第45話 牛をひいて王都参り

王牛を魔法で浮かせて、大道に合流しました、リンです。

今後は魔法を隠さないので問題はない。王都まで30分程度の位置に、草原から堂々と合流してやった。

必要以上・・・って言うか、今浮いている牛を見るとまあ仕方ないかという感じかな、巨獣を恐れる一般人にとって、道の外側から平然と歩いてくる事態あり得ない。

その上物理法則完全無視で、巨大な牛を浮かせていれば・・・

王都まで(この場合は門まで)30分ともなれば、入場待ちで徐々に商隊同士の距離が近づいてくる。バイソン君が巨大過ぎるので多くの商人が目撃する。

当の本人達は、

「バイソン君で日陰になってよかったね。」

「少し日差しが強くなってきましたもんね。」

「うん、暑いの苦手だから助かるよ。」

「こいつ食べてみたい。」

「ああ、売ったら流通ルート調べて食べに行こうか。」

「やったぁ!!」と、至極のんきな会話をしている。

得体のしれない子供達だ。

こういう人知を超えた事態に遭遇した時、心ある一般の大人は気になるけど近付かない、自分を守る行動をとるものだが、集団には必ず勇者が潜んでいる。

「なんだ!!どんな手品だ、これ!?」と、無駄にいきり立ちながら青年が飛び出してくる。

どこかの商隊の隊員かな?常軌を逸した事態から目を逸らし、女子供相手と思ったのだろう、奪い取りたい、薄汚い発想が手に取るように分かったから、

「ん?手品じゃないよ、魔法」と告げて、人差し指を上に立てる。

と、

「えっ!!」

王牛が上空50メートルくらいまで上がり、

「ね。」

指を振ると同時に王牛が落ちる。

絡んできた青年の頭スレスレで急ブレーキ、

「うわぁっ!!」

当たらないものの、凄まじい風圧と存在の圧迫感に恐れおののき、腰を抜かした青年はそのまま失禁した。

きったねえな、こいつ。

大体こういった勇者はチキンハートで、どうしようもないのが関の山だ。

その頬にゆっくりと『バカ』の2文字が浮かび上がる。

ああ、なるほど。

「ズルタンか、あんた。」

身についた横柄さは1週間やそこらじゃ治らないよな。

アリアはじめ4人が噴き出すのを堪え(優しいね)、わたしはウンザリと肩をすくめる。

と、青年の仲間が飛び出してきた。

「すいません、すいません。あの?」

「ん?」

「もしかして、本社に来たっていう魔法使いで?」

「うん、そう。」

隠す理由も何もない。

そのまま肯定すると、

「うわーっ!!」って、わたしら、化け物かなんかか!

「すいません!!すいません!!」

「お前何に手を出したか、わかってるのか!?滅ぶぞ!!全部終わるぞ!!」と、13日の金曜日のジェイソンか、プレデターか、エイリアン並みの扱いだ、青年の襟首をつかみ引きずりながら退場した。

いいことなのか、悪いのか?

一部ではもう、だいぶ有名なわたし達です。

やがて王都の門まで進む。

さすが国の中心地ということか。王都の壁は高さで50メートルくらい、ただし厚みが100メートルほどあり、分厚く堅牢。いわゆる城塞都市である。

もう商人達の噂が届いていたのだろう、門の前には門番が2人待ち構えていた。

今までの『町』や『都市』とは違う。揃いの制服を着て、腰には剣(日本刀じゃなく西洋風だ)。『門番』と言うより『衛兵』だった。

「お、・・・君達は?」

『お前ら』と言いかけて、『君達』に直した。

横柄にふるまうことでの不興を避けた。まあまあの危機管理能力だと思った。

「普通の、地方から来た魔力持ちだよ。これは売り物」と、上空のバイソン君を指差すと、

「あ、ああ。」

「でも、門を通せないぞ、デカ過ぎて」と、ただただ戸惑う。

目がバイソン君から離せない。呆気にとられ過ぎている。

「なら、上を通すから連絡しておいてよ。」

「え?」

「上?」

「そう。」

指を上に向け、バイソン君をさらに高く持ち上げる。

「嘘だ!!あの壁は50メートル!?」

ついに聞けたセリフと共に、バイソン君は城壁のはるか上まで上昇した。

「牛は壁の上を通って、わたし達はこのまま門を通る。いい?」と聞くと、駄目な理由はどこにもない、

「ああ。」

「わかった」と、彼らの案内で門を進んだ。

実はこの時、魔力量を測る魔道具が急遽用意されたが、1アンペアしか図れない電流計に1000アンペア流れた感じ。

一瞬でショートしたそうだ(鑑定で知ってたけどね)。

門の向こうは広場である。その上空にバイソン君は待たせてあった。

わたし達が抜けていくと、

「やっと来た、来た。」

「4,5日って聞いてたのに、1週間かかるんだもんな」と、知らない顔が待ち構えていた。

背は高いのにいかんせん細すぎる。筋肉はどこに忘れてきたの?って感じの瓶底メガネの青年に、大柄なたれ目で愛嬌のある顔の女性。

その頬に『バカ』の2文字が浮かんでいた。

顔立ちで分かった。彼女がカイトの姉のアイだ。

「何やってんの?」

顔の文字を指して聞くと、

「ああ、面白いよね、これ。いやぁ、今回の社内改編であたし、王都支店の支店長にされたんだけどさぁ。あえてキューのこと、役立たずだ、金食い虫だって罵ったら、ちゃんと浮かんだ。すごいよ、これ。」

いやいや、わざと試すあなたの方がかなり凄い。

「改めて初めまして。あたしはアイ、カイトの姉。こいつはキュー。あたしとカイトの腹違いの兄ね。」

手を差し出してくる。

スルハマでもそうだったが。

どうやらズルタンの兄弟とは何かと縁があるらしかった。



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