第42話 台風兄弟
「あと1つやりたいことがあるんだけど。」
急に言い出したわたしに、一同不思議な顔をする。
下で磔になっている商会員達を解放し、まだ動けない元会頭と、いつまでも泣き続けるエトナを6階の仮眠室に連れ出してもらった。
やれることは全てやったからこその反応だろうけど、
「契約はすべて破棄したけどさぁ。今現在商隊に連れ回されて酷い目にあっている魔力持ちもいるし、ズルタンの家の人とは約束出来たけど、一般の商会員にまで行きわたった魔力持ちへの差別感情はなかなか払拭できないから。
ここは契約で縛ろうと思う。」
言い終わり、意見も聞かずに契約発動。
本音を言えば今回はさすがに自信がなくて、勢いで進めたかったのだ。
対象は、この先に入社する人まで含めてズルタンの商会員全般。本社も支社も含めてだから、時空を超えた契約なのだ。
「リン!!」
アリアの声が焦っている。
後で聞いたら、わたしはわたし自身が輝くような、すさまじい魔力を放出したらしい。魔力のあるアリア、リク、サリア、リオはもちろん、魔力のないユウキ、カイトの2人までが気付いたくらい。
これ、むずい。
時間も対象も抽象的で、実現するのが困難だ。
それでも、
「終わったぁ。」
契約は結ばれた。
完成と同時に足から力が抜ける。魔力切れとは違うけど、半分くらいは持っていかれた。
「きっつかったぁ。」
ストンとその場に尻餅をつく。
疲れた。これで魔力切れではないんだから、空まで使ったらマジきつい。
この先は気を付けよう。
天を仰ぎ肩で息をするわたしに、アリアが飛びついてくる。
「リン!!この考えなし!!」
「はは。」
「なにしたの、一体!?」
ごめん、アリア。心配かけた。
わたしがしたのは至極単純。ズルタンの商会員達が立場を嵩に来て威張ったり、誰かを虐待した場合、顔に3日文字が浮かぶ。
「バカって左右の頬に浮かぶんだよ。」
笑って言うと、全員キツネにつままれたような表情。
「ちょっと待ってよ。そんな悪戯みたいなことに、そこまで疲れる魔法を使ったの?」はユウキ。
「何してんだよ、お前」がカイト。
「リンさん・・・」
「リンちゃん・・・」
「リンちゃん・・・」と、リク、サリア、リオが呆れ顔。
「リン!!この馬鹿!!」がアリアで、でもきっちり抱きしめてくれる。
やっぱりアリアが1番わかっている。
「優しいんだから」と、小声で言った。
「いいんだよ、このくらいが。
最初は『虐待者』とか『外道』とか強めの言葉も考えたんだ。でもそれじゃ、また変な恨みがたまるかもしれない。
冗談で済むくらいがいいんだよ。でも、実際3日は消えないし、結構ダメージはあるだろうしね。その顔で家に帰るんだし。」
慌てても仕方がない。ただ少しずつ好転するように、みんなが楽しく生きていけるよう祈る。
「はは。帰ろう、みんな。」
その晩懐かしい夢を見た。
明るいうちに市場で旅支度を済ませ(王猪代ついに始動)、スルハマにもう1泊、明日には王都を目指す予定だった。
さすがに疲れ切っていて、前後不覚で眠りについた。
久しぶりのイチイの家だ。
祖父ちゃんがいて祖母ちゃんがいて、父と母と、兄と弟。
みんなが仲良く笑っているのに、何故かわたしは外から見ている。
そうなのだ。わたしの大切な家族達は、もうどこにもいないのだ。
喪失感は変わらないけど。
でも、もしかしたら兄や弟からつながる子孫が、今この世界にいるかもしれない。
探すことはないだろうし、探すべきでないことも全て承知だ。
でも。
それでも。
わたしの中にみんなはいるし、みんなの中にもわたしがいた。
そう思いたいし、たぶん間違いなくそうだった。
今は研究所跡で目覚めたあの頃より、会えないのに、諦めたのに、みんなの存在を感じている。
ねえ、みんな。
わたしは楽しく生きているよ。
この世界の家族とともに。
この世界をわたしの帰るべき場所として、おうちとして愛せるように、もう少し頑張るよ。
そこで見ていて・・・
翌朝、魔法使いの兄弟達は王都に向けて旅立っていった。
「向こうにも支店があるし、そこには俺の姉のアイと、兄のキューがいるから。何かあったら頼れよ」と、しつこいくらいにカイトが言う。
はいはい。縁を切りたくないんだな。わかるよ、素直な弟よ。
しかし、
「警報出したいくらいだな。」
無意識のつぶやきに、
「ああ」と、カイトも納得。
あの規格外達が上陸する王都が・・・
想像すると、ちょっとやばい。
「お袋、呼び寄せようかな、こっちに。」
「ああ、それ、いいかも。」
「アイとキューにも連絡しとけよ。」
「一応早馬は出したけどな。」
兄弟2人で話していると、
「大変です!!会頭代理!!」と、従業員の1人が駆け込んできた。
「どうしたぁ!?」
「顔にバカって書いてある商隊が帰ってきました!!」
下らないのに。
ちょっと笑った。
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