第22話
呼びに来た侍女の後ろを、ついて歩いていく。
なぜか真っ直ぐ前を向くことができない。
ひたすら、よく手入れされた緑の芝生をみていた。
……ドックン、ドックン、
とてつもなく嫌な予感がした。
オークの木の周りに人垣が出来ていて、みんな呆然としていた。
ぶらり、ぶらりと、何かが揺れている。
華奢な身体、ほっそりした手足、青白い顔。
彼女で間違いない。
「ア、アーミラ……」
どうして彼女が首を吊っているのか、わからない……。
視界が揺れている。
彼女が揺れているのか、それとも私が揺れているのか、はっきりしない。
その内、グラりと身体が傾いた。
「危ないっ!」
パッと手を出されて、私は転倒をまぬがれた。
どうやら揺れていたのは、私のようだ。
顔を上げると、執事頭が困惑した表情を浮かべていた。
「ミア様、これ以上は見ないほうがよいでしょう。部屋へお戻ってお休みください」
固い声音で執事頭がいった。
「え、ええ……」
「遺体はすぐに下僕におろさせます」
「……うん、お願い」
頭が真っ白で、単純な返答しかできない。
私は侍女に身体を支えてもらい、踵を返した。すると、すぐ脇でピュッと風が駆け抜けた。
木の葉が舞う。
……なに!?
驚いて振り向くと、オークの木の下にヴィクトルが立っていた。
どうやらあの風は、人狼の彼が走り抜けたものだったようだ。
「アーミラ……ッ!!」
ヴィクトルは、地を震わせる声で叫んだ。
ピリ、ピリ、と空気が緊迫する。
「アーミラ、どうして!!」
心の奥に仕舞っておいた気持ちをふりしぼるような声音。
アーミラは年下の人狼属で、ヴィクトルより後に屋敷にやって来た。だから、彼にとっては妹みたいな存在。
そんな彼女がこのような姿になっていたら、ヴィクトルの心はどうなってしまうのだろう?
彼の後ろ姿に、なにか慰めの声をかけようとしたけど、結局なにもできそうになかった。
だって、なんて言うの?
御愁傷様だったわね?
そんなの気持ちを逆なでしそうだ。
今は、そっとしておくことしか出来い。
私は、ヴィクトルをその場に残して部屋に戻ることにした。
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