第44話 再びの牛(種類違い)
「じゃ、今後の方針だけどね。」
翌朝、夜なべする勢いでアリアが焼いたパンとオムレツ(どっちも3個目♡)を食べながら、わたしは兄弟達に確認する。
どうも。いつも通り姉ちゃんに怒られまくっています、リンです。
王都を目指すわたし達だが、今後は魔法使いであることを隠さないで行こうと思う。
いや、今までもそこまで厳密に隠さなかったが、今後は積極的にバラしていく。
「わたし達は、王様がいて、貴族がいての、王都のことを何も知らない。連中がどう出るか、見極めようと思う。」
新たな魔法使いの存在に・・・
もしかして、偉そうに命令してくるかもしれない(撃退するけど)。
力づくで手に入れようとするかもしれない(撃退するけど)。
攻撃してくるかもしれない(撃退するけど)。
頼み込んでくるかもしれない(撃退するけど)。
まずは自分たちの存在という餌を巻いて、様子見で行こうと思います。
「で、このまま森から王都に向かって、近くなってからでいいから、1頭牛を倒そうと思う。」
突然の提案に、
「へ?」
「牛って、王牛ですよね?」
「大きかったよね、あれ。」
「うん。山だった、山ァ」と、それぞれに驚く。
「実は、王都で家を建てようと思うんだよね。」
「家?」
「うん。ある程度住んで生活しないと実情が見えないし、王猪代で小さな家なら買えるって言ってたけど、もう手を付けちゃってるし。」
「ああ。」
「だから王牛。あれならイノシシの10倍くらいにならないかな?」
アリアは少し考えこんで、
「10倍どころじゃないかも。まず手に入らないし、普通にひと財産になりそう」と、結論付けた。
これで決定。王牛を倒して、それを売って家を手に入れる。
王猪の10倍で、金貨1000枚。円換算なら1億円だ。
これだけあれば、いくら王都とはいえ余裕で土地くらい買えるだろう。家自体はサリアの土魔法があるし。
方針は決まって旅は続く。
索敵魔法があるから無駄な殺生はしない。
今回の初殺生が、王牛狩りになりそうだ。
基本食物連鎖の中にいる以上、『命は頂く』ものだと思っている。
食べるための殺生にためらいはないし、今回は『売る』ためとは言え誰かが食べることに間違いはない。
ただ、以前見た王牛を思い出すと。
おとなしかったよな、あいつ、草食で。
抵抗しそうにないから、少しだけ罪悪感。
しかし、珍しい感傷に神が配慮したようだった。
スルハマを出て6日目。
王都まであと1日程度の場所で見つけた王牛は、いろいろ想像を超えてきたのだ。
「うわぁぁぁっ!!なんでこんなに凶暴なの!?」
4階建てマンションが・・・いや、今回の王牛は以前の個体より一回りか二回り大きい。5、6階建てマンションに追いかけられている。
牛は基本草食だし、前回の子はわたし達を見ようとすらしなかった。
今回の子は追いかける、追いかける。滅茶苦茶怒っているし、地響きと砂埃が壮絶の一言。
身体強化があって初めて生き残れる感じ。
これ、あれか!?動物園にいたあいつ!!
えーっと、アメリカバイソンだ!!
この世界(森に王様の獣がいて、人は壁の中で暮らしていて)の成り立ちは、たぶんこの先もわからない。なんでこうなったかは謎のままで、ただ『王鶏』と呼ばれる中にブロイラーと鶉がいたように、『王牛』にも種類があるのかもしれない。
わたしの時代、家畜なら和牛と乳牛、その間の子の交雑牛があったはずだが、動物園まで含めればさらに種類が増える。
こいつは気性が荒いので有名な、あのアメリカバイソンだ。
たぶん!!絶対!!
とは言え、わたしが真面目に戦うつもりなら瞬殺が可能だ。常識外れ、鑑定魔法の汎用性を使い、頭を落とすことも出来るのだが。
今回は攻撃特化型の弟妹に譲るつもりである。
バタバタと追わせながら、バイソン君を2人が潜む場所まで誘導する。
瞬間!!
足元の土が崩れた。
サリアの土魔法でつまずく・・・とか言うとかわい過ぎる。前足を1本落とし穴に落とした感じ(おそらく折れている)、バイソン君がバランスを失い急停止する。
その首に、
「うぉーたーかったー!!」
いやいや、セリフは真似しなくていいよ、リオ君。
今回用意した新兵器だ。リオの水魔法に指向性を与えた。水を細めに噴出し、なんでも切れる刃と化すよ。
結果、バイソン君の首を3分の1ほど切断、頸動脈断裂で大勝利した。
強ぇー、うちの子。
血抜きもできて便利だね。
「すごいよ、サリア!!タイミングばっちり!!リオも最高!!」
抱きしめて褒めまくる。
「リンちゃん、大好き!!」
「オレもぉ!!」
攻撃型3人組でじゃれあう姿を、少し離れて見つめていた防御型の2人だった。
「ねえ、リク。」
「はい?」
「ごめんね。うちの雑妹のせいで、どんどんあの子達が荒っぽくなるって言うか・・・」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
後で聞いた。リクはアリアに言ってのけた。
「リンさんが育てるなら、どんな荒い力でも間違ったことにはならないから。あの優しい人が育ててるんですもん。絶対に大丈夫です。」
うん。
ありがと、リク。
絶対いい子に育てるよ。
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