音声入力・ファンタジー編

 前回に引き続き、音声入力の実験を行う予定。

 今回は、このカクヨムをはじめとした投稿サイトで主流となっている異世界物について少し試してみることにする。特に中二病めいたセリフとかそういうものは、変換困難ではないだろうか。


 また宣伝になるが、他人の作品を勝手に使うわけにもいかないので、自作『レディアース博物誌』(以下参照)より、今回はすでに発表済みのもので試してみる。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054889107793


    ◆


「教授の声とほぼ同時、草むらに近づいていた深紫ふかむらさきの影が、ぶれて見えた。徐々に加速するのではなく、一気に最高速へと達する。そんな動きに、レオの目がついていかなかったのだ。」(レディアース博物誌 第5話より抜粋)


 ―― 少女の声とほぼ同時、さらに近づいていた深紫の鍵が、増えて見えて。徐々に加速するのでお金を、一気に最高速レタス。そんな動きに花芽がついていかなかったのだ。 ――


 いきなり教授が少女化している。この人、外見は初老の男なんだけど。

 他にもところどころおかしな変換がされている。花芽ってどこから来たんだろう。先の誤変換のレタスに引っ張られているのでは?

 次は意識してもう少し発音をはっきりしてみる。


    ◇


「その勢いのまま、眼前の深い草むらに向け、リチャードは白銀しろがねの槍を突き刺す。槍はそのまま振り上げられ、一頭のウサギが高々と宙を舞った」(同上)


 ―― そのまま安全な深い草むらに向け、カードは銀の槍を突き出す形はそのまま振り上げので、一等のうさぎ片方が途中を待った。 ――


 なぜか『勢いの』が消えた。リチャードがカードになっている。

 それはさておきこの音声入力、言葉を途切れさせると、まず一旦変換候補が示され、直後に修正が行われてそのまま確定する。文字入力のように、変換候補を表示してそこから選ぶ、ということはできない。変換後に何になるかは完全にツール任せである。

 『しろがね』が銀と変換されているのは、間違いではないので仕方ない。一等は文脈から何とかならなかったんだろうか。

 『片方が途中を待った』。これも意味が通じそうで通じてない。それでもなんとなく、こちらの方は文脈的なものを考えて変換が行われているのではないかと思われる。

 だから、もっとはっきり話せば正しい変換が選択されるはず。


    ◇


「その隙をついて、紫電しでんの槍使いが飛び込んだ。沈みかけた夕日を映し、槍の穂先が黄金色こがねいろの円弧を描く。輝く軌跡が首筋を軽く撫でると、ウサギは疾走の速さのまま地面を転がり、そして眠るように動きを止めた。」(同上)


 ―― 探す気が付いて、自然の家5階を取り込んだ。死にかけた夕日を落とし、やりがまさきが黄金色の円弧を描く。輝く奇跡が首筋を軽く撫でると、ウサギは次走の速さの7時目は心があり、そして眠るように動きを止めた。 ――


 悪化した。自然の家5階とは、死にかけた夕日とは、7時目は心がありとは一体。

 連続でしゃべると滑舌が悪化するのかも。


    ◆


 続いて別の話から。


「『ギュワアァァーーーーー!』リチャードの言葉を、聞き慣れない鳴き声がさえぎる。ある種の鳥のような濁った声。それでいて、何やら奇妙な力強さを感じさせる響きだ。」(レディアース博物誌 第14話より抜粋)


 ―― ユアー。カードの言葉を、聞きなれないなひろや台ずしの、鳥のような濁ったこれ。それでいて、なにやら奇妙な力強さを感じさせる響きだ。 ――


 さすがに獣の咆哮とかはうまく認識できないようだ。それから、またリチャードがカードになっている。

 最後の一文はちゃんと変換できている。途中のひどさを見て、はっきり発音するようにしたら、改善したようだ。


    ◇


「咆哮にも似た音の出所を探れば、上空に一つの『点』が見えた。それは高度が下がるとともに一瞬で大きくなり、彼らの視界にその姿形をあらわにする。」(同上)


 ―― 方向にも似た音の出所を探れば、乗降に一つの点が見えた。あれは高度が下がるとともに一瞬で大きくなり、彼の視界にその姿形を表す。 ――


 ところどころ変な変換や抜けがあるが、校正で何とかなる範囲内。


    ◇


金色こんじき猛禽もうきんが一羽、流星のごとく空を両断してヴォルトサウルス目がけ急降下した。」


 ―― 金色の猛禽が1は、流星の如く空を両断してブートサウルスメガ京急高架下 ――


 筆者は関西人なので、京浜急行電鉄に高架下が実在するかは知らないが。

 最初の方はほぼできているのに、オリジナルモンスターの名が入ったとたんに暴走したようにも見える。


    ◇


「その姿が一瞬、稲妻にも似た白い輝きを放ち――輝く軌跡が巨竜の体をかすめると、雷光がそこから飛び散る。」


 ―― その姿が一瞬、稲妻にも似た白い輝きを放ち、輝く奇跡が恐竜の体をかすめると、大工が底から飛び散る。 ――


 今度も比較的うまくできた。

 軌跡が奇跡になってしまったのは仕方ないだろう。文脈で判断するのは難しいから。

 巨竜が恐竜になってしまったのも仕方ないだろう。めったに使う言葉じゃないから。一般的に使用頻度が低い単語は、変換が難しいのではないかと思われた。

 大工は……多分筆者の滑舌のせい。


 これならば、校正の手間が少し増える程度で、十分実用に耐えるだろう。

 

 他にも試してみたが、単なる音声認識システムではなく、 Google の変換用の辞書やその他の人工知能のようなものもバックについているようで、ある程度長文を話せば文脈により適切な変換を選んでくれているような気もする。


    ◆


 ただ、その作品だけの専門用語はさすがに難しいだろうし、マニアックな用語だとうまく変換できないようなこともあるだろう。


 拙作はオリジナルモンスターや生物学の専門用語を使うことがあっても、呪文の詠唱のような日常生活では使わないタイプの文章はほとんどなかった。

 そこで、ひとつ有名どころから引用してみたいと思う。


 ―― 黄昏よりも昏きもの血の流れより紅きもの時の流れに埋もれし偉大な汝の名において ――


 ……え……?

 ちゃんと変換できた。


 『くらき』と『あかき』が一発変換できたのは予想外だった。 普通は暗き、赤きとなるはず。自分のスマホでこれを変換したこともない。ひょっとして、Google の辞書とかに組み込まれていたりするのだろうか、この詠唱文。


 ためしに『くらき』だけを変換してみると、倉木と出力された。誰だそれ。知り合いにその名字の人はいない。 だから予測変換で出てくるようなものではない。倉木麻衣? 知ってるけどその名前を入力した記憶はない。


 しかし、元ネタ数十年前のものだけど、自分もよく覚えているものである。実際口に出したのはこれが初めてだが。

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