特A事案「蛇巫女」に関するインタビュー記録③

−−”ほこら”の周りはどうなっていましたか?


馬場「柵がありました。今でもはっきりそれを覚えています」


−−柵、ですか。


馬場「たしか金網のフェンスでしたね。結構な範囲で立てられてるんです。後で聞きましたが、祠を中心に立てられてたみたいです。そこに鈴がびっしりくっついてたんです。今でこそソレの意味はわかりますけど、当時見た時はゾクっとしました」


−−そして、その柵の向こう側に行ったと。


馬場「はい。扉はあったんですが、南京錠で閉められてて。だから、持ってきてたペンチとか使って、無理やり金網破ったんですよ。作業の間、ずっと鈴鳴ってたのが嫌でしたね」


−−そのあと、どれくらいで祠を見つけましたか?


馬場「歩いて5分も掛からなかったと思います。暗闇の中に、ポツンと浮かんでる感じ。周りには6本の木があって、中連縄っていうんですかね、木と木がそれで結ばれてて。そこに、神社でよく見かける紙……雷の形してるやつ。あれが付いてました」


−−”棒”はどこにありましたか?


馬場「その祠の中に、賽銭箱みたいのがあって、その中に。結構頑丈だったんです。台に固定されてたらしくて、持ち上げようとしても無理でした。そのうち、後ろの板だけ外れるのに気づいて、中を見てみたんですよ」


−−中身はどんなものでしたか?


馬場「えと……たしかペットボトルみたいな壺が4つありました。中に何か入ってたみたいです。で、その真ん中に、”棒”が6本あった。あとで東堂さんには、『アレが蛇巫女を表す形なんだ』って教わりました」


−−東堂……蛇巫女の管理を任されている一族の方ですね。


馬場「はい。それで、その”棒”を俺が触っちゃったんです。なんだこれって思って指で触れたら、汗かいてるのもあってくっついちゃったんですよね。それで、形が変わって……」


−−それで、どうなりましたか?


馬場「まさにその瞬間なんです。鈴がね、チリリリンてものすごい音で鳴って。全員でうわって声上げて。相当ビビりました。でも怖いの半分、怒り半分て感じになって、『誰だ、コラ』って言って音の方に行こうとしたんです。でも、すぐに動けなくなりました」


−−いたんですね、”蛇巫女”が。


馬場「はい。ライト照らした先に。木のところから、顔だけ出してました。で、イーって言うような感じで口を開いてて。みんな、何も言わずに走り出しましたよ。そいつのいる反対の方向に」


−−そこからは、無事に逃げられたと。


馬場「結果そうなりましたが、途中はパニックでしたよ。全員で金網に登って柵の向こう側に飛びおりて。でも、安達だけ上手く登れてなくて。急かしてるうちに、鈴の音がなり出したんです。しかも、こっちに近づいてくる。しばらくすると鈴の音が止まって、またアイツが出てきたんです。今度は顔だけじゃなくて、体も見えました。左右に腕が3本ずつ。それで蜘蛛みたいに柵にしがみついて、口をイーってやって」


−−下半身は、なかったと。


馬場「はい、ありませんでした。完全な姿では無かったんです。まぁそれも、あとで聞いて知ったことですけど」


−−それから、どうなりましたか?


馬場「やっと安達も柵から降りられて、全員無我夢中で走りました。だんだん何かの灯りが見えてきて、そっちに急いだんです。村の人たちだったんで、もうそこに飛び込みました。俺の母、それと大川のお袋さんと安達の親父さんも来てました。うちのお袋は、これでもかってくらい泣いてました。大川と安達はぶん殴られてました。よく覚えてますよ」


−−そこから帰宅されたと。


馬場「夜遅かったってのもあるんですけど、とにかく無事でよかったってことで、みんな帰されました。俺もくたくただったんで、家に着いてからすぐに寝ました……で、そっから記憶が飛ぶんですよ。気づいたら、寺だか神社だかの一室に寝かされてたわけです」


−−記憶がなかった時の話は、お聞きしましたか?


馬場「はい。目が覚めたらものすごく腹減ってたんで、まずは腹ごしらえさせてもらいました。その後、ある程度落ち着いたら東堂さんと葵さんから全部聞かされました」


−−お母さん、安心されてましたか?


馬場「話聞いた後、東堂さんが家に電話してくれて。で、その日の夜中にお袋が来てくれました。大泣きでしたけど、『よかったね、よかったね』ってずっと……ホント、お袋には感謝です。あと、親父にも……」


−−お父様の話は、いつお聞きになりましたか?


馬場「次の日の朝、村に戻った時にですね。村のみんなが出迎えてくれて、『無事でよかった』って。大川と安達は、学校行ってていなかったですね。それで、その時にあの人から」


−−”八神雄二”、ですね。


馬場「しれっと人混みに混ざってましたね。村の人たちも、『誰だ、コイツ……?』って顔してました。それで、その人が話しかけてきて……(ため息を吐き)ここから、また少し長くなるんですけど」


−−休憩を挟みましょう。何かお飲み物、頼まれますか。


馬場「アイスコーヒーもらえますか?」


(30分の中断)

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