第34話 彼が束縛(文字通り)された理由

突然現れた、5人は変わった子供達だった。

兄弟とは言っていたが全然似ていない。辛うじて男の子2人は『そうかも?』と思える程度に似ていたが。

女の子3人は全く違う。金髪、黒髪、赤毛と髪色もバラバラだし、大体1人は碧眼だし。

上の男の子が、金髪と黒髪の姉を『さん』付けで呼んでいる。血のつながらない兄弟のようだった。

ただそれ以外にも・・・

と言うか、こっちがメインで異質だった。

異常なまでのプレッシャー、迫力のようなものを感じる。年少の、4、5歳の幼児からさえ。

相当強い魔力持ちであると想像出来た。

魔力持ちはその異質さから、魔力のない人間にも違和感という形で感じ取られることがある。ましてや魔力持ちであれば、相手の持つ魔力には即座に反応してしまう。

正直怖かった。無意識に体が震える。森の獣の前に放り出されたような、命を握られている気分。

完全な魔法使いだ。

なんで王宮に管理されていないんだ?

ただ、

「リンちゃーん!!」と年少の子が甘え、

「なんだよ、リオ。甘えん坊め」と、からかいながら黒髪の子が抱き上げた。

普通の、当たり前の姉弟のじゃれ合いに、少し体の力が抜けた。

「あの」と、少女に話しかける。

「ん?」

「50メートルの契約は消えたって言ってたけど?」

「うん。だってもう、商隊から1キロくらいは離れてるでしょ。」

「でも、どうやって?」

「ああ。なんか腹立つ契約だし、こう・・・魔力でグシャッと。」

「???」

意味が分からない。ものすごく綺麗な子に、ものすごく適当な返事を返された。

呆気にとられて言葉をなくすと、

「ごめんね。悪い子じゃないんだけど、この子言葉数が足りないっていうか、基本雑だから」と、金髪の姉がフォロー(?)した。

「誰が雑だよ」と、唇を尖らせた妹が、急に真顔で俺を見る。

「?」

「えーっと・・・そろそろ情報を共有したいし、いろいろ話していいかな、あなたのこと。」

「え?」

「今わたし達が向かっている、スルハマに住むユタさん、23歳。お母さんと2人暮らし。」

「え?ええ!?」

「わたしはあなた達が『契約』と呼んでる魔法の上位版、『鑑定』を持ってる、たぶん。」

「たぶんって?」

「で、色々わかっちゃうわけで、あなたのこと、兄弟達に伝えていいかな?ほら、個人情報だし。」

訳が分からない。

商人と行動を共にしてから、今まで知らなかった魔法のことを聞きかじった。彼らは魔法に興味がある(主に金になるからだけれど)。

そこで聞いた知識によれば、『鑑定魔法』なんて王宮に1人いるだけと聞く。

それも、

「これは安全だ」とか、

「これは危険だ」とか、

「これは食べられる」とか、

「これは価値がある」とか、かなりザックリな魔法だって。

「それなら『鑑定』より『契約』の方が役に立つ」と言うのが商人達の統一見解で、まさかここまで詳しく調べられるなんて。

「たぶんとか言うから、ユタさん、戸惑ってるじゃない。」

「いや、だって、『鑑定』って気付いたばっかりだしさ。」

姉妹はさらに常軌を逸した会話を交わし・・・


俺はユタ。スルハマに住む農民だった。

家は貧民街のすぐ脇だったが、それでも中央寄りである。

農地もそこそこ持っていて、母と2人食べていくには十分だった。

「いつお嫁さんが来ても大丈夫よ」とは、1年ほど前の母の言葉。

貯えもあると言うことだろうが、でも子供とか出来たら何か考えなきゃ苦しくなるかなと思う、そんな程度の生活ぶり。

不安も不満も感じてなかった。

自分が魔力持ちと気づいていたが、生活に使う程度。あえて利用しようとも思わなかったのに。

半年前、母の足腰がおぼつかなくなった。1年位前から、動き難いとは言っていたが、まさか急に萎えるなんて?彼女はまだ40代前半で、老齢によるものとは考えられなかった。

ありとあらゆる医者に見せた。蓄えはすぐに底をつき、しかし全く治せない。

残ったのは残酷な現実だけ。

どんどん弱る母親と、明日の食べ物もない『今』・・・

そんな時声をかけてきたのがズルタン商会だったのだ。


「で、ユタさんはあの馬鹿商会にお母さんという弱みを握られ、不利な契約を結ぶしかなかったわけ。

商隊に同行して水を出す。逃げられないように『離れられない』契約までして。

1日で銀貨2枚?くっそブラックだな。最悪だな、あの馬鹿商会。」

いやいや、言葉が悪いですよ、リンさん(黒髪の子)。

イライラを隠さない彼女の言った通り、契約内容は最悪だった。

1日銀貨2枚だけで、月25日働いても大銀貨5枚程度。

ただその代わり万一仕事がない月が存在しても、母親の療養費として金貨2枚は月決めで渡す。

今や農地は荒れ果てていたし、明日の食べ物にも困っていた。月決めの条件に飛びつく以外無かった。

けれど、薬代だけで金貨1枚以上が消えていく。動けない母親を放ってはおけない。近所の懇意にしていた女性に介護を頼む。

無給というわけにもいかず、母親の食べ物だって必要だ。

金貨2枚ではとても足りない。身を切るようにして働いた、大銀貨数枚も消えていく。

商人に同行中は少ないながらも食事が貰えるので、自分自身は食うや食わずで過ごしてきたのだ。

「ま、そういうわけだから、ユタさんの家に行こう」と、リンさん。

「何とかなる気もするし、ね。」

「了解。」

「わかりました」と、アリアさんとリク君が頷いた。

気づくと、

「ねえ?」

「・・・」

年少の2人が寄ってくる。

「お腹空いてる?」

「食べて」と、2人共が肩から下げたカバンの中から、パンのかけらを取り出した。

「取ってあったんだ、サリアも、リオも。」

苦笑いするリンさんに、

「うん。でも、」

「わたしたちの食事は、ずーっとずーっとリンちゃんが、お腹いっぱい用意してくれるから。」

まっすぐに言い切られ、眩しいような照れたような、困った顔のリンさんが少し笑った。

クルッと踵を返してスルハマに向かいながら、

「食べてね、ユタさん。チビどもの気持ちだから」と手を挙げる。

顔は見せない。

しかし、魔力がフワッと立ち上がるのを感じた。

一文字に結ばれた口元が見える。

すごい圧力だ。怒ってる?

しかし、その相手は俺ではない、ズルタン商会だ。

他人のために怒る人を久しぶりに見た。

アリアさんがその頭を優しくなでて・・・



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