死のニュース

 夫婦がリビングでテレビを見ている。

 画面には毎日、誰かしらの死のニュースが流れていた。


「また誰かが死んだな」

「SNSで呟かなくちゃ。何て悲惨な事件なの。悲しいわ。本当に許せないっと」


「本当に悲しいか?」

「……本当言うと悲しくないわ。だって知らない人よ? さすがに私の両親が亡くなった時は悲しかったけど」


「だから明日には忘れてると」

「忘れないと生きていけないわよ」


「そんなものかね」

「そんなものよ」


「僕はね、テレビによって死に対する扱いが軽薄になったと思うんだ。

ドラマにニュース、どれも実体がない。虚像だよ」


「私たち、死に対する感覚がマヒしているのかしら」

「そうだね。だってほら、僕はもう死んでるよ」


「あら、あなた。もう死んでたのね」

 そう言って彼女は、何事もなかったかのようにテレビを見始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る