第27話 あやうい婚約者

 ヴィクトルとレオンは、無言でみつめあっていた。

一方は、銀髪の野性的な金の瞳をもつ美男子。

もう一方は、黒髪に相手をい殺しそうな緑の瞳をもつ美男子。

 銀狼VS黒豹!

これが少女漫画とかなら、周りの女子から黄色い声援がとびそうな場面だ。

でも、私はその場のピリピリした雰囲気にのみ込まれ、一言もしゃべる気にならなかった。

そもそも、なんでこうなったのかもわからない。

私はお茶会で、自分の右足に熱い紅茶をこぼして、軽い火傷をおっただけだ。

「ちょ、ちょっと二人とも雰囲気悪いわよ……。とりあえず、離れたらいかがかしら?」

 私が二人に声をかけたけど、ヴィクトルもレオンも、お互いに険しい目をしていて、聞いてないみたいだった。

「まったくもう! 二人ともいい加減にして!」

 たまらず私は、目の前に立つヴィクトルにむかって、悪ガキみたいなことをする。

「うわっ!」

 驚いたヴィクトルは、膝をかくっとされて、よろめいた。

 しめしめ、してやってやったわ!

 私は江戸時代の悪代官なみの笑みを浮かべる。

「何するんだ!?」

 戸惑いを隠せないヴィクトルは、こちらを振り向いて私の顔をみて硬直した。

「何してるのよは、こっちのセリフよ。相手は嫌なやつでも、あの王家の血筋のクロフォード家よ。ここは大人しくしてなさい」

 ヴィクトルは、そこでハッと我に返ると、私の横に移動する。

「も、申し訳ございません……」

 しおらしく項垂れてみせるも、視線はレオンから離さない。

 私は大きくため息をついた。

「ミア嬢、ヴィクトルくんの躾を僕に任せてくれないかい?」

 ヴィクトルを廊下へさがらせた後、レオンはふとそんな提案を私にしてきた。

「躾って……そんなペットみたいな言い方はやめてください」

 私は不快感のため、眉間にシワをよせた。

すると、レオンはやれやれといった感じで首を左右にふった。

そんな小さな仕草でも黒豹の異名をもつ彼は、スキがない。

「きみは、何か勘違いをしてるみたいだね」

「どういうこと?」

 私はすかさずたずねた。

「ヴィクトルくんは、きみにとってなんだい? 下僕? 友人? それとも、愛人??」

「ど、どうしてそんなこと聞くの?」

 レオンの真っ直ぐに放たれる視線が妙に強くて、思わず目線をそらせた。

 ヴィクトルとのこと……。

考えてもみなかった。そんなことをわざわざ聞くほど、私とヴィクトルの関係はおかしいのだろうか?

 この世界で、今のところ一番信用できるのは、やっぱりヴィクトルだ。

レオンは、婚約者ではあるが、全く信用はできないし。

なんといっても、前回、前々回で私は彼に殺されている。

心をひらけるほど、図太くもなければ、命知らずでもない。

「これでも僕はきみの婚約者なんだ。質問に答えてもらってもいいんじゃないかな?」

 穏やかなしゃべり方をしてはいるが、その目はじっとりとした、そこはかとない怖さを感じた。

(ヤバイかも……。)

 私は慌てて口をひらいた。

「どちらかというと、ヴィクトルとは友人に近いかしら……」

「ふぅん、友人ねぇ」

 ふいにレオンは立ち上がり、私の近くまでやってくると、目の前で立ち止まる。

それから、すっと両手で私の頬をはさみこんだ。

「なに!!?」

 ビックリして、私は飛び上がりそうになった。だって、婚約者になってから、彼が私にこんな風に接してきたのは初めてなのだ。

下から見上げる彼の顔は、とてもハンサムで精悍だった。いつもはどこか遠くをみているような、つかみどころのない瞳が、真剣な眼差しで妙に熱をおびている。

(もう……! ヴィクトルだけじゃなくて、レオンまで、急にどうしちゃったの?)

 私はその手をどけようとした。

すると、レオンはあろうことか顔をどんどん近づけてきて……。




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