打倒バグ


「元のプロローグはヒロインの公爵令嬢が学園に入学するところからだっけ?」


「そう。学園の入学式を終えて、幼馴染で一つ上の王太子に入学おめでとうと言われるところから」


 入学を祝われて、制服が似合ってると褒められるところからスタートする。それから教室に行って同じ新入生や担任の教師、三年生の生徒会長、購買のお兄さんとの交流が始まる。さらには二年生になったときには後輩の男の子も出てきたりして、絆を深めていって…


「なのに、なにが『あ、いけない! 遅刻しちゃう。急がなきゃ!』よ!!! あんたの出番ないから!!」


「それで走った挙句、校門で王太子とぶつかるって無理があるよな。つか、ぶつかった時点で無礼討ちだろ」


 そう、間違っても王太子が遅刻間際のヒロインと校門でぶつかるなんてありえない。そんなの王太子も遅刻寸前じゃん。遅刻太子とかカッコ悪すぎでしょ。しかも普通はぶつかってきそうな不審者がいたら周りの人間が止めるはず。ほら、無理やり登場するからもうすでにおかしなことになってんじゃん!!!


「んで、悪役令嬢にされちゃった本来のヒロインは高位貴族を呼び捨てで呼んでるところを注意するのが初登場か」


 まったくもって正論をかましてるだけなんだけどね。何でそれが『仲良くお話してただけなんだけどな…』になるのか。それが通ると思ってるのか。ん?ん?


「主様、顔不細工になってる。つくりは悪くないんだからもったいないぞ」


「だまらっしゃい!」


 人の顔になんてことを言うのか。そりゃスイに比べたら大抵の人は不細工になるよ。


「あ、そのちょっと拗ねた顔かわいい」


「やめて! 弄ばないで!」


 下げて上げるのは卑怯だと思う。


「その後は行く先々で出会う男達と会話で交流を深める…なんでこの女自分からあっちこっち会いに行ってんだ?しかもプレゼントとか何でもない時に、知り合って間もない女からプレゼントとか超怖え」


 あ、もう仕事に戻ってる。人の心を乱すだけ乱して。むぅ、悔しい。


 それはそれとして、そう。なんで男の子達がいる場所を狙い撃ちして会いに行ってんのこの女。最早ストーカーだよ。プレゼントも、そもそも学校に持ってきちゃいけません! しかも愛の欠片ってなに? なに渡してんの? 怖いよ。


「スイ、やっぱり私この女怖い。嫌い」


「はいはい。打倒バグでしょ。手伝ってあげるから頑張って」


 おかしいな。私は主のはずなんだけど、どうにも立場が逆な気がする。


「そんなこと言って、手伝わなきゃスイの神力だって補充できなくなるんだからね」


 神力が無くなればスイは消えてなくなる。もともと壊れかけて消えそうな魂を拾って神力で補修したのがスイだ。私も夢の力の供給が無くなれば、私の身体にある神力が段々減っていって、最終的には消えてしまう。


「そうなっても主様と一緒に消えるだけだから悪くはないかな。俺一人とか主様一人残るとかは絶対ごめんだけど」


 スイは私を慕ってくれている。どうしてここまで慕ってくれるのかはわからないけど、私にとってもスイはいなきゃいけない存在になってる。いなくなるのは悲しい。あれ、ちょっとした意趣返しのつもりだったのに私の方がダメージ受けてない?


「主様泣きそうな顔してる。かわいい。俺がいなくなるの想像しちゃった?」


 スイはいなきゃいけないけど、意地悪は直したほうがいいと思う。絶対に。


「ほら、ちゃっちゃと続きして終わらせよ」


 そういったスイはすでに作業に取り掛かっていて、私も慌てて自分の作業に取り掛かる。


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