黒いショートショート
らっこ
1
黄泉の覗き穴
男は物件を探して不動産屋にきていた。
「この部屋やたらと安いですね……まさか」
「はい。訳あり物件なんです」
「人が死んだとか?」
「いえいえ、そんなんじゃありません」
「じゃあ、幽霊が出るとか?」
「部屋には出ないんですが……まあ、それに近いですね」
「気になるなあ。一度内覧させてください」
案内されたのは、ごく普通のマンションだった。
「ここですか。特に変わったとこはなさそうですね」
「では、玄関の覗き穴をご覧ください」
「これは?」
「はい。そこから黄泉が見えるんです」
「黄泉ですか」
「はい。もしですね、幽霊がチャイムを鳴らして、お客様が出られた場合、二度と現実に帰ってこれなくなります。幽霊以外だと出られても大丈夫なのですが……やめますか?」
「いや……ここにします」
それから数か月後。
チャイムが鳴って覗き穴を見ると妻が立っている。
男はもちろん扉を開けた。そして二度と帰ってくることはなかった。
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