第16話 リプレイ③

レオン・クロフォードを見送ってから、私はフルーツポンチエリアでスタンバイしていた。


「ミア様! ごきげんよう!!」


ピンクの高級なドレスを纏った黒髪の女の子に声をかけられた。その隣には黄色のドレスを纏った栗毛の女の子がいる。


来た、きた~っ!!

「待ってましたのよ、お二人を!」


思わず私は女の子二人に声をかけた。


「えっ!?」


女の子達の表情がぴたりと固まる。


「そ、それはどういう……」


栗毛の大人しそうな子が不思議そうな顔で聞いてくる。


「あぁ、ごめんなさい。忙しくて勘違いでした。こちらのことですわ」


約束も何もしていないのに、二人を待っていましたとはおかしな話だ。私は適当に誤魔化した。


「ミア様、それは何ですの?」


好奇心旺盛な黒髪の女の子は、案の定、私の自慢のフルーツポンチが気になった様子だ。栗毛の女の子も目を輝かせている。


「これは、わたくしが作った、フルーツポンチというデザートですわ!」


私は自信作を披露する気分で寸胴鍋から、カクテルグラスにフルーツポンチを注いだ。

光を受けて、サイコロ型のフルーツ達がキラキラと宝石のように輝いてみえる。


「キレイ~!! 飲んでいいんですか?」


「もちろんよ!!」


私が勧めると、彼女たちはフルーツポンチを眺めてから、グラスに口をつけた。

「美味しい!」「さすが、ミア様オススメのことだけあるわ!!」

よほど美味しかったのか、着飾った二人はきゃいきゃいはしゃいでいる。


ここまでは前回と同じやり取りだ。

今回はこのフルーツポンチに毒物など入っていない。私が一からフルーツもカットして作成したし、パーティー中も、あの婚約者のレオン・クロフォードと話している時でさえ片時も目を離してはいない。


喉が渇いたわ、私もさっそくフルーツポンチを頂こうかしら……。


「そういえば、ミア様、お聞きになりましたか? あの噂……」


栗毛をふわふわとなびかせて、そばかすの目立つ幼顔の女の子が言った。

私はカクテルグラスを持つ手を止めた。


「ああ! あの噂ね!!」


艶々した黒髪に黒目がちの女の子が大きな声を出して、ハッとして口に手を当てた。

そう言えば、前もこの子達はそんな会話をしていたわね。

今回こそその噂とやらを聞きたいものだ。

私は身をのり出した。


「あの噂って?」


「第一王子のお誕生日会が二週間後にありますでしょう? そこで、国中の独身女性を集めて、第一王子の王妃候補を選ぶのですって」


栗毛の女の子はそこまで話して、きゃあ!っと黄色い声を上げた。


「へ、へぇ~、そうなんですかぁ!」


私は目を見開いて、口をすぼめて、とりあえず驚きの顔を作った。

二週間後に第一王子のお誕生日会がある。そこに集まった独身女性の中から、未来の王妃候補を選ぶ。ありがちな設定だ。

それに、そこで選ばれる女性を私は既に知っている。あの、可憐な聖女様だ。


「あっ、でも、ミア様にはもう興味のないことでしたわね。既にレオン・クロフォード様という立派なご婚約者がおみえなんですもの」


黒髪の女の子がハキハキと物怖じせずに言う。その瞳に羨ましそうな色が浮かんでいて、私はつい目をそらした。

彼女が想像しているほど、レオンとの婚約は嬉しいものではない。

ミア、つまり、うぐみにとったら、足枷の一つが増えたに過ぎないのだ。


「うっ……、ぐっ!?」


突然、隣で栗毛の女の子が口を押さえてうつむいた。


えっ……!?

私はまさか、と思った。

栗毛の女の子は、持っていたフルーツポンチ入りのグラスを地面に落とした。

ぱしゃっ、とフルーツが散乱する。


「もう、どうした……、っ!」


友人を心配して黒髪の女の子も、言葉を詰まらせると、喉に手を当てる。


「ミ、ミア様、これは……」


栗毛の女の子、黒髪の女の子は次々と地面へ倒れていった。どちらも苦しげにうめき声を上げている。


「どうして! 毒は入っていないはずなのに!!」


早く、毒を吐き出させないとっ!!

私は慌てて倒れている彼女達のそばによった。

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