第28話 越後屋は悪企む
「何をやっているんだ!?貴様は!?」
頭ごなしに怒られて、ズルタン商会受付の男、カイジは腑に落ちない。
腑に落ちないどころかあからさまに不満が顔に出てしまい、
「なんだ!?その顔は!!」と、支店長の怒りを増幅させた。
カイジ・ズルタン、25歳。名前からもわかるように、ズルタン商会、会頭の長男だった。
ただ会頭自身、
「後は1番優秀な者に」と公言しているし、妾腹まで数えれば男兄弟のみであと5人、女も入れれば9人もいる兄弟の、ただ1番上なだけ。
彼の将来は全く約束されていないし、次男と長女は王都の支店で、3男と4男はスルハマ本店で見習いを始めている。シダナ支店の受付に足かけ9年も放置されて、通常の聡さがあれば先行きの危うさに気づくはずが、カイジは全く気付いていなかった。
この男、自分を高く見積もる天才である。
大体が、商人の基本は『安く仕入れ高く売る』ことだ。
平たく言えば、難癖をつけて『相場以下で買い叩き』、付加価値を捏造して『相場以上で売り捌く』。これがズルタンのやり方だ。
王魚自体珍しい商品だが、ズルタン商会ならば年に数体は取り扱う程度だし、チャレンジしての失敗をとやかく言う支店長に辟易としていると、
「本当に気付かないのか、お前は・・・」と、ため息をつかれた。
「あの小娘、完全な魔力持ちだろうが。」
「あっ?」
「王魚の干物なんだけど」と、昼前に店を訪れた子供達。
まずはその顔立ちの美しさに、続いて王魚そのものに目を奪われて、今の今まで失念していた。
彼女は確かに異常だった。馬車が引くような量の荷物を、当たり前に担ぎ上げた。超パワーだ。
え?でも?
「魔力持ちは、水道と契約しか知りませんが。」
『水道』と言われる、旅には必須の飲み水を生み出す魔力持ち(水は重いから、持ち歩かなくていい、それだけで価値がある)。
『契約』は、なにがしかの約束事を結ぶ際特殊な『呪』をかけ絶対の履行を強いる魔力持ちだ。
あとは王宮や貴族が抱えている回復魔法使いと、それよりは弱いので『痛み止め』と呼ばれる、商会所属の魔力持ち。
精々この程度しか知られていない。
「はあ」と、ため息をついた支店長が教えてくれる。
「魔力持ちは絶対数が少ない上、分かっていない事の方が多いんだ。少なくともあの小娘の力は人知を超えていたし、王宮に隠されていないのなら手が出せないほどに強力なことはないだろう。」
「・・・?」
「あれ1人手に入れれば、どれだけの輸送の節約になる?どれだけ役に立つと思う?」
ここまで言われなければわからないのがカイジの愚鈍さであり、支店長が『外れくじを引いた』と頭を抱える理由だった。
「ああ!!そうか!!」
やっと得心がいったカイジに支店長が命令する。
「あの小娘を捕まえてこい。何人か連れていっていい。」
悪名高い商会だから、当然荒事担当も雇っている。
屈強な男3人を連れて、カイジが外へ駆け出して行った。
残された支店長は、
「・・・会頭、いい加減あいつを連れて帰ってくれないかな」と、ぼやいた。
この時点のわたし達に知る由もないが。
越後屋(時代劇で悪代官と一緒にいるいかにもな商人だし)ズルタン商会が悪企みをしている頃、わたし達は宿を探していた。
宿も、旅する商人への利便性なのだろう、大概出入口の周辺にある。
今は通常の(?)力持ちくらいになったわたしだが、これ以上無駄に目立つのはよくないので荷物を置いてしまいたかった。
しばらく道を歩き、
「ここ!!」と、アリアと同時に指さす。
「なんで?」と、リクが不思議そに首を傾げた。
甘いな、リク君。宿とは飯だ。旨そうなにおいがしたからに決まってるじゃん。
この点でも、わたしとアリアは気が合っている。
そう言えば、移動中に屋台で昼飯は済ませたよ。1個大銅貨2枚の肉マン的な何か。だいぶ貨幣価値がわかってきて、おそらく200円相当だろう。子供の・・・リオの頭くらいあるボリューミーなサイズだ。
塩豚角煮マンと、同じ角煮がトマト味で煮込まれているもの。2種類あったから2個ずつ、全部で10個お買い上げ。銀貨2枚を支払った。
ペロッと平らげたのは、『大きくなります』のリクと、もとより痩せの・・・と言うより『ちびの大食い』なんだよね、わたしくらいで。
「無理なら食べるからよこしなよ」と言うと、食べれない時期が長かったからか、困り顔のサリアとリオに、
「大丈夫だよ。リンちゃんを信じろ。この先も絶対、腹いっぱい食わせてやるから」と笑うと、2人ともパッと顔が明るくなった。
サリアが半分くらいまで食べた塩豚マンと、リオが1口かじってギブアップしたトマト豚マンをもらう。
アリアも3分の2くらい残ったものをリクに頼んでいたし。
うん。なかなか兄弟らしくなってきた。
選んだ宿では、アリアの顔を見てのぼせ上ったおっさん受付が、
「5人1部屋なら、ちょっと広めの部屋がある。1泊大銀貨1枚だ。夕食と朝飯は付けとくから、1階の食堂でこの木札を見せろ」と、人数分の食事札をくれた。
本当なら別料金らしい。美人ズルい。
部屋は3階の奥にあり、なかなか広めの部屋だったよ。
「いいなぁ、アリア。やっぱ美人得だわ。」
からかい半分のセリフに、買い過ぎ昼飯の恨みだろう、
「もう!!リンは無自覚過ぎ!!」と、アリアさん、キレる。
「は?」
「リンも同じなの!!リンの場合小柄だからよけい庇護欲そそるっていうか、『俺が守ってあげなきゃ』ってタイプにめちゃくちゃ目をつけられてるの!!」
「はい?」
「なんで敵とか獣には敏感なのに、男性には超鈍感なのよ・・・」
頭を抱えるアリアに、
「わかってなかったんですか」と、心底驚いているリク。
「うん。」
「ねえ」と、サリアとリオまで頷いていて(君らマセ過ぎ)。
えっ!?ちょっと待って!?
わたしって、そんな外見なの!?
本物の家族と一緒にいたときは格闘命、『強さ』にしか興味がなかったし、今も『アリアはからかう』それだけで、他人の美醜に興味はない。
えっ・・・でも、それって・・・
わたしって、
「リンには出来なーい♡誰か手伝ってぇ♡」みたいな甘い声を出せば、
「俺が。」
「いや、僕が」みたいに、男がわらわら寄ってくるってこと?
えっ?ぶりっ子?(古い!)
ぎゃーっ、1番嫌いなタイプだわ。
恥で死ねそう。
耳まで真っ赤になった。顔が・・・と言うより頭のてっぺんまで熱くなって、そのまま座り込んでしまう。
珍しい反応に一同寄ってきたよ。
「アリアさん。」
「なんで『さん』付け?」
「わたしって、そんなタイプですかねぇ?」
「なんで丁寧語?うん、そうだけど。」
「うわぁ・・・」
この世界で目が覚めて、今が1番ダメージを受けている。
「よしよし」とリオに頭を撫でられた。
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