々聖痕者とは違い、その時に最も強い戦士が選ばれるわけではない。いや、その選定基準すら判然としていない。優れた白兵戦闘能力を持った人物であることは確かだが、今のところ、最年少で16歳、最高齢で33歳だったか。性別や出身国家、血統、魔術適性などに優位性のある傾向は見受けられない。職業は兵士か冒険者が多いが。……探すのは骨だ」

 

 王国の国民は6000万人程度。

 各領主軍、近衛騎士団などの正規軍人が約20万人。冒険者が約60万人。その他の武装勢力や道場門下生などを含めると、探すべき範囲はもっと広くなる。


 帝国は総人口がもっと多く、正規軍がもう少し多く、難儀なことに反政府勢力もいる。調査は王国以上に難航するだろう。


 うんざりした顔なのはステラばかりではなく、皇帝も心なしか肩を落としているように見えた。


 「それでも過去、勇者が使命を放棄した例はありません。神はきちんとした使命感のある人物をお選びになりますわ」


 レイアール卿の言葉は慰めのようだったが、その正体の片鱗を知るステラには嘲弄にしか聞こえなかった。


 それから話題は「どう探すか」「見つかったとして、どうするか」という方向にシフトしていく。


 そんな中、ルキアが音も無く滑るようにステラの方へ移動してきた。

 キャスター付きの椅子でもないし、そもそも床も椅子も滑るような素材ではない。重力操作による妙技だ。


 他に聞かれたくない話なのだろうし、内容に見当の付いたステラは頬杖を突いて身体を傾ける。


 ルキアは少しだけ悩み、「これは自惚れかもしれないのだけれど──」と切り出した。

 その前置きだけで内容を把握したステラは、頬杖を突いていた手で友人の言葉をぞんざいに遮った。


 「違うから安心しろ。私たちが魔王討伐に行くとき、あいつは必ず付いてくるよ。私たちを守ると言って」


 確信を持った声。

 しかし同時に、深い悩みも感じさせるのがルキアには不思議だった。


 ステラは元から他人の心情や思考を洞察する能力が高いが、それはあくまで知識と観察によるものだ。その中でフィリップ相手の場合は、半ば直感の域──深く考えるまでも無く同じ意見、同じ感情を抱くほど。そして二人とも、それを理解して受け入れている。


 今更何を悩むのか、とルキアは小さく眉根を寄せた。純粋な疑問ばかりではなく、断言できてしまうステラへの小さな嫉妬もあったが。


 「……私は正直、合理でも感情でもそれが最適だと思う。人類はこれまで、勇者の一撃と聖痕者の多重砲撃で魔王を抑え込み、最終的に封印術式に頼るという形の戦闘展開をしている。いや、そうとしかならない。魔王という強力な敵に対して、人類の取れる最適解がそれなんだ」


 ルキアも幾度となく文献で読んできた内容に、「そうね」と端的に同意する。


 しかし、今回は。


 「だが今回の魔王討伐、恐らくは真体に挑むことになるだろう。人類の憂いを断つことが出来ればそれで善し、たとえ倒せずとも、後世に情報を残すことが出来るからと」


 ルキアは今度は無言で頷く。


 対魔王戦は、超の付く長期戦だ。

 人類が洞窟の壁に土で絵を描いていた時代から今日に至るまで、脈々と、そして延々と続いている。


 その歴史があればこそ、「いつかのために」という思考は誰もが共通認識として持っていた。

 今回倒せなくても、未来の人類のために情報を残す。そのために勝ち目のない戦いを挑む──現在ではなく未来から見た場合、それが最適解になるという確信がステラにはある。


 そして、決して小さくない光明も見えている。


 「王龍相手だ。戦闘展開は良くて“厳しい戦い”。最悪、“一方的虐殺”になるが……あいつの召喚術があれば話は別だ」

 「聖剣の一撃を抜きにして、本当に一撃で魔王を倒せるでしょうね。その後、あの子が危惧したことが起こったら、魔王の討伐なんかほんの些事になるけれど」


 ルキアとステラ、二人が思い浮かべる召喚物は、実のところ全くの別物だ。

 まあ、フィリップがどれを使おうと、むしろ王龍なんかを殺さない方が難しいのでそこは問題ではない。


 フィリップが積極的に動くことで他の神格が怯え、破れかぶれに襲い掛かってくるという懸念はあるが、それを厭って魔王に殺されていては意味がない。少なくとも現段階の情報から導き出される最適解は、フィリップの随伴で間違いない。


 とはいえ──「じゃあ」と許容できるほど軽いリスクでもないし、そもそもフィリップ自体は無敵でもなんでもない。


 「勇者・聖痕者の連合部隊は、突破力こそ高いが防御面は個々人の技量任せだ。代々、従者以外の随伴部隊は付けないことになっているが……何百年か前、連合軍による遠征を仕掛けたときは、魔王城到着まで二年かかり、開戦後5秒で半数が死んだと伝わっているな」


 鎧騎士の軍勢でフィリップを守りながら進む、という作戦は使えない。

 目隠しや耳栓で発狂のリスクを抑えたとしても、フィリップも含めた全員が薙ぎ払われて終わりだ。


 魔王の魔術砲撃を防ぐには、聖痕者級の防御能力が必要になる。

 火力で押し返したり打ち消したり、或いは空間隔離魔術で遮断したりといったような。


 遠距離支援に展開していた魔術師の障壁も、錬金金属に対魔力防護の付与魔術を施した盾も、ただの一撃で砕かれたという。


 とはいえ、それは別に驚くべきことではない。


 「貴女が魔王でも同じことが出来るでしょう。驚くことではないわ。……それで貴女、フィリップを殺すのに何秒かかる?」

 「一対一なら一秒以下。お前が守っていたら、お前を削り切るのと同じ時間。とはいえ、単体攻撃性能ならお前の方が上だろう? 私が守るカーターを、お前なら何秒で殺せる?」

 「条件次第ね。けれど最速なら、光の速さで」


 一瞬も考えず出された答えは、何ら冗談ではない。


 ルキアの魔術の最高速度は光速。

 ステラの不意を衝くことが出来れば、本当に光の速さで殺せる。

 

 そして──魔王分身はともかく真体のスペックは、ほぼ確実に彼女すら上回る。

 

 「……で、魔王龍が予想通りの防御性能と攻撃性能を兼ね備えていた場合、仮に衛士団長が突撃し、私たちが守ったとして、剣で一撃入れられる可能性は?」

 「可能性評価なら貴女の方が正確でしょう? ……ゼロよ。単純にブレス七発で聖痕者七人分の火力だと考えるのなら、聖痕者が六人そろっていても押し負ける」


 ルキアは嘆息混じりに語る。

 魔王龍サタン、或いはプロメテウス。七つの頭を持つ山のように巨大なドラゴン。


 七つの頭が同時にブレスを撃てて、そのブレス一発ずつが神域級魔術の火力だとしたら。──フィリップたちが道中で考え、最悪と評した想定はそういうものだ。


 もしもこれが現実のものとなれば、聖痕者の連合パーティーですら進軍は難しい。

 空間隔離魔術を重ね掛けすれば防げるだろうとは思うが、それも「だから何?」程度の話になる。なんせフィリップの召喚術抜きで考えるのなら、まず聖剣の一撃を入れるのが大前提なのだから。


 「そう。従来の正攻法で魔王真体を殺すのは極めて難しい。魔王を殺すだけなら、初めからあいつの召喚物を使うのが最適解だ。だが同時に、魔王より面倒な敵を呼び寄せることにもなりかねない。リスクを考えるなら、最後の最後まで使いたくはないな」


 ステラの言に対する異論や反論を、ルキアは持ち合わせていない。

 しかしフィリップの召喚術抜きで魔王真体──王龍と戦って勝てると自惚れることもまた、難しい。


 たかだか18歳の人間風情が、数万年の存在格を持つドラゴンを倒せると思うのは、それはもう傲慢や自惚れの域を出た、ただの愚考だ。


 「……難しい話ね」

 「全くだ……」


 勇者をどうやって探すのか、見つけたとしても確実に参戦を渋るであろう彼もしくは彼女をどう説得するのか。そんな議題で喧々諤々の面々を見ながら、ルキアとステラは揃って重い溜息を吐いた。




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