修正作業
バグの修正はめんどくさい。まずは元の物語と改変された物語の相違点をすべて探し出さなければならない。それが終わったら、今度は書き換えの作業になるんだけど、これが非常にめんどくさい。バグが無理やり物語を変えて負荷がかかった状態になってるから、一気に書き換えると世界が壊れかねない。だから、結末から少しずつ少しずつ書き換えていかなければならない。
例えば結末が、悪役令嬢が断罪されて処刑になったと書き換えられたものなら、“断罪はされたが国外追放になった”に変えて、その次に“断罪はされたが冤罪を証明した”“断罪されそうになったが助かった”こんなプロセスをいくつも経てやっと、負荷なく“断罪されなかった”に書き換えることができる。それを物語全編行う。そして最終的にバグを消すことができる。
「主様、ときドキ☆シンドロームの相違点全部みつかった。あとは頑張って」
スイはそう言って紙束を渡す。スイの仕事は、元の物語と改変された物語の相違点を探してまとめること。もう何年もやっている作業だからペースも早い。
「ありがとう。後は私の仕事ね」
指を一つ鳴らすと空中にディスプレイのようなものが浮かび上がり、改変された物語が映し出されている。スイがまとめてくれたのを見ながら相違点を何度も何度も書き換えていく。
一通りの作業が完了すると、最後に改変された乙女ゲームをプレイした人間の記憶を書き換えて作業は終了した。
「うー。疲れたー」
「お疲れ様」
長時間の作業に疲れ切ってソファに座る気力もなく、床に座りベッドに突っ伏していると後ろからスイに抱きしめられた。
「スイ?」
「俺考えたんだけどさ、いつまでもイタチごっこしてるのもアレだし、そろそろ原因突き止めて大本を何とかしないとやばいんじゃない。バグが出始めたのが三十年前位なんだろ? 俺はまだいなかったからわからないけど、その辺りで何かなかった?」
もちろん、ずっと原因は調べていた。でもそんな簡単に見つかってたら今こんなに苦労してないわけで。
「三十年前、三十年前かぁ」
「なんかってわけじゃないけど、そのくらいの時期に一度だけ、貧しい男女が愛を育む物語を作ったことがあるくらいかなぁ」
「……物語の登場人物って主様が加護を与えた人間達なんだろ?」
「うん」
世界を作れば当然、数えきれないほどの人間も生み出すことになる。その中で、何人かに加護を与える。いわばお気に入りだ。そしてそのお気に入り達の物語で夢の力を集めている。
「主様はハッピーエンド至上主義だよな?」
「もちろん」
悲恋などノーセンキュー。悲恋になりそうなら加護の力でハッピーエンドにする。
「その貧しい男女はどうなった?」
「えっと、私が作った世界の方はどう頑張っても借金苦で心中か身売りか病気になっても治療が受けられなくて死んじゃいそうだったから、加護を多めに与えて必要なときに必要なお金が手に入るようにして、裕福ではないけど子供にも恵まれて、最後は孫に看取られたよ」
あの時は苦労した。本当にあっちもこっちもバッドエンドだらけだったんだもん。でも悲恋で終わらせたくなかったから頑張った。
「そんなに絶望的な状況を変えるほどの加護ってどのくらい与えたんだ?」
「うーん。ヒロイン達に与える加護が髪の毛一本位の量だとしたら足一本位?」
いやほんと、身を削る勢いで加護与えたもん。
「俺、原因わかったかも」
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