第31話 魔法少女イエロー参上(戦隊ものと混じってる)

その朝、信じられない事が起きた。

悪徳商会を懲らしめた翌日、私達は可能な限り早く朝食をとり、宿を立つことにしたのだが、

「なんだ、忙しいんだな。頑張れよ、お前ら。」

結局最後まで、どこかの町のお使いだと思っていたのだろう、受付の男がお土産をくれた。

朝食でも出た大きなパンを人数分。塩パンで、丁度季節だからかトウモロコシが入っている。甘い実とパンの塩気が合わさって、すごく美味しいかったから嬉しかった。

「うわぁっ!!ありがとう、おじさん」と、一同ドン引きの愛想の良さでリンが両手を差し出すと、その場でお土産が倍に増えたよ。

宿を出たところで本人悶絶。見た目と行動を合わせたらしい。ダメージ食うのに、馬鹿だな、もう。

そのまま開いたばかりの門をくぐり、街道に出てから違和感に気付く。

ふと振り返ったシダナの壁が・・・

「あれ?」

どこも壊れてないのである。

昨日、リンが崩したはずの亀裂がない。まるで全てが夢だったように、当たり前に朝日を受ける姿に、

「どうして?」

「昨日リンさんが壊したはずなのに?」

「あれぇ?」

戸惑っているのは、私と、リクと、リオ。

「・・・」

「・・・」

リンとサリアは目を逸らした。

思わず詰め寄る。

「またぁ!!何やったのよ、リン!?」

「いやさぁ、それがすごいことが分かったんだよ、アリア。」

「?」

「黄色の魔力・・・」

「・・・」

「土だった。」

話は数時間前にさかのぼる。


まだみんなが寝静まっている真夜中に、リンは宿を抜け出たらしい。

昨日は頭に来ていたし、思い切り壊してやった壁だったが・・・

自分が森の巨大生物を恐れる必要がないだけに分からなかった。町の人々の、口から魂が出そうなまでの驚愕に、少しやり過ぎたと反省したそうだ。

律儀というか、優しいというか、直せるものなら直してやろうと思った。

夜中なので門は閉まっていたが、自分が開けた第2門(ただの亀裂)がある。

隙間を通り壁の外に出たリンは、しかし、少し困ってしまう。

「うーん、どうすれば直るんだ?」

リンの魔法と土木作業の相性が悪い。亀裂を埋める以上、大きな何かを持ち上げられる力で土を入れることなら出来そうだが・・・

所詮土壁、強度が気になる。

町の周囲の土壌は粘土質で、いわゆる焼きが必要と分かるが・・・

土をレンガに変えるような、そんな都合のいい力はない。

『石を切り出して石壁に』とも思ったが、正確にち密に積むなど性格上絶対無理。

「うわ、これ詰んでる?」

思わず呟くと、

「リンちゃん。あれ、直したいの?」と、予想外の返事が返った。

「えっ!?サリア!?付いてきてたの?」

「うん。」

こっくり頷くサリアは、何故か出会った当初からリンを気に入っている。気付くと付いて回っていて、姉としては若干教育に悪い気もするが、こればかりは仕方がない。

この夜も抜け出すリンを察知して、後を付いて行ったのだ。

索敵魔法で周囲を確認、安全を確かめてから、

「うん、直したいんだ」と、リン。

「わかった」と頷いたサリアに、

「!?」

リンの方が驚いた。

魔力はリン以外見えない。

まだ使い方を知らないサリアの中には、黄色の魔力が渦巻いていた。胸のあたりで留まっていた。

それが体に巡り始める。

サリア自身から黄色の魔力が立ち上り始め、

「えい」と呟いて、座り込んで土に触れた。

瞬間!!

ザザッ!!と言う音と共に、サリアの目の前の地面が25メートル四方、深さ1メートルくらいまでサラサラの土になった。

粘土質の地面が一瞬で、である。

土にはサリアの魔力が染みているようで、薄く黄色く光って見える。

サリアが手を挙げると、そこに合わせて土も浮き上がる。フワフワと浮かび、亀裂を埋めた。

隙間なく埋まったことを確認したサリアは、

「ふっ」と息を吐くしぐさの後、追加の魔力を流し込む。

リンの目には壁が輝いたように見え、そして・・・


「で、あの通り。性質まで変化させたんだよ。」

土壁だった筈なのに、1枚岩ならぬ1枚レンガだ。

サリアの魔力は土に関して万能らしい。完全に壁を直してしまった。

今は誇らしげに胸を張り、リンに頭を撫でられている。

でも、これで合点がいった。

「なるほど。それでここに来たのね?」

今私達は街道を離れ、森の一歩手前まで来ている。ここまで来れば他人に見られることもない。

「うん。試したほうがいいと思って」と、リン。

「あれだけの作業をして、まだまだ余裕そうだったんだよ、サリア。」

以前、兄弟の魔力は私達よりは小さいと言ったリンだったが・・・

この子達も規格外の匂いがプンプンするよ。

「じゃ、ここなら誰にも見つからないし。思い切りやっていいよ、サリア。」

「・・・(頷く)」

サリアは両手を上にあげ、そのまま座り込みながら振り下ろす。

両手が地面に触れた瞬間!!

ザザザザッ!!と音がする。

サリアの前の幅10メートル、深さ2メートルほどの地面が乱切りになる。

乱切りって・・・野菜の乱切りだと思えばわかりやすい。大きさや形は無作為で、ガタガタに切り取られ盛り上がる地面。

それが津波のように走り抜け、遥か彼方まで続いていく。

視認できない。1キロは固い。

「???」

驚き過ぎて声が出ない。

ナニコレ?一体?

こんな魔法使い祖母にも聞いていないし、規格外が過ぎて・・・

呆然として動けない。

「これ、やばくない?」

辛うじてリンが言葉にしたその時!!

パタンと軽い音を立ててサリアが倒れた。

「うわーっ!!サリア!?」

「どうしたの、姉ちゃん!?」

「サリア!!」

一同大騒ぎになる中、祖母の言葉を思い出していた。

死ぬまでの3日間、知る限りの魔法の知識を伝えてくれた。

これ、たぶん、

「魔力切れだ。」

思わず呟くと、リンが1番パニックしてる、サリアを抱きかかえながら半泣き状態、

「魔力切れ?」と、オウム返しに聞いた。

ったく、優しくて、面倒見がいいんだよな、この子は。

「大丈夫。前に婆ちゃんに聞いたことがあるよ。魔力をゼロまで使い切ると、体がだるくて動けなくなるって。休めばすぐに治るけど、大変だから考えて使いなさいって、そう言ってた。」

子供というか素直というか、サリアは本当のギリギリまで力を出し続けたのだろう。

すごいな、天災レベルだよ、これ。

地面ガタガタ。

「良かったぁーっ、治るんだぁ。」

ホッとしてへたり込んだリンの頭を撫で、

「じゃ、あっちの木陰で休もうか。リク、リオも、お出で」と、残る2人にも声をかける。

森との境界、巨大樹の陰に移動した。








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