第19話

身近な人物といえば、ミアに気に入られていたヴィクトルはどうだろう?

彼は隣の人狼の国から奴隷として連れてこられ、下僕としてこの家に買われて入ってきた。(美しい銀髪と黄金色の瞳は見事で)容姿端麗はもとより、この国の言葉で日常会話もでき、読み書きも難なくこなす。

奴隷時代の教育のたまものなのか、母国にいた頃より身に付けていたのかは聞いたことがないのでわからない。でも、前のミアの仕打ち?(夜な夜なミアの寝所に嫌々招かれていた)ことを考えれば彼女を恨んでいてもおかしくはない。


他には……、そうだ、執事頭がいる。彼はヴィクトルを嫌っている。奴隷の身ながら自分よりミアに贔屓にされているのが気に入らない様子だ。でも、ミアに対しては従順だった。雇用主と使用人という関係をはじめから頭にきちんとおいている。それに彼は父が子供の頃よりフォルトナー家に使えていて、この家とは切っても切れない存在でもある。

仕事も真面目だし、雇い主側からみても問題点はなかった。


ミアに恨みがあるかどうかはわからないが、婚約者のレオンはどうなのだろう?

彼は幼少より皇太子と共に育った貴族で、こなゲームの中では皇太子のためなら、なんでも(例えば、皇太子に邪魔な存在となりそうな人物を抹殺など。)行うことになんのためらいも感じぬ性格だ。

でも、ミアの婚約者になぜなったのだろう? そんな設定がゲームに存在していただろうか??

この世界でミアの両親はレオンの元へ私を嫁がせる気など全く考えていなかったと話していた。つまり、向こうからふってわいた話なのだ。怪しいことこの上ない。

でも、とにかく私はレオンのことを知らなすぎる。

やはり、こちらから近づいて探るべき時なのかもしれない。敵?の懐にあえて入るのだ!

でも……。

私はぶるぶると無意識に体を震わせた。

走馬灯のように前回の断罪ルートを思い出す。暗澹とした雨雲に、ミアのことを知りもしないくせに口汚く罵る市民、貴族に対する配慮もなにもない死刑宣告人、恐ろしく頑丈な断頭台……。それに、地獄の底より現れたような死神みたいなレオン。

考えただけなのに、額から汗がにじんだ。それなのに身体は凍るように冷たい。

……こんなに心が弱っているのに私にレオンを探ることが出来るだろうか?

わからない。

今は何も考えず眠った方が良いのかもしれない。

私は自分のベッドに横になると静かに目をとじた。外からはフォルトナーの屋敷にある厩舎から馬の嘶きが微かに聞こえてきた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る