ボタン一つで

 ボタン一つで何でもできる時代。掃除、洗濯、炊事、仕事まで。ありとあらゆることが、ボタンを押すだけで済む。


 とある会社。ここに昔気質の社長がいた。新人の研修も自らが指導をしている。


「新人の皆さんには、掃除をしてもらいます。さあ雑巾を絞って」

「雑巾って何ですか」


「そのバケツに掛かってるヤツだよ」

「この汚い布ですか」


「そうだよ。それで床を拭くんだ」

「えっ、まさか、この汚い床に這いつくばって拭くんですか」


「汚いとは失礼だな」

「あ、すいません」


 新人は雑巾を手のひらに乗せ、潰した。


「何をやってるんだ」

「絞ってるんです」


「違う、それは潰す。これはこう、捻るんだよ」

「なるほど」


「あの、すみません。この掃除機、動きませんよ」

「自分で動かすんだよ」


「え、これを自力でですか。信じられません……」 

「はあ……君たちは一体何ができるんだ」


「はい。ボタンは押せます」

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