第58話 王様とわたし

この国の国王、コータ・オウギは苛立っていた。

国で1番偉いのに、国王なのに、望んだものは手に入らない。むしろ腕からこぼれていく。

ただただ歯がゆく苦しい日々だ。

妃が早く亡くなった時も運命を呪った。彼女はまだ30代だ。急な病で帰らぬ人となった。

それでも、彼女の残した忘れ形見である3人の子を精一杯支え、生きやすい国を作ろうと思った矢先、今度は娘までが運命に翻弄される。

あの日連れ出さなければ・・・

せめて手をしっかり握っていれば飛び出すこともなかったろうに・・・

『たられば』が止まらない。

助けたくて、逝かせたくなくて、ただただ足掻いた半年後、

「死なせてください」と娘は言った。

聡明な娘だ。

自分の存在がどれほど他人に負担を強い、そして国王である父親自身を狂わせているか、わかっていた。

悔しくて、ただ認めたくなくて・・・

コータ・オウギは、優しく理知的な娘の願いと真逆の道を行くこととした。

自分の家族が大変なんだと、国の仕事は放棄した。

構ってなどいられないと言う、娘に夢中な父親役に酔った。

そうすれば、嫌な現実から乖離していられた。

7年間の大暴走の末、世界は今の形となった。


「よく来てくれたな、魔法使い。」

鷹揚に言われた時、正直『これはダメだ』と思いました。

ただいま本丸、国王の執務室に突入したリンです。

国王は無駄に豪華な椅子(王座?)に座り、堂々とわたし達を待っていた。

一瞬外でわたし達が暴れまわったことを知らないのかと思ったが、同じ室内にいる宰相が怯えまくっているのを見て、ただただそぐわない態度をとっているのだと理解する。

娘大事さに半分狂っているのかもしれない。

痛みを知らない人間を痛めつけても意味はない。恥を知らぬ人間を辱めても意味はない。

自ら犯した罪のむごたらしさに気づくことが出来ないのなら、会話するだけ無駄なだけだ。

けれど、ことさら偉そうに肘掛けに置かれた腕が、微かに震えているのことに気付く。内心の動揺を映している。いらいらと動いてしまう足の動きを伝えていた(貧乏ゆすり)。

ならば、会話する意味もあるかもしれない。

「さあ、わが娘の部屋に行こう。」

話を性急に進めたいのか、王座から腰を浮かしかける国王に、

「なんで?」と、冷たい演技で言い放つ。

我ながらうまく出来たと思うのだが、後ろに控えたリクとサンが、目を反らして吹き出してるよ。

雑人間に多くを求められても困る。そんなに大根だった、わたし?

ただ、この棒読みセリフでも、視野が狭くなっている国王にはクリティカルヒットとなったらしい。

「何故じゃ!?助けに来てくれたのではないのか!!」と騒ぎ出した。

「わたし達は迷惑をかけ過ぎてくれたあんたに文句を言いに来ただけ。どうして助けてもらえると思ったのか、教えて欲しい。」

「国王の頼みじゃぞ!!」

「国王だから偉いとかはなし。あんたがこの国に何をしたか?わたし達を動かすだけのことが出来たか、教えて欲しい。」

「いや・・・それは・・・」

「あんたが娘さん可愛さで放っておいた国内がどれほど乱れているか、知った上で助けて貰えると思うならその根拠を示して。」

重税だけかけられて苦しい生活をする人々。その最低線の生活も奪われて、何の助力も期待できない、貧民街に身を落とした人々も。

救おうと思えば救えたはずだ。

放置した7年間はあまりに大きく罪深かった。

国王はしどろもどろで絞り出す。

「いや、わしは・・・娘を、・・・ヨシノを救おうと必死で・・・」

「いい父親アピールは無意味。あんたは父親だけど国王で、国王の責任も果たさなければいけない。父親でいたいなら、退位して平民にでもなればいい。責任ある立場の人が無能なら、いるだけ無駄でしょ。」

格好よく言い捨てたその時(演技頑張りました!!)。

『リン!!』とアリアの声が脳内の響いた。

兄弟全員の精神をつないでいる。

当然リクとサンにも聞こえ、2人が驚いた顔をする。

『アリア!!まさか!?』

『来た!!最悪のタイミングで!!』

『どっち?』

『西。アイさんが連絡くれた。』

『アイが?』

『スルハマがイナゴに襲われて、ユウキさんとカイト君がすぐに早馬を出してくれた。直前に届いた。』

『見えてるの?』

『黒い塊みたいに、すぐ来る。』

「わかった!!」

最後の返事は声に出ていたので、

「???」

奇妙な顔で戸惑う国王に、

「ごめん。遊んでる暇なくなったわ」と、世間話みたいなテンションで告げる。

いや、王女様治しちゃってるし、もう演技するのもきついし。

「リク!!サン!!」

呼びかけると、大概慣れたな、サンの奴。

ピョンと背中に飛び乗ってきた。

「リクは?お姫様抱っこは・・・さすがにきついか?」

「はい、きついです。」

「じゃ、ごめん。荷物みたいな持ち方だけど。」

サンを背に、リクを小脇に、王宮を飛び出していく。

窓、全部割っておいて良かったなぁ。

「気になるなら西の商人街に来て」と、国王に告げた。

『アリア!!ズルタン商会前で!!』

『了解!!タロに乗ってく!!』

『リンちゃーん!!』

『オレらも行くよぉ!!』

サリアとリオの声も聞こえ・・・


王都西地区。

魔法使い兄弟の総力戦が始まる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る