第23話 魔力に振り回された人々へ
その日俺は機嫌がよかった。
あの気持ちの悪い子供達は始末した。今頃獣の腹の中だ。心の底からさっぱりした。
次男と次女は、長男のポム、長女のシアンとは全然違う。俺と妻の子とは思えない。生まれた時から気持ちが悪く、自分の子では無いと言うより、人間の子とも思えなかった。
ひどく異質だ。
生まれた瞬間殺さなかった事を後悔したが、以後は奴隷としてこき使ってやったから損得無しというところか。
まだ気持ちの悪い3男が残っているが・・・
これも使うだけ使って捨てるだけだ。
早く家族だけで幸せに暮らしたいと思っていた。
兄と姉(次男と次女のことだ)を探してぐずる3男を、10数回拳で殴りつけたらおとなしくなった。
まあ、この程度では死なないだろう。
殺すなら、手を汚さずに森に捨てる。
その前にもう少し働かせねば割に合わない。
家族で夕食を済ませた。今晩は邪魔者がいなくなった記念である。少し豪華に鶏肉を煮た。ポムもシアンも『うまいうまい』と喜んで食い、調理した妻もにっこり笑う。最高の団欒だ。3男には残った骨を投げ与えた。
子供達は部屋に入り、妻は奥の寝室で片付け物をしていた。
俺は床に転がる3男を視界に入れないようにしながら、食後の1杯を楽しもうとグラスに酒を注ごうとし・・・
瞬間!!
バーン!!と大きな音がして、家のドアが吹っ飛んだ。驚いて見ると、そこに小さな人影がある。
「お前は!?」
一瞬気持ちの悪い次男かと思った。立ち上る雰囲気が似ている。背格好も。
しかし、この夜の訪問者の方がより気持ちが悪く、濃厚な気配をまとっていた。
「誰だ、貴様!?」
黒髪の少女だった。ゾッとするほど綺麗な顔立ち。異常な圧力に飲み込まれる。
少女の瞳が床に転がる3男に止まった瞬間、目に見えない何か(壁?)に押され吹き飛ばされる。
全身を圧迫されて、台所の壁に宙づりになる。
近隣の町の兄妹の生家を訪ねた時、床に倒れていた幼児の姿を見て逆上しかけた。
ふざけるな!!自分の子供になんてことするんだ!?
どうしようもない苛立ちを叩きつければ、わたしはこいつを殺してしまう。
ブレーキを踏む。
それをしたら帰れない。
アリアのもとに帰りたい。仮初の家族でいい。わたしは家に帰りたい。
必死のセーブで、虐待親父を魔力の壁で磔にした。結界魔法の応用だ。強くなり過ぎた身体能力をセーブするより、魔法のほうがコントロールしやすい。
現実の壁と見えない魔力の壁に挟まれ、男は宙づり状態だ。さぞかしあばらは軋んでいるだろうが、その程度は勘弁してもらおう。
ろうそくの明かりのみの室内は薄暗く、具合が確かめ難かったが・・・
名無しの弟に致命的な怪我はないようだ。顔が酷く腫れている。
帰ったらアリアに回復魔法をかけてもらおう。
「じゃ、帰ろ。」
少年を抱き上げた時、奥の部屋から女が飛び出してくる。
「あなた!!何があったの!?」
ああ、これが虐待母か。驚愕に満ちた顔、暴漢にでも襲われたと思ったのか、見事な被害者面にカチンときたが。
・・・耐えた。
魔力を放ち右足を折る。
叫び声をあげ崩れる彼女に、
「大丈夫。キレイに折ったから。1か月くらい不自由なだけ」と、親切に囁いておいた。
「お父さん!!お母さん!!」
「パパ!!ママ!!嫌ぁっ!!」
続いて出てきた子供達は、さらに優しかった自分を褒めたい、魔力で横っ面を引っ叩いた。多分歯が折れた程度で済んだと思うよ。
ギリ、コントロール出来てる。偉い、わたし。
足が折れているから動けない母親、理解不能過ぎて動けない子供達を改めて見ると・・・
うん。この3人には魔力はない。
視線を移す。磔になっている父親は?
声も出せない、苦悶の表情を浮かべる彼には小さな魔力の残滓が見える。
わたし、アリア、わたし達が拾った彼の息子と娘、そして今わたしが抱き上げている年少の息子にも魔力がある。胸のあたりで青が渦巻く。
しかし、その父親には?
胸ではない、随分低い位置にあった。所謂『下腹部』だ。そこに意識しないと見落としかねない、小さな小さな魔力の残滓が渦巻いている。色がはっきりしない。黒くも見えるし、虹のように混ざっているようにも見える。
なんとなく理解した。
つまり彼には、魔法使いを生み出す力があるのだ。
魔法使いは血によって左右される。血筋が重要なファクターで、わたしやアリアみたいな野良の魔法使いは稀有の存在、それを生み出す家(多くは貴族らしい)に生まれることが多いらしい。
虐待父がどんな系譜の人間か知る由もないが・・・
彼の魔力は精巣にある。自ら知らずに魔法使いを孕ませ、自分と違うと虐待する。
愚かにもほどがあるが・・・
因果をここで切ろうと思う。
魔力を放出し、男の体をすり抜けさせる。現代知識万歳だ。体内で探り、所謂パイプカットだ、子供が作れないようにした。
これ以上、不幸な子供が生まれないように。
「じゃ、1番下は貰っていくよ。」
何をされたかわかっていない、宙づりでもがくだけの男に言った。
「あとは、あんたが認めた家族だけで生きるといい。でもね、」
押さえていた魔力の壁から解放し、床に座り込む男だけに小さく真実を教えてやる。
平民でも魔法使いの希少性、下世話な言い方をすればいかに大金を生むか、わかっている。
だから教えた(意地悪!)。
捨てた2人は魔法使いであること。今連れていかれる少年も魔法使いであること。
魔法使いを生み出す稀有な能力を持っていたことと、永遠にそれを封印されたこと。
虐待父は愕然とし、
「戻せ・・・戻せ・・・」と慟哭した(知らん!)。
妻と大切な2人の子は意味が分からず呆然としていたが、そのまま家を後にした。
「兄ちゃんと・・・姉ちゃんは?」
移動中に少年が聞いた。
あの、家にいた方ではない、保護している方の兄妹とわかる。
「いるよ。わたし達といるから、一緒に帰ろう」と言うと、
「うん」と頷く。
前抱きにしていたが、ギュッとしがみついてくる。可愛いと思ってしまった。
町を出て森を目指す。
わたしの目には、深夜の森にアリアの緑の結界が見えている。
「ただいま」と帰っていくと、
「お帰り」と笑ってくれた。
帰ってきたよ。
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