第11話 幕開けの前
外は麗らかな陽気、どこまでも晴れ渡った雲ひとつないお天気。
まさにフリーマーケットをするには最適な環境だ。
お屋敷の前に広がる、何ヘクタールか分からないがとてつもなく広い庭(普段は難なく乗馬もできるそうだ。)に、赤、青、緑色の三つの天幕が並んでいる。
その前には小腹を減らしたお客の為に、軽食を振る舞う天幕もしつらえた。軽食の内容は吟味した。
まず、見た目も味にもこだわる女性の為に、サンドイッチ、ドーナツ、カラフルな色のマカロン、結婚式の披露宴で出されるような五段のタワーケーキ、どれもこれも素材も味も超一流だ。
男性には、焼き鳥、フライドポテト(どちらも調理する際ににおいが気になるので、服ににおいが付かないように、念のため天幕から一番離れた場所で調理する。)
私のお薦めは、寸胴鍋の中にあるお手製フルーツポンチだ。三角のカクテルグラスにサイコロ大のザクロ、苺、葡萄、ナシ、プラムが透明な液体の中に浮かんでいる。
見た目もおしゃれだし、グラス片手に談笑だって出来る。特に貴族には受けそうだ。
これらは、十一時~お昼の十三時までの間、無償で提供する。今回は客寄せも兼ねているので、今後、有料にするかどうかは様子を見て検討をするつもりだ。
料理は事前に準備できるものは先にメイドに頼んで作って貰った。
焼き物、揚げ物担当はミアがじきじきに執事頭を指名しておいた。今頃は張り切っているはずだ。他のメイド達もお客へお料理をサーブする役としてスタンバって貰っていた。
後で臨時にバイト代を払うと約束もしている。
「万事、準備万端! あとは何でもこいっ」
私はドレスのビラビラついたレースの袖を捲り上げた。どうにもこの時代のドレスは見た目重視しずぎて動きにくい。
「やめて下さい、ミア様。普通のレディーはそんなことはしません」
ヴィクトルが速やかに注意してきた。
「あら、ヴィクトール嬢、わたくしは普通のレディーではなくってよ?」
「分かりましたから、袖を捲るのはお止め下さい。素肌が露出し過ぎて目のやり場に困りますから」
「全く、これのどこが露出なんだか。これじゃあ、半袖Tシャツなんて着れやしないわね」
「…………」
ミアが言うと、ヴィクトルは重い溜め息をついた。それでも、なんだかんだと言いつつも、ミアもヴィクトルもフリーマーケットパーティーの準備を楽しんでいた。
着々と準備が進む中、お屋敷の窓から外の様子をじっと見つめる人物がいた。
その人物は、ミアとヴィクトール嬢(ヴィクトル)があーでもない、こーでもない、と頭を突き合わせて相談する姿を、荒波に飲まれるような複雑な気分で見つめていた。
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