第3話 余命3ヶ月に死亡フラグまで追加されるなんて、なにかの冗談ですわよね?

 1.剣を習いにいくこと。貧民街にある「ジョージ護身術」に金貨10枚を持って、護身術を1ヶ月で習得する。※すでに前金支払い済。行かないと、こわーい師範代が取り立てに参ります。



 ――こ、これは……。



 やはり、わたくしの字!!!!



 き、、気になりますわ!


 書いた記憶もない。ジョージ護身術ってなんでしょう。怖すぎます。



 ――急にわたくしの赤い右目に、魔映器(魔力によって、思い出を記録するもの)の映像のようなものが流れた。本を見ているはずなのに、重なるように動いているひとが映し出した。 顔に傷のある男が……わたくしを――剣で刺した――。


「きゃああああああああああああ」

「フェイト様!!!!!」


 エマが走ってくる。


 あまりのリアルさに冷や汗が止まらない。ほんとうに刺されたような痛みと熱さが、左脇腹からのぼってくる。



 なんなの、これは。



「な……なんでもありませんわ」

「……。フェイト様、今日はお休みになられては」

「もうすこし、続けます」


  イタムと目を合わせると首をかしげる。イタムはわたくしと同じオッド・アイ。左目が赤くて、右目が黄色。


 いまのような体験は実は初めてではない。幼少期、お母さまに抱かれながら、何者かに刺された記憶が残っている。でも、わたくしにはそんな傷はひとつもない。


 夢にしては、あまりにも痛みがリアル。


 書いた記憶がないリスト。謎のジョージ護身術。右目の映像。映像のなかの戦いが、わたくしの未来に降りかかってくるかもしれないと推測した。




 かんっぜんなるっ死亡フラグですわね……。



 わたくし、3ヶ月後に亡くなる見込みなのですが……。まさか、その前に死ぬかもしれないってことですか。驚きを通りこします。



 そうして、リストを再度変更しました。



1.剣を習いにいくこと。貧民街にある「ジョージ護身術」に金貨10枚を持って、護身術を1ヶ月で習得する。※すでに前金支払い済。行かないと、こわーい師範代が取り立てに参ります。

2.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。

3.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。

4.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。

5.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。

6.お父さまと弟の問題を解決する。

7.人前で決して泣かない。泣いてもなにも解決しないから。泣くときは1人で。

8.イタムを飼ってくれる優しい人を探す。

9.友達を作りたい。

10.恋愛をしてみたい。



【10.お父様や近しい人に手紙を書きたい】と書いていたが、削除した。わたくしの思い出が残ってしまいます。それがより、悲しませてしまうことにつながるかもしれないから。




 わたくしはこの、死ぬまでにしたい10のことリストを持って、3ヶ月を生きぬくことを誓いますわ。



「エマ、ありがとう。終わりました。そうだ、お父さまはまだ起きていらして?」

 わたくしとしたことが、お父さまに報告を怠っていた。


「はい。すぐ報告に来るようにとおっしゃっておいででしたが、すぐには無理だと留め置いておきました。フェイト様の口からお話したほうがよいだろうと」

「それで結構。流石です」

「一緒に……行きましょうか」

「いいえ。ありがとう。エマ」

 エマはこれから起こることを予期して気遣ってくれている。エマにマイナス評価を与えたくない。




 お父さまの部屋の扉をノックする。

「失礼します。ご報告に参りました」

 お父さまは葉巻を吸って、苛立たしげに机をトントンと叩いていた。


「遅い! 結論から言え! あと蛇を連れてくるな」

 

 イタムが牙を剥く。イタムは自分に向けられた憎悪に敏感だ。

 アシュフォード家の家紋にもなっている蛇は我が家の守り神では? アシュフォード家では、代々、女が赤い目と蛇と魔力を継承する。夫であってもその目や力を怖がる。お父さまもわたくしの目やイタムが怖いのだ。


「アラン殿下より、正式に婚約破棄のご意志を頂戴しました」

「はぁ。おまえはそれで了承したのか」

「いえ。ショックで……そのまま帰ってきてしまいました」


 机を大きく叩かれる。わたくしのからだはびくりと反応する。


「バカ者、なぜ否定してこない? 照覧の魔女としての魔力もないお前が、今後このような良い縁談に恵まれるとでも思っているのか」


 昔のお父さまはこんなではなかった。お母さまが亡くなってから、変わってしまった。

 そしていまは、弟の件でも苛立ちが積もっているのだろう。


「お言葉ですが――」

「くどい! いますぐ土下座でもして、復縁してもらえ。どうせお前に問題があるのだろう」

「無理です。アラン殿下は……好きな人ができたそうです」

 わたくしは、あの王城でのパーティーを思いだし、泣きそうになるが、必死で抑えこんだ。

「なっ……」


 お父さまは頭を抱えた。

 わたくしは泣きません。ヴァイオレット様に誓いました。10のリストに誓ったのです。


「勝手にしろ! 俺はお前の面倒は見ない。自分で縁談を見つけてくるんだな」

「承知いたしました。アラン殿下よりも素敵な殿方を探してみせますわ」


 お父さまの葉巻が落ちた。わたくしを何事かと見つめ、そして笑う。


「驚いた。面白い冗談を言うようになったものだな」


 不敵に笑います。

「ええ。わたくしは生まれ変わったのです。いい気分です。わたくしのことはお任せくださいませ。それではおやすみなさい」


 いままでのわたくしでは、お父さまに口答えなんてできなかったでしょう。死ぬまでにしたい10のリスト。わたくしの力になって下さっているようです。



 さあ、残り時間もございません。さっそくとりかかるといたしましょう。

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