第51話 その頃の王宮と魔法使いな日々

この国の第23代国王、コータ・オウギは苛立っていた。

彼は常に不機嫌だ。

王様なのに、何もかも自由に出来る地位に生まれたのに、そうはならない。欲しいものは手に入らない。

だから、

「我が君、大変です!!」と宰相が駆け込んできた時も、

「なんだ!!」としかめっ面を見せただけだった。

しかし、続く言葉に真面目にならざる得なくなる。

「市民街に魔法使いが現れました!!」

「何ぃっ!?」

この国は『魔法使い』を管理している。

魔法使いとは1万に1人の割合で生まれるという特殊な能力を持った人間のことで、多くは血筋に左右される。

貴族の子弟に多く生まれるため、国は各家庭に生まれた貴族の子全てに、6歳の就学前に魔力検査を義務付けた。魔力は『ある・なし』と、あるのならその魔力量が『上・中・下』で判定されて、魔力量中以上の子弟は魔法学院の下等学校に入学を義務付ける。中等学校までの一貫教育で魔法使いを作り出し、上の魔力持ちは王宮に、それ以下は各貴族の専属の魔法使いになるのが慣例だった。

ちなみに。

この魔力検査に使う魔道具は、100年以上前に作り出されたもので替えが効かない(技術が失われて修理も出来ない)。王都にも合わせて両手の指の数ほどしかなく、値段のつけようがなく貴重だった。

余談だが、この前その1つが焼き切れてボロボロになったことを、まだ国王は知らなかった。

これだけでも十全の対策と思えたが、さらに重ねて1手。

貴族とは元来好色で、認知する、しないはともかく、同じ貴族以外にも遊びで、そして本気で手を出す。市民街にひそむ魔法使いを探し出すため、王都では一般市民も下等学校を卒業する11歳で、魔力検査を受けることとなる。

そこで中以上の魔力を持つものを、準貴族として魔法学院中等学校に強制的に編入させ、取りこぼしの無いようにしていた。

国王含め、国の上層部は気付かない。

相手にも心があり、大切な家族があり、同じ人間だとわかっていない。

ただ記号として扱っていたから、敢えて11歳からの編入とすることで元・市民の魔法使いがどれほど肩身が狭い思いをするか、場合によっては物理で、言葉で、壮絶な苛めを受けると理解出来ていなかった。

ただわかったのは、あれほど対策をしているのに『何故!?』と言うことだけ。

「なんでだ!?その者たちは魔力検査を受けていないのか!?」

国王が叫ぶと、その剣幕に恐れおののきながら宰相が言う。

「それが、完全な野良の魔法使いです!!数日前に西門から王都入りしています!!魔力検査をしようとしたのですが・・・」

「なんじゃ?」

「針が焼き切れて壊れたそうです!!」

衝撃のセリフである。

『あれ、いくらだと思ってんじゃぁ!?』と言う気持ちと(実際値段はつけようがない)、『なんじゃ、その化け物!?』と言う戸惑いが交錯する。

魔力量『上』まで余裕で測れる。なんだったら『特・上』までは判断できるはずの魔道具が壊れた?『特・上』なんて有史以来1人もいない。

「それらはどんな魔法使いなんじゃ!?」

魔法使いには、『回復』『鑑定(契約)』『水』がいる。

『回復』なら欲しい。『回復』ならどんな手を使ってでも手に入れる。

勢い込んで聞く国王に、宰相からは信じられない報告が。

「彼らは5人兄弟です。1人は王牛を空中に浮かせて持ち運んだり、炎を出したり、得体のしれない力を使います。

1人は目に見えない物質を作り出すようです。

1人は土を操り一瞬で家を作り上げたそうです。

1人は水を操りそれで物を切ったりも出来るそうです。

そして最後の1人が!!」

「?」

「おそらく高位の回復術士だと思われます!!瀕死の貧民街の男を、瞬きする間に回復したと噂になっています!!」

それは国王にとって朗報だった。

いや、セリフを普通に聞いていれば、どう考えても太刀打ち出来ない、特大の地雷物件と分かるはずが、狭量になっている彼には届かない。

魔法使いは国に管理されるべきで、管理出来ると考えてしまった。

「よし!!その兄弟を連れて参れ!!抵抗するなら強引な手を使ってもよい!!」

いつも出来ていたという安易な考えから命令を下した。

成功体験は人を成長させ積極的にさせる反面、馬鹿げた間違いを犯させる元ともなる。

今回はその負の1面・・・


同じ頃、話題の魔法使い達は?


「おーっし。サンを風呂に入れるぞぉ!!」

突然姉御が宣言する。

姉御とは、俺を拾ってくれた体力人外な魔法使い。確か名前はリンだったが、もうこの人は姉御でいいや。

今も俺を小脇に抱え、余裕でズンズン歩いている。

ねえ、姉御。並んだら多分、俺の方が背が高いよ。俺の方が重たいし、人間は荷物みたいに運べないよ。

とは言え、昨日から投げ飛ばされたり、猫の子みたいに摘ままれたり、超常体験が続いているから俺もすっかり諦めている。

気分はすっかりドナドナだ。

「ちょっと!!リン!!何する気!?」と、止めてくれたのがアリアさん。

超絶キレイ!!マジ天使!!

でも、あまりに線が細すぎて、この人外な姉御に対抗出来るのかと思っていると、

「え?風呂入れてやろうと思って。サン、路上暮らしだし。」

「だからって手伝うな!!男の子だよ!!」

「小僧じゃんか。」

「小僧でもなんでも、相手のことも考えろ!!雑妹!!」

意外にもアリアさんの方が強い。

「ごめんね、サン。

リク!!サンにお風呂の使い方教えてあげて!!」

俺より1つ上らしい、物静かで落ち着いた長男のリクと放置された。

アリアさん、ずるずる姉御を引っ張っていく。多分少し本気を出せば、絶対に拘束されないのにそうしない。

姉と妹の意外な力関係を見た。

取り合えず、人生初の風呂はすっごく気持ちがよかったと言っておこう。

「ごめんね、サン。リンさん、弟に容赦なくて」と言ったのは、リク。

「弟って?」

「ああ。リンさん、多分僕の下の弟として君を連れてきたんだと思う。」

「従業員枠って言ってたけど?」

「うん。大雑把だけど優しいし、多分先に兄弟にした僕達に気を使ったんじゃないかな?この先も素直に言わないだろうけど、君はうちの次男だよ。僕達もそう思ってるから」と笑う兄に、

「・・・」

驚いて、嬉しくて、でも姉御も決して言わないなら、俺もこの感情は一生の秘密にしようと思った。

胸の内がくすぐったくって。

ドアの向こうから、

「じゃ、リンちゃん!!今度オレとお風呂入ろ!?」

「ん?いいよ、リオ。」

「ダメ!!」

「それも結構シャレにならーん!!」と、騒ぐ声が聞こえてくる。

何やってんだか。

「リク達は本当の兄弟じゃないのか?」

「うん。僕と下の2人は本物の兄弟だけど、アリアさん、リンさんとは違うよ。家で虐待されていた僕達を、あの2人が助けた。そういう関係」と、サラリと重いことを言う。

当たり前に言えることが、つまり『乗り越えた』証なんだと分かった。

しばらくして、今度はドンドンと、ドアをノックする音がする。

「来たね」と、予想していたようにリクが言った。

そのあと、内容までは聞こえない、何かしゃべる声が続き、

「うぎゃーっ!!」と男の叫び声。

「うぎゃーっ!!」

「・・・ぎゃぁーっ!」

「・・・・・・ぁーっ!!」

声が遠く消えていく。

「何かあったみたいだね」と、笑いをかみ殺したリク。

魔法使いの家の日常、なかなか濃い。






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