4章

第43話 STAND BY ME

「・・・(古い洋画の曲です、少年4人が死体を探しに行く)・・・」

またリンが、わけのわからない歌を歌っている。

聞いたことがない曲・・・なのはもちろん、本人もうろ覚えらしい、フンフンとハミングで歌いサビから大声。

いや、何語だよ?

今私達は、スルハマを出て大道を歩いている。

大道はさすが『王都への道』と言うべきか、今までの土を固めただけの街道とは違い足元は石畳。馬車がすれ違えるくらい広いし、所々に警備兵も出ている。

周囲は基本草原、巨獣の住処の森から距離を取ってあり安全性も高いようだ。

「歩く人間は滅多にいないけど・・・

3日も歩けば次の都市で、そこから1日で王都かな?」と、商会のユウキさんが言っていた。

「それ、リンが前いたところの言葉?」

以前『遠くから来た』と言っていたのを思い出し尋ねると、

「うーん。前にわたしがいた場所でも、外国の歌だったな、これ」と、ややこしい返事が返った。

「なんでそんな面倒な歌・・・」

ため息交じりに呟くと、

「うーん。面倒?・・・面倒っちゃ、面倒か。でも、これ、」

ニパッと無邪気に笑って見せた。

「そばにいてよ、って歌なんだ。」

「え?」

「何があっても怖くない、君さえそばにいたら。だからそばにいてって歌。」

素直過ぎて絶句・・・

ちょっと待って、リン。あんたはそういうキャラじゃなかったはず?

やばい。うちの妹が超可愛い。

「攻撃力が・・・」と、小さくリクが呟いた。

激しく同意。

「じゃ、こっちならわかりやすい?」と次に歌いだしたのが、

「・・・(同タイトルのネコ型ロボットの映画・の〇太の結婚の歌です)・・・」

攻撃力が倍化した。

「どうしたの、リン?」

かろうじて聞くと、

「ん?そんな気分なの、今。本来は男女のプロポーズの歌だけどさ。

いつかアリアがお相手見つけて、リクもサリアもリオも相方を見つけて離れていくそれまでは、リンちゃん、超見守ってるよ、って気分。」

「何目線よ?」

「父親?」

「せめて母親にして。」

『素直になられると可愛すぎるのよ、あんた!!』とは言えないから、適当に流す。

あと、

「オレは絶対リンちゃんのそばを離れない!!」

「嫁には行かない・・・」とか言い出した、年少2人組。

リン、あんたは無自覚だけど、そいつら結構マジだから。サリアは同性のヤンデレみたいな特殊ケースにハマってきてるし、リオは真面目に嫁にもらう気だ、たとえ幼児のたわ言でも。

まあ、10年後にこうご期待なのかな?

「どした?疲れた、アリア?」

無意識で足が止まっていたらしい。

年少2人にまとわりつかれながら、振り返るリンが笑っている。

うん。マジ、うちの妹可愛いわ。


と、思っていた時期がありました、私にも。


「リン!!」

またやってくれたよ、この雑妹は。

目の前には王鶏の卵が2つ。大きさがリンと変わらない。

あれ?以前は卵より小さかったリク、いつの間にか背が伸びてる?

いやいや、そんなことより、

「どうすんのよ、これぇ!!」

あの後、すぐ大道をそれた私達です。

整備された道で歩きやすかったんだけど、何せ商隊の馬車移動がメイン、歩いているだけで目立つし、結果ナンパがうるさかった。警備兵も出ているし、無理はしなかったもののあしらうのが面倒になり、すきを見ていつもの森に逃げ込んだ。

遠回りかもしれないけど、1週間もあれば王都にも着けるだろうと。

で、日常に戻った途端、サリアとリオを連れたリンが休憩中の結界から出て、大きな土産を抱えてきたのだ。

「いや、だってさぁ・・・」

恒例のしどろもどろで言い訳。

「わたしとアリアとリクは結界魔法使えるけど、2人は攻撃特化型だし。せめて危険が減らせればって・・・」

つまりリンは、防御力に劣るサリアとリオを心配し、『殺気』で敵を事前に追い払う方法を教えたのだそうだ。

リンが『殺気』と言っているのは、要は魔法を使うギリギリまで魔力を高め、存在感の強さで敵を寄せ付けない方法。人間相手より森の獣達に有効だそうだ。

で、王鶏に2人が実践した結果、

「あいつら卵放って逃げちゃうんだもん。」

「だからって拾わなくてもいいでしょ!!」

「いや、一応追い払っちゃったし・・・」

貰ってきたものは仕方がない。今更返しても育てないし、こうなったら食べるしかない。

相変わらず、食材の無駄は許せない私です。

リンに手伝わせて黄身と白身を分ける。

黄身の方とスルハマで手に入れた干し豚(所謂ジャーキー)を使って、今晩は他人丼です。

リンに言わせると魔力の無駄遣い、精密かまどを結界で作成、夕ご飯をバンバン作る。

「うまい!!アリア、最高!!」

「美味しいです。」

「アリアちゃん、すごい。」

「うまーい!!」

大好評だったが、卵液はまだ余っている。明日の朝もオムレツです。

で、夕飯の後は森で『結界キャンプ』しながら、卵白と小麦でパンを作った。

リンに苦笑いされながら、精密なパン窯を作成。

卵白をきっちり泡立てれば酵母なしでもふんわりするはずで、チャレンジして、力尽きる(量多過ぎ!!)。体力特化のリンが手伝ってくれて、完璧メレンゲが大量にできた。

あとは小麦粉と砂糖、少量の塩を加え、ひたすら焼く。パン屋に就職した気分の量だったが、黄身は除いたので日持ちも効くはず・・・

なんかもう、怒っているのも馬鹿馬鹿しくなった。

「あ、すごい、これ。フワフワだ。超うまい。」

こっちも反省モードは光の彼方だ。焼きあがった端からつまみ食いしているリンだが、あんたさっき、他人丼3杯食べてたような・・・

「アリアさん、僕ももらいます」と、リクも手を伸ばしてくる。

サリアとリオはおなかいっぱいで寝ている。

なんかもう・・・

私達らしい、日常の風景だった。





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