第25話

 今日はフォルトナーの庭園でティーパーティだ。

これは2ヶ月に一回行っており、単にお茶をするだけではなく、貴族の情報の交換会みたいなものだ。

 緑色の草地に白亜の大型噴水。中央にはミューズというスタイル抜群の女神像がたたずんでいる。

噴水の周囲には、庭師が丹精こめて育てた赤い薔薇が美しく花ひらいている。

そんなところで優雅にお茶をするなんて、お金持ちは違うなぁ……。

 私は円形テーブルに座って紅茶をすすっていた。

 アプリコットのジャムがのったスコーンのお皿が、目の前にでてくる。

「ほんの一週間前にアーミラのお葬式をしたばかりなのに……」

 私はため息をついた。

 アーミラが死んだ。自殺か他殺かはわからない。

身体が外の気温でいたみはじめており、すぐに埋葬されてしまったのだ。調べようもない。

 とてもじゃないけど、お茶会なんて気分じゃないわ。

 別のことを考えていて、私は指を滑らせた。

「あっ……」

 するとティーカップが、カシャン! と音を立てて床で砕けた。

「アチッ!」

 右足の甲に熱い液体がかかったみたいだ。

 うわー、やってしまった。

 どんくさいな私……。

上の空で、お気に入りのティーカップを使い物にならなくし、火傷までするとは。

 すると、急に身体が宙に浮いた。

「ひゃあっ!!!」

 なに、なに、なんなの!?

わけもわからず顔を上げると、銀髪に端正な顔がそばにあった。

「ヴィクトル!?」

 なんと、私を持ち上げている人物は、ヴィクトルだった。

私をお姫様抱っこしたまま、足早に屋敷へ戻っていく。

「そんなに血相を変えてどうしたの?」

「火傷した本人の言葉とは思えないな!」

 ヴィクトルの目はとても真剣で、冗談とかいえる雰囲気ではない。

どうやら、火傷したから抱っこされてるみたいだ。

「大げさね、紅茶がかかったのは、足の甲のほんの少しよ。だからおろして」

 そんなに気にすることはないのに。

「火傷をあまくみると、あとで泣くことになるぞ」

 静かな声だが、なぜか苛立っている。

下僕としてこれだけ近くに一緒にいれば、ヴィクトルのことは大体わかる。

「二足歩行は時間がかかりすぎる! 変身する」

「へっ?」

 私が戸惑っていると、するするとヴィクトルは姿をかえた。

「うわぁっ!」

 あっという間に私は、銀色の柔らかい毛並み、クマぐらいのサイズの大型獣に乗っていた。

ヴィクトルが狼の姿になったのだ。

「もう! こうするならするって、前もって言えないの?」

 私は文句を言った。

「言ったはずだが? それより、屋敷へ急ぐぞ。火傷を治療する」

 どこ吹く風のヴィクトルは、私の話しを適当に流すと、草地を走り出した。

 狼の背に掴まりながら、彼の心境の変化に私は小首をかしげた。

 

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