第30話 越後屋を懲らしめろ

本当に今回の敵キャラ達が残念でならない。

ため息を禁じ得ない、イチイリンです。

実は彼らが付けてきているのは、洋品店に入る前から知っていた。それも索敵魔法を使ったわけじゃなく、普通に見えてた、下手くそで。

ちょっと君達!!評判悪い商会の荒事担当なんだから、一応はプロでしょ!?

見えなかっただけイワーノの下衆男の方がましである。酷い尾行だ。

洋品店を出たら待たされてイラついたのか、殺気駄々洩れだし。

本当に馬鹿じゃないのか?

あと複数で人を襲うなら、せめて挟み撃ちにするとか工夫しろ!!雁首揃えて背後から来るな!!普通逃げられるぞ、これ!?

「アリア、後ろから4人・・・1人付かず離れずのがいるから、もしかして5人。」

「ん。」

「まあ、わたし狙いらしいから大丈夫だろうけど。万が一アリア、リク、リオに攻撃がいったら結界張って。」

「わかった。サリアはいいの?」

「うん。試してみたいよな、サリア?」

「・・・(無言で頷く)」

なんて具合に、打合せする余裕すらあった。

今彼らは躊躇い中だ。

本人達に言わせれば、

「機会を窺っていたんだ!!」と言いそうだが、機会なんて永遠に来ないよ。

夕方の人通りを気にしているようだ。

しかし、わたし達の宿と現在の位置を考えれば、絶対に小道なんかに入らないとわかる。

えっ!?待って!?

宿の位置調べてないわけじゃないよね!?まさか知らない!?馬鹿なの、マジで!?

そうこうする内に、町の門が近付いてきた。宿まであと10分も掛からない。人通りは減らない。

どうするのさ、一体!?

「ちょっと待て、ガキども!!」

結局じれて飛び出したのは、わたし達を騙そうとした受付の男だった。

振り返ると、荒事担当と言うより『拉致責任者』なのかな?決して格好いいとは言えない弛んだ体の受付と、その用心棒なのかな?筋肉質の屈強な男達が3人いる。

「俺はズルタン商会会頭の長男、カイジ・ズルタン!!」

名乗るのかよぉ???

「その黒髪の娘に用がある!!」

・・・

呆れ過ぎて反応できないわたしに代わって、

「妹に何の用です!?」

アリアが乗ってあげている。

アリアさん、セリフ、棒読みですよ。

「お前の妹は魔力持ちだろう!!」

「あ、はい・・・(棒)」

「魔力持ちは我がズルタン商会が雇い入れる!!」

「そんな横暴な!?(棒)」

「うるさい!!魔力持ちは我が商会で下働きで働かせる!!お前らに自由意思はないぞ!!」

うん、色々話してくれたな、受付君。

いっそ清々しいほど馬鹿だな、こいつ。

あと、町の人々の反応もわかった。

明らかに子供が大人に絡まれている。無茶な理屈で縛ろうとしているのを見てわかっていて、彼らは諦め目を逸らす。

助けようとせず自身の安全を優先した。

なるほど、そういうスタイルか。

本来ならもう少し泳がせて情報収集でもよかったが、用心棒達の発言で気が変わった。

「なあ、御曹司。あの姉ちゃんの方も」と、用心棒A。

「かなりの上玉だな。」

「あれは売れるぞ」が、B、Cだ。

「ああ、確かに。あれは商売に・・・」

受付のセリフが終わる前に、

「アリア。ムカついたから行ってくる」が、わたし。

「キレないでね。」

もちろんOK。キレてるけどね。

人を人とも思わない、人を物だと思っている輩は死なない程度に成敗します。

森での鍛錬の成果だ。超絶パワーの肉体を徐々にコントロール出来るようになった。

10メートルほど離れていた距離を一瞬で詰め(ほぼ瞬間移動だ)、用心棒ABCに当て身を食らわす。

かなり手加減しているが自動車事故くらいの衝撃はあったと思うよ。3人は数10メートル吹き飛んで、道に大の字に伸びている。あばらの数本、折れたかもしれん。

受付の男の目線では、何が起きたかわからないまま衝撃波に近い空気の動きを感じ(わたしを目では追えていない)、気付いたらお仲間全滅というところか。

「えっ?・・・何が・・・?」

視線をきょろきょろさせて狼狽えている男を、

「で?わたしに何の用なの?」と、ゼロ距離から睨み上げた。

意図して叩きつけた殺気に、受付はアワアワと腰を抜かす。

その場に座り込んだ瞬間、

「サリア!!」

「はい!!」

5人目が飛び出してきた。

「馬鹿か!?貴様は!!」

うん、そこは同感。

「魔力持ちを相手にする時は念には念を入れるんだ!!人質を!!」

取ろうとしたのは、壮年のおっさん。背後からサリアに飛びかかろうとした、少し頭が薄い彼、後で聞いたら商会の支店長だったらしい。

でも、残念だったね。

サリアはきっちり仕込んであるよ。

「うごっ!!」

ベストのタイミングで、サリアの肘鉄が決まった。鳩尾直撃。飛び掛かろうとした自身の体重と勢いも載せて、吐きたいくらい効いたと思う。

体制が崩れた瞬間を見逃さず、サリアが腕を決めて背後にねじる。

「ぎゃーっ!!」と叫び声をあげ、幼女に跪く(ただし後ろ向きだが)いい大人の図が完成した。

「よし!!ナイス、サリア!!」

「・・・(誇らしげに目を輝かせる)」

「すごい!!姉ちゃん!!」がリオで、

「・・・」

妹の行動に頭を抱えたのがリク。

「何てこと教えてるのよぉ!!」

あ、アリア、キレた。

「いや、だって・・・みんな、戦闘力皆無だからさ・・・その・・・」

しどろもどろになる。

「だからって、あえて女の子に何させてんのよ!!」

「いや・・・その・・・」

やばい、お説教モードになりそうだ。

「まあまあ、ほら、一応この場を納めなきゃ。」

全力でごまかし、向き直る。

今この場にいるのは、伸びてピクリともしない用心棒ABCと、腰を抜かしたままの受付、幼女に制圧された支店長と、野次馬多数(シダナの町の人と旅の途中の商人達)だ。

「お察しの通り、わたしは魔力を持っている。で、魔力持ちをまるで奴隷みたいに思っている、あんた達商会は気に食わない。

でも、(周囲を見て)明らかにいい大人が女子供に絡んでいるのに、助けようともしないあんた達も、同じ商人が下らないことやらかしてるのに、見て見ぬふりのあんた達も気に入らない。

全員に罰を与えようと思う。」

宣言して、飛び上がる。

従来の門から、向かって右に30メートルほどズレた位置だ。

『まさか!?あの壁は50メートル!!』のセリフは聞こえなかった(実際20メートルくらいか?)。

今のわたしの能力ならさらに上まで飛び上がれる。そのまま壁に踵落とし一閃。

実際のところ、『踵』を使ったわけじゃない。いつもの出すと透明になる魔力で巨大なギロチンを作り、足を振り下ろす勢いを載せて壁に叩きつけたのだ。

瞬間轟音とともに壁が崩れた。

「きゃーっ!!」

「壁がぁ!!」

叫び声が上がる中、もうもうとした土ぼこりが収まった後には。

本来の門のその横に、幅2、3メートルの細い通路が完成した。見事町の外まで続いている。ケーキ入刀、大成功!!

この世界の生命線は『壁』だ(進撃かよ!?)。

身を守る唯一の手段が壊れたことにへたり込む人々に、

「門が1つ増えただけだよ」と冷たく言う。

そう、これが彼らへの罰。

そして、

「あんた達商会がこの壁を直す。直るまでの警備も出す。金で解決してやるって言ってんの。優しいだろ?」と、相変わらずサリアに屈服中の支店長に言うと、

「なんでうちが!?」と抵抗した。

うん。元気がよくて何より。

でも、いつまで続くかなぁ?

「じゃ、これ見て決めて。」

受付の男の襟首を掴んで持ち上げる。

「えっ?・・・ふわっ?」

「君のことは結構ムカついてるんだよね。騙そうとしてくれたし。」

「ええっ!?」

そのままピッチャー投げで放り投げた。

人間をピッチャー投げって、すごいな、わたし。

コントロールもなかなかで、受付は新しくできた門(わたしの作った亀裂です)の間を通って飛んでいく。

何の準備も覚悟もなく、しかも街道からズレた壁の外に放り出された受付は、

「ぎゃぁぁぁっ!!」と奇妙な叫び声をあげた。

直後傷だらけ、埃まみれになって、正しい門から戻ってきたよ。顔中涙と鼻水でグジュグジュ。

捕まえて、また投げる。

また戻って来る。

うーん。そういう玩具みたい。

更に投げようとして、

「はい。やり過ぎ、リン」と、アリアに後頭部を叩かれる。

えーっ?もう?

よく見れば受付、着地に失敗したのか手首折ってる。

しょうがないな。この辺で勘弁してやるか・・・

受付を下ろすと、アリアが軽く手を振った。わたしには緑の魔力が見えているが、周囲にはただ『手を振った』、それだけなのに。

一瞬で受付の体が治ってしまった。

見物人多数のこの状況で!?こっちの方が数倍ヤバイ。

「ちょっと、アリア!!」

「いいよ、もう。ここまで目立ったら大差ないし。」

「私のことはリンが守るでしょ」と、肩をすくめて見せたアリアは、伸びている用心棒ABCを順番に癒しながら(さすがに範囲回復は避けた)、

「見ての通り、私は回復の魔法使いです。妹はパワー系の魔法使い。ただ治せるということが決して救いではない、あなた達にとって地獄の始まりだということをご理解ください」と、淡々と言った。

オッケー!!超理解!!

「じゃ、アリアが治してくれるなら、おっさん行くか。」

支店長の襟首を掴む。

「年寄りだし、致命傷負いそうで避けてたんだよ。」

自分の運命が理解出来た。

顔面蒼白になった支店長が、

「わかった!!うちの店が壁は直す!!警備も出す!!」と、大きな声で誓った。

誓うしかなかった。


これほどの大騒ぎなのに、仕事柄野次馬に行けなかった宿屋のスタッフには元凶だとバレなかった。

「何があったんでしょうね?」と、とぼけながら夕食をとる。

メインのポークソテーと、付け合わせの温野菜。クリーム系のスープもついて旨かったよ。

主食はパンだ。白ではないが、黒というほどでもない、小麦に雑穀を混ぜたパンで、噛み応えがあり上々だ。

明日は早くに朝食をとり、面倒になる前に出発しようとみんなで決めた。


そして翌朝、ズルタン商会シダナ支部の事務所で。

支店長は早くから書類づくりに追われていた。

実は昨日から帰っていない。壁の修理費、警備隊の人件費をねん出するしかなく、本店にも掛け合う必要がある。

なんでこうなった?

理由は十二分にわかっていたが、

「くそう・・・なんで俺がこんな目に・・・」とだけ繰り返した。

ただ1つ希望はある。

今回発見した姉妹は、魔力持ちなんてものじゃない。王宮にだっていないレベルの、完全な魔法使い、しかも規格外の存在だ。

平民よりはものを知っている支店長にして、パワー系の魔法使いなんて存在すら知らないし、回復魔法も骨折まで一瞬で治すレベルとなると、王宮ですらトップレベル・・・と言うか、完全に頭1つ抜けた存在だ。

せめて金に換えようとするのが商人の常だったが・・・

「支店長!!大変です!!」

「なんだ!?」

「外を!!」

最初に出勤してきた事務員に言われ確認した。

窓の外には壁が見える。

昨日の亀裂が見えるはずが・・・

「あの娘達のことは本店にも言うな。かん口令を引き全員に徹底させろ。」

手を出してはいけない存在だと理解したのだ。


















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