第24話
葬儀がおごそかにはじまった。
生ぬるい風がどこからか吹いてきて、死臭が鼻をかすめる。
あの棺に、アーミラが入っているなんて信じられなかった。
もっと、そばにいて気を配っておくべきだったのに!
後悔ばかりが胸を焼く。
同じ人狼属で、幼い頃に人攫いにあい、愛しい両親と引き離され知らない国へと売られた。
どんなに切なく苦しいことだったか……!
楽しい時期を過ごさぬまま、奴隷のままこの世を去っていったアーミラ。
なんて不幸な人生だったのかと思わずにはいられない。
それにしても、なぜミア・フォルトナーは奴隷メイドの葬儀を率先して執り行ってくれたのか?
普通はあり得ないことだ。
長年、この家に尽くしてきた執事頭ならまだしも。アーミラはここで働きだしてまだ間もない。
……可哀想だったと、同情された?
なるほど、確かにそれなら納得だ。
傲慢な大貴族の令嬢が考えそうなことだ。
墓穴を挟んで反対側に佇むミアを盗み見る。
相変わらず、美しかった。
ベールに隠されているというのに、伏せられた長い睫毛や、すきとおった鼻筋、薔薇のつぼみのような唇がありありと見てとれる。
ため息がでそうなほど神秘的な雰囲気もあいまって、ミアのいる場所だけ異空間に思えた。
「……ふふ、そんなに熱く見つめたら、ミアに気づかれちゃうんじゃない?」
唐突にそばで男の声がして、俺はハッとした。
声の主を振り返ると、なんと自分の隣にミアの許嫁、レオン・クロフォードがいた。
い、いつの間にこちら側に!?
俺は、瞳孔を1.2倍ほど大きくした。
この男は、さっきまで、墓穴の向こうのミアの隣にいたはずだ。
「クロフォード様も、アーミラの葬儀へご参列下さったんですね」
平静を装って、あいさつをしておく。
どのタイミングでこちらに来たのか知らないが、全く気づかなかった。
人狼は、人間より鼻もきくし耳もいい。それで気配を感じないことなどあるだろうか?
アーミラのことで、ここ数日眠れなかったから、疲れているから??
俺は、背中に冷や汗をかいた。
「話によると、君の妹みたいな存在だったらしいじゃないか、お気の毒だったね」
「いえ……」
俺は、言葉少なくうつむいた。
「まさか、あの若さで自殺だなんて、本当にいたたまれないよ」
えっ?
「クロフォード様、アーミラのことを知っているのですか?」
「ああ、フォルトナー家に来た時に、何回か顔を合わせたことがあるよ」
何事もない様子で、クロフォードはさらりと話してくる。
知らなかった……。アーミラとクロフォードが面識があったなんて。
でも、アーミラはメイドなのだ。ミア目的で訪ねてきたクロフォードを部屋まで案内したり、お茶をだしたりは、普通にありえることだ。
俺が物思いにふけっていると、クロフォードは立ち去ろうとして、足を止めた。
「それと、忠告しておくよ、ミアにはこれ以上近づくな。君がミアに特別な感情を抱いても、所詮は人狼で奴隷。大貴族の彼女と結ばれることは一生ない」
なにが、言いたい!?
俺が、ミアに特別な感情を持っているとでも?
つい、睨み付けたくなる。が、そこはグッと我慢した。
「……クロフォード様、何をおっしゃっているのか、私には分かりかねます」
「分かってるくせに~。それとも、気づいてないの?」
「??」
「はは、君は随分と自分に無頓着なようだ」
「どういう意味です?」
「やだなぁ、まさか許嫁なのに言わせるつもり? 野暮過ぎやしないかい?」
なんなんだ?? 益々わからん!
意味も分からず、俺は、イライラしてきた。
「まあ、いいや。そろそろミアの処へ行くね」
「はい」
クロフォードは今度こそミアの隣へと戻っていった。
「なんだったんだ?」
俺は、小首をかしげた。
まあいい、アーミラの葬儀に集中しなければ。
この時まで、俺は、そう思っていた。
「あれ」を見つけるまでは……。
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