第32話 攻撃系信号機爆誕

魔法を覚えた途端、妹が昏倒しました。

マジ焦った、イチイリンです。

いやぁ、もう・・・

どうかしたかと思った。怖かった。死んじゃうかと思ったよぉ(泣)。

って言うか、『魔力切れ』って何さ!?

わたしにそんな概念はない。

アリアに訴えると苦笑いで教えてくれた。

「前に婆ちゃんに聞いたんだけど、魔法使いにはそれぞれ魔力量があって、そこを超えると苦しくなって脱力して昏倒するんだって。少し休めば回復するし、致命的では無いんだけど、苦しいからみんな魔力量を意識しながら魔法を使うんだって。魔力の残量を気にしないでいいのなんてリンくらい・・・」

言いかけて、言い直す。

「リンと私くらいだよ。」

お!?アリアさん、やっと自分も『人外(言葉の綾)』と認めたな。

そうなのだ。わたしとアリアの魔力量は桁違いに大きい。

視認できるわたしの目には、そうだな・・・わかりやすく表現すればバスケットボールくらいの魔力の塊が、胸のあたりに渦巻いている。

リク、サリア、リオはバレーボールくらい。

バスケかバレーかで限界が決まるらしい。なんとなく理解した。

「でもさ、いくら限界があるって言っても、これ・・・」

アリアが惨状をチラ見して、目を逸らした(気持ちはわかる)。

今わたし達は、意識のないサリアはわたしが抱いて、森との境の木陰にいる。

50メートルくらい離れた場所(さっきまで実験していた場所だ)を起点に、土地がガタガタに乱切りされて、遥か彼方へ続いている。

大地震でもこうはならない。

やばい。端的に言ってやばい力だ。

つまりサリアは、この小さな体に万に近い人間を圧倒できるパワーを秘めていることになる(むろんやり方次第だけれど)。

これは・・・

手加減を教えるのが急務だな。それ以前に毎回昏倒させたら可哀そうだし。

そんな算段をしていると、

「リンちゃん・・・」と、か細い声。

腕の中でサリアが目覚めた。

昏倒して20分程度。早いか遅いかわからないが、一定レベルまで魔力が回復したようだ。ソフトボールくらいになった、黄色の光が見えている。

わたしを呼ぶその瞳は不安に揺れて・・・

そりゃそうだよなぁ。人生2回目の魔力使用、初めて魔力切れも体験、起きたら不安そうな仲間の顔が見えたら。

だから褒めた。滅茶苦茶褒めた。

「すごい!!サリア!!」

「?」

「驚いた!!すっごい力だよぉ!!」

抱きしめて撫でまくると、

「もう。恥ずかしいよ、リンちゃん」と、戸惑った顔で笑ってくれた。

良かったぁ、マジで。

「でもね、サリア。これから魔法使うたびに気絶しても拙いし、手加減覚えようか。」

「手加減?」

「そう。例えば・・・もし悪い奴がいたら、そいつの足元だけ砂に変えちゃえ!首まで埋めちゃえば抵抗できないし、顔だけ出てれば死なないから!」

殺伐としたレクチャーに、

「・・・」

兄であるリクは頭を抱え、

「いちいち物騒なのよ、リンは。」

アリアからは後頭部チョップを食らったが、大事なことだ。

「・・・うん。」

真顔でサリアが頷いて、一件落着と思ったその時、

「リンちゃーん。」

いつもの甘えた声とともに、リオが背中に乗ってきた。

座ったり休んでいる時は大抵わたしの膝の上にいる末っ子だが、今回は体調不良の姉を気遣い定位置を譲っていた。

寂しくなったのかな、と思ったが、半泣きだった。

「兄ちゃんも姉ちゃんも魔法使えるようになった。なんでリオだけ出来ないのぉ?」

半泣きっていうか、泣いてるじゃん、もう。

わかる!わかるけど、リオ君。それ、下の子の宿命だよ。

2番目のわたしにも覚えがある。兄貴が出来ること、全部自分にも出来ると思うから挑戦して、出来なくて、悔しくて。

でも、もしかして?

「ほら、リオはまだ小さいから!!」

必死のフォローは長女のアリアで、

「でも・・・青はたぶん『水』だよなぁ」が、わたし。

「水?」

「うん。ほら、シダナですれ違った商隊、あの中に小さな青い光を見たんだよね、わたし。」

「魔力持ち?」

「うん。ただあんまり小さかったから、まさかと思って流したけど・・・あの後馬鹿商会の噂を聞いて、たぶんあれ、旅の間の飲み水を出させていたんじゃないかな。荷物として1番かさばるのは水だしさ。」

「なるほど・・・」

今考えればいらん事を言ったとわかるが、わたし達の会話を聞いていたリオがパッと表情を明るく変えた。

「水なの!?」

「あっ!!」

「待って、リオ!!」

「水ぅっ!!」

少年の体に魔力が満ちる。わたしにしか見えない光で青く輝き、暴走気味の初めての魔法を発動した。

叫び声とともに上空に出現した、一辺3メートルの水のキューブが。

3メートルと侮るなかれ。計算すると、27000000㏄、27000ℓで、つまり・・・

冗談でしょ!?27トンあるんだけど!!

こんなものを出せば当然魔力も尽きてしまう。背中でガクッと気を失うリオ。

やばい、落ちてくる!!

瞬時に結界を発動、こんなものゲリラ豪雨にも滝行にも例えられない。絶対入っちゃいけない系の滝だ。自殺の名所的なあの勢いで水が降り注ぎ・・・

もちろん、わたしの結界はこんなことではビクともしないが。

気が付いた。

わたしが結界を張った直後、遅れて緑の結界が張られる。タイミングの違いは魔力量でなく反射神経。

但しそれが2つあった。

1つはアリア。なら、もう1つは?

「リク!!今!?」

振り返って叫ぶと、生真面目な長男は茫然と自分の両手を見つめながら、

「出来ちゃったみたいです、僕にも」と呟く。

リクが結界魔法を成功させた。

27トンの水、1万人の足元をすくう土魔法と同程度の魔力を持つリクは、気を失ったりはしていない。

結界が張れたなら範囲回復もオーケーだな。

規格外が過ぎないか、この子達?

「よし、次はリオに手加減教えなきゃ、だな。」

「手加減?」

「相手の顔回りにだけ水球を出現させて、1分くらいで解放、とか。2、3回繰り返せば逆らう気もなくなるし。」

「リンさん・・・」

「いちいち物騒なのよ、あんたは。」

アリアに2発目のチョップをいただいた。

「突っ込みついでに」と、アリアが言い出す。

「リンの魔力って、『火』じゃない?」

はい?何を言い出すんですか、お姉ちゃん?

わたしの魔力って、身体強化したり、見えない硬い何かになるから鶉の首を切断したり、結界になったり、索敵魔法に使えたり、物を持ち上げたり・・・

「色々使える便利魔法じゃないの!?」

「いや、見てると肯定したくなるけど、でもさ。」

「?」

「リンってよく、赤くて透明な魔力って言ったよね、自分のこと。」

「うん。」

「で、出すと透明になるって。」

「うん、そう。」

「なら、透明な魔力のみを使っていたってことじゃないかな。赤いのは別にある・・・」

「?」

「2種類の魔力持ち・・・ダブルなんじゃないかな?」

そう言われてみれば、である。

あの日、アリアに病気を治して貰った日、初めて自分の魔力に気づいた。きらきら光る透明な赤。そう言う赤だと思っていたが、最初から2つあった、赤い方は使えていなかったとした方が『法則』がある。

緑は回復、黄色は土、青は水。

となれば、赤は火である。

で、実験することにした。

まだ本調子でないサリアと気絶中のリオを2人に預け、わたしはサリアが地面をズタズタにしたあたりまで移動する。

もしかしたら初めて使う魔力かもしれず、何があるかわからないから距離をとって貰ったのだ。

体の中から魔力を出そうとすると、いつも通り『透明さん』が出てこようとする。それを押しとどめ、あえて赤だけに集中し・・・

不意に変化が訪れた。

リオやサリアで見たあの現象だ。『透明さん』に遠慮してもらった途端、赤い魔力が体に満ちる。体中から赤い何かが立ち上る感覚(スーパー〇イヤ人かよ)・・・

丁寧に、なるべく小さく指先に灯す。

炎のイメージを与えた瞬間!!

ゴーッ!!と音がして、上空数10メートルに火柱が吹き上がった。

赤、『火』だったみたい。

「火炎放射器かよぉ!!」

大声を上げると、

「火炎放射器って、何さ!?」と、アリアが返す(律儀な突っ込み)。

赤を仕舞って、続いていつもの『透明さん』を出した。

わたしにしか見えない、巨大で硬い壁を作り、それを乱切り地面に叩きつけた。

「じゃ、こっちは何なのさぁ!?」

地面が砕ける。土埃が舞う。

半分やけくそ、遊びみたいな行動だった。

ただ、地面はサリアによって既に掘られていて、だから埋まっていたそれが衝撃で顔を出した。

目の前に飛び出してきた、丸い、数枚の円盤に意識が集中する。

「知らないわよ」と、律儀なアリアの突っ込みが遠くに聞こえた。










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