特A事案「蛇巫女」に関するインタビュー記録②
馬場「丁度、10年前の話です。俺、東北のY県出身なんです。端っこの方にある、村。そこには昔から伝説みたいなのがありました」
−−どんな伝説ですか?
馬場「はい。山奥に大きな森があるんですが、そこには絶対入っちゃいけないっていう。神様が祀ってある祠があるから、そこで悪さするとその怒りに触れるっていう」
−−そこで「蛇巫女」と遭遇した、ということですね。
馬場「はい。当時は子どもが山に入ると危ないから、戒めでそういうこと言ってんのかなくらいにしか思ってなかったですね。まぁ、たまに巫女さんみたいなのが山に入っていくから、何かあるんだろうなぁとは思ってましたけど」
−−その森に入ることになったのは、なぜですか?
馬場「お恥ずかしい話ですが、当時は相当ヤンチャしてたんです。仲良いダチ二人とつるんで、悪さばっかりしてました。親とも喧嘩ばっかりで。親父にはほとんど見限られてましたけど、それでもお袋だけは優しかったんです……でも、ある日、些細なことでムカついて、お袋を追い詰めちゃうことがありまして……お袋、もう身も心もボロボロになっちゃって……」
(30秒の沈黙)
−−大丈夫ですか?
馬場「……すいません、当時のこと思い出しちゃって。ホント、馬鹿なことしたんだよな、俺って。でも、大丈夫です。続けていいですか?」
−−はい、お願いします。
馬場「で、親父が帰ってきたんです。お袋の姿見るなり、急に冷たい顔になりました。ブチギレて、鬼みたいな顔してるのは何度も見ましたけど、そんな顔見るのは初めてで……」
−−今までと違う、と感じたわけですね。
馬場「はい。気迫っていうか、覚悟みたいなものを感じました。それで、親父が言ったんです。『お前、この世に怖いものなんて無いって思ってるんだろ?』って。なんでそんなこと言うんだろうとは思ったんですが、それよりも怒りの方が大きくなっちゃって。それで言い返したんです。『怖いものなんてねえよ。テメェのことも、なんとも思ってないからな』って」
−−そしたら、お父様は何と?
馬場「静かな声で『これは、お前がどうなろうと構わないから話すんだが』って前置きしたあと、『立ち入り禁止の森に入って暴れてみろ』って言ったんです。『口だけのお前には無理だろうけどな』って。それでまた腹が立ってきて、『馬鹿か。怖いわけねえだろ。いいぜ、暴れてきてやるよ』って話して……それで、夜だったけど家を出たんです」
−−そのまま、一人で森に?
馬場「いえ、さっき言ったダチ二人……大川と安達っていうんですが、そいつらにも連絡して一緒に」
−−彼らは何と?
馬場「笑ってましたね。『おもしろそうじゃん。行ってみようぜ』って」
−−恐怖心などはなかったですか?
馬場「まぁ、電灯ひとつない森ですからね。入るのには躊躇しました。でも、強がっちゃった手前、引き返すわけにはいかなかったんです」
−−森の中を歩くのに、不便はなかったですか?
馬場「舗装はされてませんでしたけど、それほど歩くのには苦労しない道だったんです。全員、ペンライトか懐中電灯は持ってましたし。月も出てて明るかったんですけど、森に入ったらその明かりも無くなりましたね。木で全部遮られちゃって」
−−森の中はどんな様子でしたか?
馬場「やっぱり不気味でした。音なんか、一切しない。時期的に、虫の声なんかも聞こえるはずなんですけど、それもない。でね、しばらく歩いてると変なことに気づいたんです」
−−何か起きたんですね。
馬場「はい。よく耳を澄ますと、音が聞こえるんです。葉っぱが擦れたり、枝を踏んだときのような音。俺が最初に気付いてみんなに話しました。その音、どうやら俺たちの跡をつけてるようなんですよ。俺たちが立ち止まると、音も止まってました。で、歩き出すとまた聞こえ始めて」
−−恐ろしさはなかったですか?
馬場「そりゃ、ありましたよ。でも、ダチ二人の前で怖いなんて言えないじゃないですか。なんかの動物だろってことで、無理やり納得してました。内心、そんなわけない、これは誰か尾けてきてるなって全員が思ってたはずです」
−−実際に祠までは行けたのですか?
馬場「はい、行けました。ホントに小さい祠でした。ほら、神社行くと端っこの方にあるじゃないですか……なんていうか、ちっちゃい神社っていうか。ああいうの」
−−そこで、例のものを見つけたと。
馬場「はい、それが何なのか、最初は全くわからなかったですけど……」
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