第17話 クロぼうにバラされる
碧の登場で場面は一度混乱を極めたが、その後は比較的落ち着いた日々が続いていた。
むろん、昼休みのカフェテリアでの昼食に碧も加わって、三人で俺をなぶりものにするような状況ではあったのだが、俺も冷や汗を流しながらも平静を保とうと努めていたので取り立てて激しく波風が立つという場面には至らなかった。
そんな朝。
朝食を終えて制服に着替え、鞄を持って玄関から出ようとした時に、ピンポーンとベルが鳴った。
ちょうど家を出るタイミングだったので鞄を置いて玄関を開けると、恵梨香とエミリが制服姿で立っていた。
驚いた。同時に二人の玄関先へのいきなりの登場に困惑が広がる。
予想していなかった事態で、対処マニュアル等は練っていない。
「おはよう」
「おはようございますー」
朝日を浴びて気分が良いといった感じの二人の挨拶がハモる。
聞いてみると二人とも俺と一緒に登校しようと家まで迎えに来て鉢合わせしたという。
裏で碧と手を組んでゲームクリアを目標にしてるとはいえ、彼氏彼女の関係を続けている女の子たち。彼女たちの事を嫌っているわけでもなく、追い散らすという訳にもいかない。
「光一郎と一緒に登校しようと思って。あとは……」
「あとは……まだ何かあるのか?」
恵梨香の口から何が出てくるのかという怖さはあったが、聞かないわけにもいかない。
「もう碧まで出てきて女として我慢効かないから、切り札使っちゃおうと思って。私以外の女と男女関係的な事ができないように」
「エミリも最終手段つかっちゃいます」
「それは二人とも勘弁してくれ! 強制的にというのは好みじゃない」
「でも光一郎、碧が出てきてからは学園では碧ばかり優遇して、私やエミリとはいちゃいちゃしてくれないじゃない! 流石に温厚な私でも堪忍袋の緒が切れるわ」
「どこが温厚なんだ? 小さいころから温厚なことがあったか?」
じろりと睨まれたので、それ以上は突っ込まなかった。
今の段階で恵梨香やエミリちゃんにアタックされるのは上手くない。俺が能力者だとバラしたくはないし、碧という見方がいるのも隠しておきたい。二人をあざむいているようで、罪悪感は半端ないが……
高調冷めやらぬ恵梨香と不気味なニコニコ顔を浮かべているエミリちゃんをどうなだめたものか。二人と対峙しながら思惑している場面で、足元からアルカイックな声が響いて驚く。
「駄目だよ。それは意味がないから勘弁してね、恵梨香ちゃん。光一郎君は僕と契約している能力者なんだ。恵梨香ちゃんかエミリちゃんがアタックしても、光一郎君に能力がある限り、防御されちゃうんだ」
一斉に俺を含めた三人が、その声の主を見つめる。
まん丸目玉の無邪気顔。クロ猫姿の夢魔、クロぼうが俺の足元から口を出してきたのだ。
「「!!」」
恵梨香とエミリが、クロぼうの姿とセリフに言葉を失っている。
「クロぼう! いきなり出てきて俺が能力者だとバラしやがって! 問題が複雑化する!」
俺はしかりつけたが、クロぼうはふふんと何でもないという顔。
「光一郎君は、恵梨香ちゃんやエミリちゃんと同じく、夢魔の僕と契約した能力者なんだ。光一郎君の能力が健在な内にアタックしてもダメなんだよ」
そのセリフに俺は頭を抱えた。
クロぼうは俺がずっと秘密にしていたことを、一言で台無しにするのであった。
「じゃ、じゃあなにっ! 光一郎は私と同じ夢魔契約者の能力者で、私の脅しとか、全然無意味だったってことっ!?」
「そうだよ」
クロぼうが、軽い無邪気声で応対する。
「エミリの切り札もこのままではつかえないんですか?」
「光一郎君の能力が健在なら防御されちゃうね」
「「………………」」
二人して絶句する。
三人とクロぼうを含めた面々の間を気まずい空気が流れ、無言の時間が過ぎてゆく。
それを打ち破ったのは、やはり直情的な感情を表す恵梨香だった。
「じゃあ、光一郎は全部わかってて私たちを弄んでいたのね! 最初の私の告白を心の中で笑い飛ばしながらこの女を弄んでやるぜと男の本能を全開にしながら、エミリや碧をもその毒牙にかけていたのねっ! むきーーーーーーっ!!」
「いや、それは誤解だ! 俺が恵梨香やエミリちゃんを嫌っていないのは本当。将来をも拘束するパートナー契約はさすがに困るというのが本当のところ」
「誤解も何もないわっ! 女として屈辱よっ! この責任はその身をもってとってもらわなくっちゃって今思い直しているところ。取り合えずその邪魔な能力をどっかに捨てちゃいなさい。そしたら私が、無防備になった光一郎を私の能力で運命のパートナーにするからっ!」
「恵梨香ちゃん、能力者だったのね。うすうすそうかもって思ってた。だからエミリは動かないで様子見してたんだけど」
「エミリもそうなのね。先に動かないでよかったわ」
「これ、エミリが先に光一郎君にアタックすると、光一郎君の防御は砕け散るけど、エミリも能力を失って無能力。残った恵梨香ちゃんが光一郎君を手に入れるってことになっちゃう。先にアタックした方が負け」
「そう……ね……」
「恵梨香ちゃん。アタックどうぞどうぞ。私は後からゆっくり隙を見て光一郎君とパートナー関係になるから」
「むうっ」
恵梨香が難しい表情を浮かべ、エミリは笑みを崩さない。
二人は互いを見つめながら、無言の会話を交わすのであった。
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