第53話 大食い兄弟と大食いの虫
「我が君!!大変です!!」
「今度はなんじゃぁ!?」
「魔法使いの兄弟が、今度は王狼をペットにしましたぁ!!」
「なんじゃとぉ!?」
とか言う会話が、王宮で交わされたとかどうとか。
王都に来て半月ほど経ちました、リンです。
いやぁ、マジしつこいわ、王様ってのは。
彼らが魔法使いに執着していることはわかっていたが・・・
最初の兵士の訪問から2日後、今度は6人で家に来た。
「国王の命令である!!速やかに!!」
最後まで言わせずに、マジックカーペットの刑。全員透明な魔力に乗せてぶん投げた。
翌々日には20人くらいで来たが(小隊?)、面倒なんでまた投げた。
全員王宮の執務室に放り込んでやったので、今国王の仕事場にはガラスがないとか(どっと笑い)。
王宮までの空の旅を楽しんだメンツは、メンタルズタボロ、全員辞職願を出したそうだ。
その数日後、正攻法では無理だと判断したのか、リク・サリアのコンビで買い物中に、前後左右から50人ほどの兵士が飛び出してくる。有無を言わせず拉致しようと試みて・・・
全員石畳から生える雑草と化した。
『石』は土魔法の守備範囲だ。足下が一瞬で砂に変わり兵士達を飲み込み、首だけ出した状態で元の石に戻った。
救出までに3日を要し、全員ギャン泣き、辞職を願い出たらしい。
更に数日後、アリア・リオのコンビで買い物中に、同じく50人ほどの兵士に囲まれたが・・・
全員顔周りを水球で覆われ、息が吸えずパニックとなる。1分で解放、大きく息を吸って、また1分と、肺のレントゲン撮影みたいなことを都合5回繰り返したら、手放しで泣いた。
やっぱり全員辞職したらしいよ。
どうやら国王はじめこの国の偉い人達は、頭を下げることを知らないらしい。
いや、ここまでされた以上頭を下げたからって許さないが、自分の立場である『国王』や『貴族』に慣れきって、周りが従って当然とばかりとにかく『上から目線』なのだ。
けれど、結構荒っぽいこともしているわたし達を、市民街の人も、貧民街の人も恐れなかった。
いや、むしろ面白がっている。
仲良くなった八百屋の親父、いつも行くパン屋の奥さん曰く、
「王や貴族は税金を取ることだけに熱心で、何もしてくれない」、と。
聞くところ、この国の税率は2割だ。意外と良心的と思いきや、王宮へ2割、それぞれの土地の管理者たる貴族に2割の、合計4割持っていかれる。稼ぎの半分近くを取り上げられれば、そりゃ恨みも募るさ。
税というのは『富の再分配』だと昔習った。
社会福祉や公共事業に還元しなくちゃいけないのに、王宮も貴族も動かない。
きれいに見える石畳はよく見れば凸凹だし、壁もあちこち削れている。
市民街さえこのありさまで、存在を認めていない貧民街などお話にならない。家々の壁は崩れかけて、今にも倒れてしまいそうだ。
見るに見かねて、サリアに頼んで少しだけ手を入れた。
本当はこんな対処療法に意味などないとわかっている。問題はもっと根源的で根深いのだ。
本当に、
「・・・(某・国民的アニメのオープニング曲です。エヴァンゲ〇オン)・・・」
いや、実は選曲と王宮は無関係です。
わたしは今日も森に来ている。
1人だけ魔力なしのサンに、早急に身を守る術を教え込むつもりだったが、
「サンちゃんばっかズルい!!」と、リオが半ベソをかいた。
で、サンとリオ2人を連れてきたのだが。
洒落にならない。今はもう、身体強化をかけなければサンの相手が務まらない。
あのね、サン君。わたし、空手も柔道も、実は2段なんだよ。
入門編の初段とは違う。その猛者に身体強化2倍をかけさせるって・・・
2段を2倍だから4段にはならない。筋力も素早さも全て2倍なら、それはもう、師範クラスを凌駕する。
体力特化の化け物爆誕である。
しかも、わたし達の組み手を見ていたリオが見様見真似で、1時間もしないうちに素のわたしをぶち抜いた。
そう言えば、以前サリアに護身術を教えた時も上手かったが、攻撃特化の2人組、実は体術も結構いける。
私の10年間の鍛錬が1時間足らずで・・・
ね?残酷な天使でしょ?
今2人は、完全人外な高速組手を展開中だし、いいよ、もう。
昼ご飯でも準備しようと、アリアに鍋ごと持たされたおじや(と言うよりリゾットかな?)を火魔法で温める。
で、食べて、
「うまーい!!アリア最高!!」
「うめえ!!」
「アリアちゃん、すごーい!!」
大騒ぎして全部忘れた。
鍋に直接スプーンを突っ込んでの直食いで(行儀が悪い!)、3人で鍋いっぱいを食べつくす。
わたしはもともと大食いだし、サンも食べる方だ。リオも運動したせいか、いつも以上にしっかり食べた。
食休みしていると、わたしの索敵に何かがかかる。
ん?
・・・虫?
ざわざわと足の感じが伝わって、このままだとあの黒光りする虫を思い出しそうになるが、それではない。
強靭なあご・・・
これって?
さらに深く鑑定すると、『イナゴ』と出た。
イナゴって、地域によっては食べたりもするあれだよな、バッタみたいな。
大型犬くらいあるぞ。
あれ?
でも、イナゴって・・・
海外で田畑を襲い食いつくしたイナゴの映像を思い浮かべるのと、100メートル先のイナゴは1体ではない、9体いることに気付くのと同時だった。
益虫ではない、超ド級の害虫だった。
「サン。リオ。」
「ん?」
「なに?リンちゃん。」
「あっちの茂みの向こうに、あるもの全部食いつくすすごい悪い虫がいる。サンが2匹、リオが1匹、私が残りをやる。大丈夫?」と聞くと、
「オッケー」がサン、
「オレも2匹やっつける」と、不満顔のリオ。
頼もしいけどね、リオ君、
「魔法を使ったリオなら瞬殺だろうけど、今回は体術で」と、頭を撫でると、
「うん」と大きく頷いた。
役割を決め現場に走る。
わたしが大きく飛び上がったのは、羽がある相手であるから、上空に逃げられないためだ。
そこで見た俯瞰の光景は、数100メートル四方がはげ山になっている衝撃映像で・・・
「おりゃぁっ!!」
サンが瞬く間に2匹に上段蹴りを決めた。
首がもげたよ。
「やぁっ!!」と、リオも1匹の首を蹴る。
もげるまでいかなかったが、首が見事に折れ曲がった。
残る6匹が飛び立とうとするところを、魔力で切断し討伐完了。
ただ、一面土むき出しになった森の様子に薄ら寒さを感じた。
滅茶苦茶な食欲・・・集団で襲う・・・
これって結構ヤバくないか?
索敵魔法を広げてみたが、今のところ他の個体は確認できない。
でも・・・
「これ、アイのところに持っていこう。調べて貰おう」と、イナゴを片手に、サンを背に、リオを抱っこで家に急ぐ。
なんでか妙にご機嫌なリオに、サンが苦笑いしてた。
2人を家に置いて、イナゴを手にズルタン商会へ。
「ぎゃあぁぁぁ!!」と叫び声をあげ、受付のお姉さん、卒倒した(ごめん)。
「うわっ!!何持って来たの、リン!?」
駆け出してきたアイに訴える。
「アイ!!これ、王都の森の中にいたんだ!!多分イナゴだ!!」
「イナゴ?」
「ああ!!全部で9匹!!これって!?」
アイの顔が俄かに曇る。
無意識に髪をいじりながら呟いた言葉は?
「まずいな、これ。」
アイに聞いた話によれば、王都がイナゴに襲われた(蝗害と言う)記録は、直近で70年前。
大量に飛来した巨大イナゴが瞬く間に田畑を食べつくし、立ち向かおうとした農民の一部がその強靭な顎で噛まれ、犠牲者も出た。食べ物がなくなりその年は深刻な飢餓状態。飢え死にする人も少なくなかった。
食べ物が食べつくされ飢えたのは、森の巨獣達も同じ。巨獣に襲われるケースも格段に増え、地獄の数年間が待っていたそうだ。
ねえ?もしかしてこれ?
ヤバくないか?
王宮と遊んでいる場合じゃないのかもしれない。
もしイナゴに襲われても、わたし達家族だけなら余裕で守れるし、怖いことなど何もない。
でも?
八百屋の親父、パン屋の奥さん、挨拶を交わすようになった市民街の子供達に、ミウちゃんはじめとする貧民街の人々。
同じ土地に住み続けたせいだ。短いながらも繋がりが出来始めている。
大災害を前に、見捨てる選択など・・・
家の前まで帰り着いた時、鎧を着こんだ兵士が見えた。
1人だけだ・・・と言うより、彼以外のほとんどが辞めてしまって、単独行動するしかない。
彼は『魔法使い確保班』の隊長、リーベ・マイル30歳だ。
わたしが家にいない時は、アリアかリクが結界を張る。
十全の対策に阻まれて近づくことも出来ない、目に見えない壁を叩き苛立ち叫んでいた彼が、
「邪魔だ、貴様!!」と、横を通りかかった市民街の少年を腹立ちまぎれに突き飛ばした。
一瞬で頭の中が沸騰する。
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