第56話 王宮へ殴り込め!

その日、王宮はいつもの朝を迎えようとしていた。

未来は誰にもわからない。

だから主である国王も、その部下である宰相含め大臣達も、メイドや料理人や庭師、警備の兵士達もみな、ただ当たり前に朝のルーティーンをこなしていたのだ。

前触れもなく・・・

全く突然、正門脇にある噴水が見えない何かに圧し潰され、制御を失った地下水が音を立てて吹き上がるまでは。


天を衝く水が火照った体に気持ちがよかった。

陽光がきらめいて少し眩しい。

だいぶ暑くなってきたなと思う、リンです。

わたし達、王宮を正面から急襲中です。

高そうな噴水、ぶっ壊してやった。

「派手だなぁ」と苦笑いのサンに、

「こう言うのはコソコソしても仕方ないし、堂々と行けばいいんだよ」と、わたし。

「リンさん、スルハマでも言ってませんでした?」

呆れ半分のリクの言葉に、

「うわっ!!お前らスルハマでもやらかしてるのかよ!?いいなぁ!!」と、サンが羨む。

ちょっと、サン君。好戦的過ぎないか、君?

わたし、サン、サリア、リオが攻撃型で、アリアとリクが防御型。

そういう意味では今回連れてきた2人、バランスの取れたいいペアだと思うよ。

「何者だ!?」

「ここが王宮と知っての狼藉か!?」と、兵隊達が飛び出してくる。数100人に取り囲まれた。

見たところ、そして索敵でも探ったところ、この世界に銃はない。武器としてあるのは剣(西洋剣)と槍と、そして飛び道具としては弓くらい。

取り押さえようと飛び掛かってきた兵隊を、もうどうやったって敵いません(泣)、軽く師範級以上の腕前でサンがポンポン蹴散らしていく。

ただサンの場合、あくまで素の肉体の強さで戦うために、攻撃は最強クラスでも矢が飛んでくれば刺さってしまう。

で、ここでリクだ。

スルハマのカイル汁の時気が付いた。リクは少年ゆえの反射神経と、守りたい強い気持ちが融合し、結界を盾のような形で展開出来る。ピンポイントで、サンに向かって飛んできた矢を叩き落すことが可能なのだ。

攻防一体、いいコンビだね。

わたしもかかってきた1人を摑まえ、ちょっと強めにぶん投げる(鎧があるから大丈夫♡)。ボーリングよろしく仲間に当たり、道が出来る。どんどん入り口に進んでいく。

でもまぁ、弓矢は危ないし・・・

索敵で探ると弓兵は12人。距離をとって取り囲むよう配置された彼らを、魔力の壁で圧し潰す。壁やら木やら、彼ら自身が遮蔽物として使っていたそれに磔となった。

「ぎゃあぁっ!!」

「ぐぅぅぅ・・・」

叫び声や呻き声に気付き、振り返ったら仲間が身動き取れない状態で壁、もしくは木に磔にされているという異常事態。

兵士達に著しい動揺が走った。

今が好機と判断する。

「あのさ、説明は苦手なんだけど」と、わたし。

「わたし達は王様に絡まれて迷惑していた魔法使い。ぶっ飛ばしに来たんだけどさぁ・・・

あんた達は誰のために、何のために戦っているのか、もう1度考えて。あと、敵うかどうかも考えた上で、まだやるようなら掛かってきなさい。」

指を鳴らしながらの宣言に、多くは戦意を喪失した。

きょろきょろと互いの顔を見合わせ立ち尽くす中を、

「どいて」と宮殿に進んでいく。

道が開け、でも。

こういう時は往生際が悪いというか、功を焦る卑怯者が必ず現れるもので。

「サン。」

「あいよ、姉御。」

「このガキ共っ!!」

通り過ぎた人垣から、背後を狙って切りかかってきた馬鹿な兵士の胸を、サンが全力で蹴り飛ばした。

ドーン!!と言う、人間同士の衝突にはあり得ない音が響き・・・

「ぎゃあっ!!」

50メートルくらい吹き飛んで、鎧に感謝して欲しい、一命はとりとめたがもう動くことも出来ない状態の仲間の姿に、全員の心が今1つに!!

武器を捨てて完全降伏。

後で知った、彼、王宮警備の責任者だったんだって。


庭を制圧して王宮に入ると、異常事態に執事やメイド、下働きの職員達が右往左往していた。

戦闘力のない彼らまでどうこうする気はない。

兵士達は『虎の威を借る狐』で威張り散らしたり素行に問題のあるものも多いが、彼らは仕事として王宮に仕えていた、それだけだしね。

「リンさん、王様ってどこなんですか?」

「そこ、真っ直ぐ行くと階段があって、2階に上がってさらに真っ直ぐ。」

「魔法で閉じ込めてるんだろ?」

「当然、逃がさないよ。」

会話しながら、まるで買い物にでも出た気軽さで進んでいくと、

「ま、待て!!」

「これ以上はっ!!」と、立ち塞がったのは全員ローブ姿、魔法使い然とした集団だった。

王宮は魔法使いを集めている。

水が5人、契約が7人か。

わたしの目には彼らの内にある魔力が全て見えているが・・・

スルハマのエトナ(元・貴族の専属魔法使い)が軟式テニスボールサイズ。

この国トップクラスの彼らで、野球の硬式ボールくらいかな?

うちの子の方が全然強い。リク、サリア、リオの兄弟、バレーボールくらいの魔力あるし。

サンは魔力的には無能力だが、存在がそれぐらい大きいし。

あ、でも、1番後ろで壁に隠れてる13人目、透明な魔力がソフトボールくらいあるな。あれなら『鑑定』使えるかも?

「この!!来るなぁ!!」

ちっとも勇ましくないセリフと共に、5人の水の魔法使いが一斉に水を噴射した。

とは言え、圧倒的に出力不足だ。

ほぼシャワー。

「汗かいたから丁度いいですね」と、リクが笑い、

「なあ、姉御?これ、飲んでいいの?」と、サン。

「ダイジョブだよ、魔力で出した水だから」と答えたが。

リク君、結構きついよ。おじさん達泣いちゃうよ。

あと、サン。君はのどが渇いたの?

なんというかこの体たらくは、国王が『回復』だけに拘っているせいだ。

『回復』が欲しいだけだから、しかし建前上同じくらいの魔力を持つ別系統をいらないとも言えなかった。だからなんとなく雇用し、魔法戦闘なんて考えてもいなかった、それだけ。

訓練も何も行き届かなかった。

まだ魔法戦闘向きの『契約』は、必死で魔力を向けている。何とか支配下に置こうと頑張っているが、エトナの時と同じだ、強過ぎるこちらの魔力にビビッて困ったように滞留する。

面倒だから、わかるように壊した(エトナのお陰で体得済み)。

わたしの中の透明な魔力をぶつける。

ビビって逃げる魔力を追って破壊すると、ガッシャーン!!とガラスが割れるような音。空間のあちこちできらめきが生まれ、光の粉が零れ落ちる。

7人分の魔力、一瞬で消えた。

「えっ?」

「なんで?」

戸惑う彼らに残酷な真実。

「魔力量の差、って言えば分かる?」

言い切ると、戸惑い、恐れ、視線をうろうろさ迷わせる。

エトナより理解が早くて助かるよ。圧倒的力の差に気付ける程度に、王宮の魔法使いは優秀だった。

「あなた達ではわたし達に触れることも出来ない。そうでしょ?鑑定士。」

壁の後ろの13人目に声をかけると、

「あ・・・彼らは危険・・・無理・・・」と呟き、白眉白髭の老人がそそくさと逃げた(ギャグか!?)。

これで抵抗勢力はあらかた制圧、2階に上がると、100メートルはありそうな長い廊下の向こう側に、いかにもな仰々しい扉が見えた。

「あれ?」と、指を鳴らしながらサンが聞く。

「うん。でもまぁ、魔力の壁で閉じ込めてあるし、その前に行きたい場所があるんだ。」

「行きたい場所?」

「うん、ここ。」

国王の執務室に続く長い廊下。

その途中にひっそりとある、小さな扉に手をかける。

もちろんカギは掛かっていたが、そんなものは関係ない。

力付くでもよかったがこの部屋には似合わない気がして、魔力で操作して普通に開けた。

キーッと扉がきしむ音に、振り返ったのは『回復』の魔法使い達。

4人は魔力切れでぶっ倒れている。4人は部屋の中央に置かれたベッドを囲み必死で魔法を発動している。残る4人がかろうじてわたし達を見た。

「えっ?」

「これって?」

リクとサンが戸惑っている。

わたし達に反応できた4人も、疲れ切って酷い隈だ。死んだような生気のない瞳で見返すだけで、抵抗の意思はどこにもない。

ベッドに歩み寄ると少女がいた。

ただ横になるだけで、自ら寝返り1つ打てない。

枯れ枝のような手足の少女は、

「殺してください」と呟く。

彼女の名前はヨシノ・オウギ。

リクやサンと同じくらいの年に見えるが、実際は17歳。

この国の王女だった。








 

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